第23話「討伐班候補生-10」
「そう言えばさ」
「ん?」
「何ですか?」
「何ですの?」
田鹿姉妹ことトキさんとソラさんの二人と組み、相性が良かったのか三日ほどで第一部隊の中でもトップクラスの動きが出来る様になってきた日の夕食時。
俺はこの三日間で一応気づいたことが有ったので、その気づいたことが正しいかどうかを確かめるために二人に質問をすることにした。
ちなみに今俺たちが食事を摂っている場所は女子寮の食堂であり、一応はグループとしての集まりなのだが、穂乃さんとその取り巻きの二人も極自然に一緒の席について食事を摂るようになっている。
俺が女子寮の共有部分なら割と抵抗なく出入りできるようになったこともだけど、三日前までは穂乃さんとソラさんがいがみ合っていたのに普通に一緒に食事を摂れるようになっている辺り本当に慣れって怖いなぁ……。
まあそれはさておいてだ。
「二人の見分け方って雰囲気や装備以外だと黒子の有無で見分ければいいんだよね?」
俺はそう言いながら自分の首筋の辺りと右目の目尻を指差す。
トキさんとソラさんは双子であるためにその外見……黒い髪に赤茶色の瞳、イースと契約する前の俺より微妙に高い背、動くのに楽そうなサイズの胸などは変わらない。
が、生まれてからの差や契約している神の差なのかは分からないが、僅かに外見的な差や性格の差がある。
「正解です」
「あ、気づいたんですか。トキ姉ちゃんの黒子って位置がエロイですよねー」
「ソラ?」
「ひうっ!?」
トキさんがソラさんを睨み付ける。
今のやり取りから分かるようにトキさんは真面目で割と堅めな性格で、ソラさんは明る目で元気のいい性格であり、性格の差がそのまま表情や雰囲気にも表れている。
ただそれ以外にもトキさんは首筋に黒子が有り、ソラさんは右目の目尻に所謂泣き黒子が有ると言う肉体的な差異が存在している。
まあアレだ。困った時には泣き黒子が有る方がソラさんだと覚えておけばいいだろう。
トキさんの黒子の位置がエロイと言う話は……聞き流しておく。
「でも確かにトキさんの黒子はよく見るとエロイですわね。私今まで知りませんで……」
「穂乃さん?」
「!?」
今度は穂乃さんをソラさんが睨み付ける。
なお、三日前のグループ決めの時に説教された影響なのか、明らかに権力の強さの様なものが、トキさんが穂乃さんとソラさんの上に立つような形になっている。
実際あれだけの威圧をされたら身が竦むのには納得するけど。
「そ、それにしても試験まで後二週間を切りましたわね」
「ですわね。確か試験では適当な『迷宮』を探索する事になるはずです」
「最良は『迷宮』の破壊ですけど、最優先は死人を出さない事でしたわね」
「勿論、私たちのグループが目指すのは『迷宮』の破壊ですわよ。その点についてはアキラ様が相手でも負ける気はありませんわ」
と、ここで穂乃さんが多少無理矢理にだが話題を変える。
ただまあ、実際のところ今の俺たちが最優先するべき事項はそちらではあるか。
「まあ、誰が『迷宮』を破壊しても俺は気にしないけど、訓練で戦う人形と本物のモンスターの差は結構あるからそこは注意した方がいいな。油断したら普通に死ぬ」
「あれ?そうなの?」
「感覚的な部分の話になるから具体的にどう違うと言うのは言いづらいけど、別物なのは確かだよ」
俺は食事を進めながら、頭の中で実技訓練中に戦ったモンスターモドキ……それ専門の神の力で造りだした幻影と、実際に『迷宮』の中で戦った蛙……治安維持機構討伐班の名称でアンカーと言うモンスターを思い出してその差異を比べる。
なんて言えばいいんだろうな……そう、死の匂いとでも言うのかな。とにかくこちらをどうしようと言う気持ちの部分で大きな違いが有るような気がする。
