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第24話「木琴の迷宮-1」

「始めに言っておく。これは試験であるが同時に実戦でもある。例え中に何が有ろうとも、どのような事態が起ころうとも中に居る諸君らのみで対応するしかないと心得ておくように」

 高さ2m、幅1m半程の鏡を前に並ぶ俺たちに対して鈴鳴教官が演説を振るう。

 対して演説を聞く俺たちは……色々だな。緊張している者が一番多いが、何てことは無いといった様子の者も居れば、異様なまでに昂っている者も居る。

 俺は……多少興奮していると言ったところか。

 あんな事もあったし、もう少し昂りそうな気もしていたが不思議と落ち着いている。


「加えて言うなら諸君らは英雄でもなければ歴戦の勇士でもない。最も優先するべき事は生き残る事であり、功を焦って無理をし、仲間を危機に晒す事こそが最大の失態と心得ろ。分かったな!」

「「「はっ!!」」」

 鈴鳴教官の演説に対して全員が敬礼をしつつ大きな声で返事をする。


「では、今から治安維持機構討伐班候補生第一部隊の正式入班試験を開始する!」

 そして俺たちはグループごとに『迷宮』の入り口と化した鏡に触れて『迷宮』の中に突入した。



--------------



「突入完了」

「周囲に敵影なし。味方の影も無し」

「何かの仕掛けが動作する様子も無しと」

 『迷宮』内に突入した俺、トキさん、ソラさんの三人は、木目の床に金属の筒が壁として並んでいる小部屋に飛ばされ、『迷宮』突入時の定石としてお互いに背中合わせになってから周囲の状況を確認し、何も起きていない事を確認する。

 どうやら『迷宮』突入直後に何かしらのモンスターに襲われると言う事態には遭遇せずに済んだらしい。


「さてと、これからどうします?」

「そこは定石通り近場から調べていくしかないだろう」

「無闇に走り回るのは愚策ですしね」

 ソラさんが警戒をしつつ小部屋の扉……金属の筒を並べて取っ手と蝶番を付けただけの簡素な扉に手を掛ける。

 同時に俺はスリングに弾をセットしておき、トキさんは不意討ちに備えて盾を構えておく。

 なお、『迷宮』内を調べる時は最初に何処へ飛ばされるか分からない上に、一通り探索したはずの迷宮であっても時折構造が変化して探索した意味が無くなるため、後ろから襲われるのを防ぐ意味でも突入地点の近くから順番に探索していくのが基本となっている。


「じゃあ、行きますか。扉の向こうに敵影などは一応無しです」

「「了解」」

「開けます!」

 ソラさんが扉を開けてその先の空間に飛び出して右手方向を確認し、それに続いてトキさんが飛び出して左手方向を確認、最後に俺が飛び出して何が来てもいいように右目に力を集め始めておく。


「アタシの前方に丁字路を発見。敵影無し」

「私の方は普通の通路が伸びているだけで行き止まりのようです」

「ソラさんが見つけた丁字路に警戒しつつ移動」

 俺たちが移動した空間は先程の小部屋をそのまま引き延ばしたような通路になっていた。

 ただ、片方が行き止まりで、もう片方が丁字路であるために移動先の選択肢はない。

 よって俺たちは丁字路の方に向かい、通路の角に隠れると顔だけ出して丁字路のそれぞれの先を確認する。


「右は十字路」

「左は少し進んだ後に左に曲がるのか」

「ちょっと待ってくださいね……十字路の方は交差地点に罠が有りますね」

「具体的には?」

「ちょっと距離が有るんで分かりづらいですけど、たぶん鳴子みたいな仕掛けだと思うよトキ姉ちゃん」

「踏んだらモンスターが集まってくる……か。解除は出来そうか?」

「アキラお姉様には申し訳ないですけど、『迷宮』の基礎部分に組み込まれている感じですから解除は無理だと思います。対抗策は音が鳴る場所を避けて進むぐらいじゃないかと」

