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第21話「討伐班候補生-8」

「さて、今日で討伐班への正式入班試験まで後二週間となった。」

「「(あの方が来てから一週間が経った)」」

 その日、治安維持機構討伐班候補生第一部隊の面々の間では妙な空気が流れていた。


「と言うわけで、今日は定例のグループ分けを行うが、今日のグループ決めはそのまま試験の時のグループになると思っておいた方が良いだろう」

「(今日まであの方は私に様々な面を見せてくださった。驕りに任せて挑んだ初日には圧倒的な力をもって私の驕りを正し、私の目を覚まさせてくれた)」

「(二日目にはその素晴らしい肉体美を惜しげも無く披露してアタシの目を釘付けにしてくれたんだよねー、ああ、良い胸だったなぁ)」

「(三日目の実技訓練中には走るのが遅れている子に対して気遣いの言葉をおかけになっていましたわねぇ。どちらも良い笑顔を浮かべていて実に絵になる光景でしたわね……)」

「(四日目にはアタシとお姉ちゃんの実技訓練の相手もしてくれて見事に撃ち破ってくれたんだよねー、あの攻撃を避ける時の臀部は目に焼き付いてるよー)」

「「(それからそれから……)」」

 確かに今日は『迷宮』内での基本活動単位となる三人一組のグループを決める日であり、しかもそのグループがほぼ間違いなく試験の時のグループになると言う多少特別な日ではあった。

 だがしかし、その程度の特別が霞むような空気が教室の中には溢れていた。

 主に穂乃オオリと田鹿ソラと言う二人の女子が発生源となる形で。


「(なんか寒気を感じるな……)」

『うーむ。今のアキラは氷を御するアイスバジリスクである我の力が有るから寒さには強いはずだぞ?気のせいではないのか?』

「(気のせいなのか?なんかすごく嫌なものが近くに居る気がしてしょうがないんだが……)」

『ふうむ……』

 そしてその妙な空気のためにアキラはいつ何が起きてもいいように構えており、隣の席に座る田鹿トキもそれに反応して咄嗟に動ける様に準備を整えていた。


「分かっているとは思うが、重要なのはグループ全体で出来る限り多くの状況に対処できるようにしておく事だ。極端なグループ構成にならないように気を付けろよ」

「(ふふふふふ、最初から狙いは唯一つです。だって試合で負けたあの日からずっと私は貴方様の力に、そして人柄に惚れ込んでしまって他の何も目に入らないんですもの)」

「(クスクスクス、最初から狙いは一つだって。初めて目にしたあの時からアタシの中にある何かが反応しまくりなんだもの。おまけにサーベイラオリ様も後押ししてくださっているし)」

 不穏な空気が高まっていく。

 だがしかし、不幸にもその高まりに勘付くことが出来た者はこの場に居なかった。


「では、いつもの様に三人一組でグループを組み始めろ!」

 そして鈴鳴教官の言葉と共に賽は投げられてしまい、教室に居る全員がグループを組むために立ち上がろうとした瞬間……


「アキラお姉様!アタシにトキ姉ちゃんの二人と一緒に組みましょう!!」

「アキラ様!私と組んでくださいませ!!」

「っつ!?」

 田鹿ソラと穂乃オオリの二人がアキラに向かって飛びかかり、アキラは田鹿トキと一緒にその場を飛び退こうとしていた。

 が、アキラが完全に飛び退く前に二人によってアキラは身体を完全に拘束されてしまい、飛び退こうとした勢いそのままに三人揃って地面に倒れ込む。

 そしてそつが無く動き、巻き込まれずに済んだ田鹿トキが三人を見下ろす中でそれは始まった。



■■■■■



 拝啓、お母様。お母様は元気でしょうか?アキラは女になってしまいましたが元気でした。今この時までは。


「あらあらあら、ソラさんてば随分とはしたない真似を……」

「それは穂乃さんもじゃないかなー……と言うかアタシの方が先に誘ったよね。退いて欲しいんだけど」

「あら、先にアキラ様の体に触れたのは私の方ですわよ。退くならそちらでは無くて?」

 今は何だかとっても泣きたい気分です。

 後頭部が痛いのも有りますが、それ以上に自分と同年代の女子が二人も自分の上に乗っており、同時に周囲の非難めいた目が自分に向けられていると言う状況がツラいです。


「穂乃さんはいつもの面々と組めばいいんじゃないかなー。ほら待ってるよ?」

「ソラさんこそいつもの様にトキさんと組めば……いえ、私、アキラ様、トキさんの候補生第一部隊トップスリーで組む方が遥かに良いですわねぇ。そう言うわけですから退いて頂けませんこと?」

「アハハハハ、それ本気で言ってるの?冗談キツイね。 穂 乃 お 嬢 様?」

「ふふふふふ、冗談ではなく本気ですわよ。 田 鹿 ソ ラ さ ん?」

『ふう、始まったか。アキラ。すまないが我はアキラの中で寝てるから終わったら起こしてくれ』

「(ちょっ!?イース!?)」

 イースが俺の中に消えて閉じこもるのと同時に俺の上に乗る二人の間に火花が走るのを俺は幻視する。

 俺は鈴鳴教官の方に目を向ける。

 が、鈴鳴教官は俺に向けて右手の親指を立てるジェスチャーをすると目だけでこう言った「頑張りたまえ!いざとなったら手助けをしよう」と。

 鈴鳴教官!今がそのいざって言う時だとは思わないんですか!?お願いです助けてください!俺の人生経験では絶対に対応できません!!


「どう……」

「「ーーーーー!」」

 そして二人が口を開き、そこから出てくる言葉に身構えようとする直前に俺たちの近くに居た田鹿さんが俺の耳に何かを突っ込み、それと同時に周囲の音が一切聞こえなくなる。

 どうやら強力な耳栓を填めてくれたらしい。


「あり……えっ?」

 で、俺がその事に対して感謝の言葉を述べようと田鹿さんの方を向いたら……俺の上に乗っていたはずの二人が頭を痛そうに抱え、田鹿さんに何か説教をされていた。

 一瞬の早業で何が有ったのかは分からない。分からないが一つだけ確かな事が有る。

 今の教室内では田鹿さんが最も強い。

 その後、話はとんとん拍子にまとまっていったようで、穂乃さんはいつもの取り巻きの方々と悔しそうにしつつも組む事となり、妹さんはかなり叱られた後に田鹿さんと組むことになったようだった。

 そして最後に俺の耳栓を外した田鹿さんは俺に対して手を伸ばしてこう言った。


「すみませんが、私たちと組んでいただけますか?アキラさん」


 俺は田鹿さんの提案を素直に受け入れることした。

 とりあえず、手を伸ばした時の田鹿さんの顔はアレ(ダメテラス)よりもよほど女神様に相応しい気がした。

女って時々怖いですよねー


07/19誤字訂正

07/20誤字訂正

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