あの匂いを嗅いで絶望しないでいられるかが戦士になれるかどうかの境目で、自棄にならないでいられるかが生き残れるか否かの境目だと思う。
現にあの匂いを嗅いで自棄になった契約前の俺はイースと契約することで実質的に死んだような物だしな。
だからじゃないけどこの考え方はそんなに間違っていないと思う。
「アキラお姉様なんかお顔が怖いです……」
「ん、ああごめん。ちょっと思い出しちゃってね」
「グレイシアンでしたか……」
「『ま、忘れるわけにいかない思い出ではあるかな』」
俺は以前イースが呟いた言葉をそのまま口に出す。
以前と言うのはアキラ・ホワイトアイスがグレイシアン出身と言う事になっているのを利用して聞けた情報を聞いた時の事である。
話をしてくれたのは治安維持機構の人間の一人で、表向きはイースでは無く俺がもたらしたグレイシアンが滅びたと言う情報の真偽を確かめに行ったそうだ。
その隊員曰く、
『グレイシアン上空では大型モンスターが何頭も飛び回っており、門から確認しただけだが殆どの建物は倒壊しかけだった。街中は大小様々なモンスターに溢れており、空から降ってくる雪と合わせて正に死の世界と表現するしかない光景だったよ』
との事だった。
そしてそれを聞いた後に俺はイースに対して心無い行動だとは思っていたが今後の為にも幾つかの質問をし、最後に返って来たのが先程俺も呟いた言葉だった。
そこに込められている思いの全てを俺が理解することは一生叶わないだろう。
だがそれでも一つだけ確かな事が有る。
「俺は絶対にモンスターも『迷宮』もその後ろに居る奴も許さないし、逃がさない。絶対にだ」
「「「……」」」
この思いだけはイースも俺も共通した思いだから自信を持って言うことが出来る。
「って、悪い悪い。食事時にする話じゃなかったな。ほら、早く食べないと冷めちまうぞ」
「あっ、はい、そうですね」
「もぐもぐ」
「そうでしたわね」
と、ここで俺は同じ席に居る人たちの箸を完全に止めてしまった事に気づいて、箸を進めるように言う。
さて、討伐班に正式入班出来るかどうかの試験。
出来れば全員無事に帰ってきてほしいものなんだけどな……。
■■■■■
「クソックソックソオォ!何なんだあの女どもは!」
一方その頃男子寮の一角では一人の候補生が、同じグループの男子二人相手に悪態を吐いていた。
「相変わらず荒れてるでやんすねぇ」
「まあ、結成三日目のグループ相手に近距離攻撃も遠距離攻撃も潰されてコテンパンに負かされればそう言う気持ちになるのは納得も行くがな」
「なに余裕ぶっこいてやがる!俺たちに余裕をぶっこいている暇なんてねえだろうが!」
悪態を吐いていた候補生がテーブルを思いっきり叩き、テーブルの上にあったグラスから液体がこぼれる。
「二週間後の試験の話でやんすか?」
「言っておくが最優先は生き残る事だぞ。持ち帰れた品や情報次第だが、それでも合格にはなるんだからな」
「るせぇ!俺は英雄になりたいんだよ!お前らだってそうだろうが!」
「ま、それはそうでやんすけどね。ただ、英雄になるにはそれ相応の策が必要でやんすよ」
「とりあえずお前はその短気を治せ。死んで英雄になるのはゴメンなんだろ」
「ぐっ……」
二人の言葉に悪態を吐いていた候補生は言葉を詰まらせる。
「……。ちょっと頭を冷やしてくる」
悪態を吐いていた候補生は心を落ち着かせるためにと部屋の外に出ると、風に当たるのにちょうどいい屋上に向かうために歩き出す。
「さあて、フォトンちゃんに呼ばれたから来たけど、ちょっと仕込んでおこうかなー?その方が面白くなりそうだし」
そして、そんな彼を誰にも気づかれずに暗闇から見つめる赤と青の光が……見様によっては一対の目のように見えるものが居た。
いつもの三人組ー
07/21脱字訂正