「了解。なら左に向かおう」

「分かりました」

「了解」

 俺はソラさんの話から作動させない方がいいと判断して丁字路を左に曲がり、さらにその先の曲がり角の先を探ってもらう。

 曲がり角の先に有ったのは左右の壁に一つずつ付けられた扉と、人型のモンスター……ソルジャーと呼ばれている両腕が剣になっており、後は関節部と頭が太くなって他の部分は棒きれの様に細くなっているのが特徴のモンスターが一体俺たちが居る方とは逆の方を向いて立っていた。


「ソルジャーの核は頭だったか」

「はい。人間で言うなら目の位置に赤い結晶があったはずです」

「じゃあ、やっちゃいますか?他に敵影も有りませんから早くに始末した方が安全ですし」

「だな」

 俺たち三人は一度曲がり角から顔を引っ込めて打ち合わせを初め、曲がり角の先に居るソルジャーを倒す算段を付ける。

 そして俺が指だけでカウントを開始。

 3……2……1……0!


「凍れ!」

「ヒョ……」

 真っ先に曲がり角から飛び出した俺が右目の力でソルジャーの身体の一部を氷に変えて動きを止める。

 本音を言えば全身を氷に変えて仕留めてしまいたかったが、流石にモンスターはこの手の力に対する抵抗力がかなり高いらしい。


「アメノマ様!」

「タヂカラオ様!」

「ヒョオォ!?」

 続けて飛び出したトキさんが手に持った盾を強化しつつ突進してソルジャーの体勢を崩し、そこへソラさんが同様に強化を施したハンマーでソルジャーの頭部を粉砕してその身を土くれに変化させる。

 どうやらあのソルジャーは仕留めたらしい。


「やっ……」

「周囲への警戒を怠るな!素材を回収したら直ぐに移動するぞ!」

「了解」

「ひゃい!」

 が、ソラさんが無闇に喜びを表そうとしたので俺はそれを諌める。

 諌める理由は簡単。ここは『迷宮』なのだ。一瞬の油断、慢心が命取りになる世界なのだから間違っても通路の様にいつ何が出てくるか分からない場所で気を抜いていいはずがない。


「左右の扉は?」

「どちらも罠はありません」

「素材は」

「回収済みです」

「よし。右の扉を開けて中に移動」

 俺は二人の元に駆け寄り、その間に二人には左右の扉の調査とソルジャーが変化した土くれの一部を回収してもらう。

 俺も知らなかったように一般には秘匿されているそうだが、モンスターが倒れた後に変化するこの土くれは一部の神の力を使って加工することによって様々な装備や道具にすることが出来るらしい。

 そのためにモンスターを倒した後は回収できる範囲で土くれを回収をしておくのが薦められている。

 なお、この情報が一般に公開されていないのは欲に目が眩んで戦う力も無いのに『迷宮』に入る一般人が出ないようにするためだそうだ。

 確かに訓練を受けていなければモンスターはまず倒せないのでそれには納得する。


「また小部屋です」

「小部屋内に何も無いのを確認しました」

「とりあえず全員で中に入っておこう。安全第一だ」

「「了解」」

 トキさんが扉を開け、ソラさんが部屋の中に危険が無いのを確認した所で俺も含めた三人で部屋の中に入る。


「じゃ、念のために装備を確認」

「私の方は問題なし」

「アタシの方は……大丈夫です」

「俺も問題なし。それじゃあ一度深呼吸をしておこうか。先はまだまだ長いわけだし」

 装備の状態に問題が無い事を確認してから俺たち三人は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、身体を軽く休める。

 未知ばかりの状況と言うのは自分で考えている以上に神経をすり減らすからな。

 何が起きるか分からない以上は疲れを自覚してから休んだのでは手遅れになる可能性が高い。


「よし、それじゃあ続きと行きますか」

 俺の言葉に二人が頷いて了承の意を返す。

 『迷宮』探索はまだまだ始まったばかりである。

入班試験開始でございます

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