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第19話「討伐班候補生-6」

「これが……そうか」

『そのようだな』

 午前の座学、午後の実技両方を終えた俺は、以前出会ったユヅルさんから俺個人用の寮の鍵を受け取ってこれから五年間俺の家になる寮の前にやって来ていた。


「何と言うか……ジャポテラスの建築様式とは大きく違うな」

『どうやらこれは我の故郷であるグレイシアンの建築様式を基本に持って来ているようだな』

 寮は白い外壁に覆われた直方体の上に鋭く尖った屋根が乗せられている一軒家の形になっており、壁には幾つかの窓が見える。

 俺の知る限りではジャポテラスの建造物は大きく分けて三種類ある。

 一つ目は以前の俺が住んでいた長屋や神々が住まう神社の様な平屋を中心とした建築様式で、レトロ・ジャポテラス様式と言う。

 二つ目は貴族たちが住む二階建てや三階建ての建物に家ごとの庭が付けられているような、実用性と外観を高いレベルで両立させた高級で煌びやかな建築様式で、こちらはモダン・ジャポテラス様式だったかな。

 で、三つ目は俺が入院していたジャポテラス神療院の様にとにかく最新技術の粋をつぎ込めるだけつぎ込んだ建築様式で、通称トライ・ジャポテラス様式とか言われてる。

 が、今俺の目の前にある寮はいずれの建築様式にも当てはまらず、敢えて近い物を上げればトライ・ジャポテラス様式に近いがイースの言葉から考える限りではグレイシアンの建築様式に近いのだろう。


「まあ、とりあえず中に入ってみるか」

『だな』

 何時までも外で待っていてもしょうがないと言う事で俺は鍵を開けて寮の中に入り、雷神系の神の力で稼働しているらしい照明を付ける。


「中はモダン・ジャポテラスみたいだな」

『まあ、この家を主に使うのは我と言うよりはアキラだからな。アキラにとって使い易いようになっているのだろう』

「俺は庶民も庶民だから慣れているのはモダンよりはレトロなんだけどな」

『そう言えばそうだったな』

 寮の中はフローリングとか呼ばれていたはずの板張りの床になっており、通路に幾つも扉が有る事から俺の前に住んでいた六畳一間の長屋と違って複数の部屋が有るようだ。

 と言うわけでまずは一部屋ずつ見て回っていく。


「へー、調理場に広間、厠に風呂と至れり尽くせりだな」

『我用の祭儀場も有るな。まあ、契約の関係で我が此処に居る事はまず無いだろうし、恐らく使わんだろうな。調整はしておくが』

「むしろ偽装用って感じだよな」

『確かに』

 その結果としてそれなりのサイズの調理場に作戦行動前のミーティングにも使えそうな広間等が見つかった。

 と言うか厠も風呂も個人用が有る上に使い易さが第一になっていて良い作りだな。てか個人用の風呂とか俺の記憶だと今まで聞いた事は有っても実際に見た事も無いんだが……凄いな討伐班と言うかスサノオ様。

 で、祭儀場については……イースが後々何かするつもりのようなので、何か言われない限りは任せておくとするか。


「それで階段が上と下の二つか」

『ふむ。まずは上に行ってみるか』

「分かった」

 で、階段を見つけたのでまずは2階部分……と言うよりは屋根の内側部分に俺とイースは階段を昇っていく。


「何だこれ?」

『蓄熱システムの一種だな』

 そこに有ったのは、動き回るのには不便が無い程度のスペースと黒い箱のような何かで、箱の上には日光が取り入れられるような天窓が設置されていた。

 イース曰くこの箱の中には大量の水が入っており、日光によって中の水を温める事で様々な用途に利用できるらしい。

 とりあえずの用途としては、これが有ればわざわざ火を焚かなくてもある程度の温度の湯ならほぼいつでも使えるそうだ。すげえな。


「じゃあ、次は下か」

『だな。グレイシアンの建築様式なら恐らくだが寝室はそちらにあるはずだ』

「へー、そうなのか」

 俺はイースの言葉を聞きつつ階段を下り、地下一階部分に足を踏み入れる。


「うん?違和感が無いな」

『どういう意味だ?』

 そして地下一階に入った俺は、複数の扉が通路の両側に設置されているのを確認しつつ一階や二階と全く変わらない空気が流れている事に一瞬眉をひそめる。


「いや、普通地下って言うと幾らか空気が淀んだりしているイメージなんだが……」

『ああ、そう言う意味か。空気を循環させるシステムが何処かに付いていて、それがきちんと働いているのだろう。グレイシアンでも此処の様に地下に寝室を置き、空気はそれ専用の装置を作って回していたからな』

「ふーん」

 で、その辺りの謎についてイースに聞いたところ、グレイシアンではこれが普通らしい。

 俺はイースの言葉に納得した所で扉を一つずつ開けて部屋の中を観察する。


「てか、どれも寝室なのか?俺個人用なのに」

『あー、スサノオ様はアキラの“班”と言っていたから、もしかしたらその内アキラと組むことになった人間も入ってくるのかもしれん』

「……。そう言えばそんな事を言っていた気もするな……慣れるしかないか」

『と言うよりその組むことになった人間には、アキラの正体をバラすつもりで居た方がいいのかもしれん』

「それも一つの手か……」

 殆どの部屋の中はイースの言うとおり寝室になっていて、ベッドが一つに箪笥が一つ置かれているのが基本で、その気になれば簡単に模様替えも出来そうな構造になっていた。

 また、中には装備品を置く倉庫として使うのに非常に便利そうな棚が幾つも置かれた部屋も有った。


「…………」

『…………』

 と、ここで俺の名前が書かれている木の板が掛けられた部屋を発見したので、イースの言葉と合わせてこの先仲間が加わったら此処が俺の部屋になるのだと判断して扉を開け……中を見た所で二人揃って絶句した。


「…………」

『…………』

 俺とイースは一度お互いの顔を見てから再び中を見る。

 そして部屋の入り口に掛けられた木の板に書かれている名前を改めて二人で確認し、見間違いだと思って軽く目をこすってから再び部屋の中を見る。

 で、感想をこぼす。


「……。あんなの子供向けの本とかでしか見た事が無いんだが……」

『……。正に姫扱いだな……』

 俺とイースは思わずそれぞれの感想を呟いてから部屋の中に入る。

 他の部屋の倍はある部屋の中央にはフリル付きの天蓋付き特大ベッドが置かれており、他には何も無かった。

 ああいや、あまりにもフリル付きの天蓋付き特大ベッドに意識が奪われていて気付いていなかったが、ベッド以外にも通路に繋がる扉の他に二つ扉が有って片方は俺個人用の倉庫として作られたと思しき部屋に繋がっており、もう一つの部屋にはイース曰く地熱を利用するらしい諸々の設備が置かれていたか。

 ……。スサノオ様これ(フリルと天蓋)は貴方の趣味ですか?だとしたら、俺本来の性別について改めてしっかりと話し合わないといけない気がしますよ。

 とりあえず、ベッドについてはスサノオ様じゃなくて他の誰かのセンスだと思っておこう。俺の精神衛生的に。


『アキラよ。風呂でも行ってさっぱりしてきたらどうだ?』

「そうだな。そうするか……」

 そして俺はイースの勧めもあって今日一日の疲れを癒すために風呂へと行くのであった。

アキラちゃんの寮公開です。

でもそんな事はどうだっていい、問題は何処にカメラを仕込むかだ!


あ、ベッドはスサノオ様の趣味ではありませんよ。念のために言っておきますが。

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