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第20話「討伐班候補生-7」

「ふぅ……」

『いい湯だな』

 イースが祭儀場で二、三作業を終えた後、俺とイースは風呂に入っていた。

 俺は自身の足を伸ばしてもまだ十分余裕がある湯船の中で全身を伸ばし、イースは八本の脚を巧みに使って湯船の中を泳いでいる。

 何と言うか湯の暖かさに全身の疲れが溶け出す感じである。


『それにしても慣れたものだな』

「ん?何がだ?」

『最初は色々と騒いでいたり、唸っていたりしていたのがいつの間にか普通に自分の身体を見れるようになっている事がだ』

「ああ、その事か」

 と、ここでイースが話しかけてきたのでそれに返す。

 風呂に入っていると言う事は当然今の俺は裸である。が、今更その事についてどうこう思ったりはしない。

 強いて何か思う事が有るのなら、湯に胸が浮くお陰で普段より身体が楽と言うことぐらいか。


「まあ嫌でも慣れる。と言うか慣れないとやってられん」

『それもそうか』

 実を言えば今の身体になった直後の俺は男女の差に由来する諸々のせいで色々と大変だった。

 具体的に言えば厠とか風呂とか着替えの面で。

 うん。ナルシストと思われるかもしれないが、この身体は妙に魅力に満ち溢れているから中々あそことか、そことかが最初は直視できなかった。

 ただ美人は三日で飽きるとも言うように、四六時中それを目の前にしていれば人間慣れる物である。何とか五日ほどでその手の煩悩に対してはほぼ見切りをつけることが出来た。

 恥ずかしがって他人にやられるよりは、恥ずかしくても自分でやった方が結果的に負う傷が少なくて済むのに気づいたと言うのも有るが。


「ああでも未だに下着とかはな……難易度が高い」

『そう言えば妙に艶やかな下着もあの女医から貰っていたが、それだけは一度も付けていないな』

「アレを付けたら男として大切な何かが多分へし折れるからな……」

 イースの言う艶やかな下着については黙秘するとして、現在俺が常用しているのは柄無しの無地の物である。

 なお、俺個人としては当初は胸なんてさらしか何かで押さえるか、いっそ何も付けなくていいと思っていたのだが、そしたら女医さんが笑顔で『さらしとかで無理矢理押さえつけるともっと大きくなるし、付けないと揺れて痛いわよ』って言って来たから渋々付ける様になったと言う裏事情がある。

 実際に付けてみたら大きく楽になったのは認めるけどさ……心の中の細かい部分で色々と折れた感覚も有るんだよ。

 ふふふ、この先男に戻った時にやっていけんのかぁ……俺。


「ああそうだ。それで、この先この寮に俺以外の人間が入るのは間違いないのか?」

『ああ、スサノオ様に確認したが、やはりこの寮はアキラと我、それにアキラと組むことになった人間たち用の寮になるそうだ。どうやらこれが譲歩の限界だったらしい』

「なるほどね。俺の正体については?」

『我とアキラの判断に任せるそうだ。まあ、我としては下手に隠すよりは素直に話した方が信頼関係の向上にも繋がると思うがな』

「そこは実際に組む相手次第と言ったところだな。バラした結果として信頼関係が完全に崩壊する可能性もあるわけだし」

『それもまた一理有るな』

 とりあえず、これ以上この事について考えていると妙な方向で嵌りそうなので、思考を切り替えるためにも話題を別の物に変え、風呂に入る前にやっていたイースの作業……タカマガハラとの通信用の線構築の結果について聞く。

 で、その結果として風呂に入る前にイースが言っていたことはどうやら確定したらしい。

 俺としては不安な事この上ないが、まあ、どんな相手と組むことになるかが分からない現状だとどうしようも無いのが実情か。


「てかさ、今日の実技訓練をイースの目から見て俺と組むのに良さそうな人って誰か居たか?」

『そうだな……アキラと試合をした少女に、あの時の光景にさほど動じなかった数名等は良いと思うが?』

「……。それってあのねっとりした視線の主も含んでるよな。絶対に」

『含んでいるな……が、味方の力に怯えるような相手と組むのはお互いにとって致命傷になりかねないからな。そこはしょうがない』

 俺が思い出すのは穂乃さんの放った無数の火球と、試合後に向けられた恐怖以外の視線。

 その中には気色悪い例の視線も含んでいるが、それは敢えて気にしないでおく。いちいち気にしていたら身が保たないし。

 それよりもイースが言う様に味方の力に怯えるような相手と組むのは確かに拙いと思う。

 俺を見捨てて逃げるかもしれないし、逆に俺に任せれば全て大丈夫だと盲信してしまう可能性も高いからだ。故にどちらの方向に傾くにしても良くない事だけは確かと言える。


「しかし実際どういう相手と組むのやら……」

『そればかりは人間同士の都合だから何ともな。ただ、今あるグループを解体して組み直すよりは何処か人数が足りないグループに加える可能性の方が高いと思うぞ』

「あー、言われてみればそうか」

 考えてみればイースの言葉も尤もである。

 今あるグループには、そのグループの中で今まで積み上げてきた連携や方針、決まり事と言うものが有るからな。それを悪戯に乱すのは危険すぎる。

 そう言う意味では討伐班は少数精鋭をモットーとするために基本的に三人一組のグループを組むが、仮に現在二人しか居ないグループが有れば俺はそちらに流される可能性は高いかもしれない。


『いずれにしても明日次第だな。わざわざ今日の実技を個人のものにしていたと言う事はそう言う事だろう』

「かもな。よし、今日は早めに寝ておくか」

 そう結論付けた所で俺とイースは風呂を上がり、服を着替えると寝室に向かう。


「そう言えばそうだったな……」

『慣れろ』

「ああ……」

 そして忘れていたために、不意打ちで視界に飛び込んできたフリル付き天蓋付きベッドに軽く心を折られてから就寝した。

●REC

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