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第16話「討伐班候補生-3」

「ようし、全員集まったな」

 鈴鳴教官の声が演習場全体に響く。

 午後の実技訓練は、屋外に用意された四方を金網で囲った演習場で行われることになっていて、事前に聞いた限りだと内容は基本的なトレーニングに、神力による特殊な能力の訓練だったかな。

 と、俺が思っていたら……


「今日は当初の予定ではいつも通りのトレーニングの予定だったが、新入りもいると言う事で、一対一の決闘形式での訓練を行う」

 まったく別の内容が告げられた。

 そして俺に向けられる鈴鳴教官の明らかに何かしらの意図が込められた視線。

 ああなるほど、つまりはこういう事か。お前の実力に疑問を抱いている奴が多いから実力を示せ。と。

 まあ、俺の実力に疑問を抱いているのは他の候補生だけじゃなくて鈴鳴教官もだろうし、俺自身未だに把握しきれていないから丁度いいと言えば丁度いいかもしれない。


「よし、それでは穂乃とホワイトアイス。二人とも前に出ろ」

「はい!」

「えっ、あっ、はい!」

 って、見本を見せるとかじゃなくていきなりか!?

 俺は少々慌てつつも前に出て、指示された場所に向かい、俺と穂乃と呼ばれた見るからに貴族ですと言った感じのクセの無い綺麗な黒髪を腰まで伸ばした少女がそれぞれ指示された場所に付くと他の候補生は金網の外に出る。

 そして演習場の中には俺、穂乃さん、鈴鳴教官の三人だけが中に残された状態になる。


「予め言っておくが、これ以上は危険だと判断したら私が止めるがそれ以外は特に制限は無い。よってそれぞれ全力を出しても構わない」

 鈴鳴教官の声を受けて穂乃さんが半身になりつつ右手で両刃の儀礼用と思しき剣を抜剣して持ち、左手は握りしめたり開いたりを繰り返し始める。

 対して俺は左目を瞑ると右手で訓練用の弾を装填したスリングを持っておく。


「片目を瞑るだなんて舐めていますの?」

 俺の行動に対して穂乃さんは微妙に頭に血を登らせながらそう言うが、俺としてはこうしなければイースの力が使えないのだからしょうがない。

 とりあえず冷静さを欠くのはお互いに危ないと思うし、一応なだめておくか。


「これが俺の構えだから気にしなくていい」

「そう……ふふ、ふふふふふ……」

 が、俺の言葉に対して穂乃さんは一度俯くと、僅かに見える口元には明らかに敵意に満ち溢れたヤバい表情が浮かび、左手を開閉するスピードが明らかに速くなる。


『……。もしかしなくても火に油だったようだな』

「(……。みたいだな)」

 うん。明らかに対応を間違えた。やってしまった以上はしょうがないけども。


「二人ともそろそろ口を慎め。では、これより穂乃オオリとアキラ・ホワイトアイスの練習試合を始める。時間武器の制限は無し。私が止めろと言ったら即座に止める事。では、始め!」

 そして鈴鳴教官が両手を上げ、始めの合図と共に手を振り下ろした瞬間。


「燃やし尽くしてあげますわ!!」

「やばっ!?」

 穂乃さんから無数の火球が放たれ、俺は慌てて横に跳ぶことによって射線から離れ、俺が居た場所を通り過ぎた火球は金網にぶつかったところで爆発を起こす。

 これは……うん。直撃したら死ぬんじゃね?


『心配するな。直撃しても動けなくなって負けにはなるだろうが、死にはしない……はずだ』

「(最後の“はずだ”が凄く不安なんだけど!?おい!?)」

 俺の不安を読み取ったのかイースが安心出来るのか出来ないのか微妙な気分にさせる発言をする。

 が、これ以上の会話をする前に次が来てしまったため、俺は動体視力を良くすると多少慌てつつも左右に身体を動かして火球を回避する。

 それにしてもよくこれだけの数の火球を同時に放てるものだ。威力も結構ありそうだし。


『確かに中々の連射スピードと威力だな。複数の火を扱う神と契約をした上にあの儀礼剣の力を組み合わせた結果なのだろうが』

「(解説どうも)」

 と、俺の抱いている疑問に対してイースが今度は明確な答えを示してくれる。

 ちなみに現在イースは俺の中に溶け込んで感覚を共有している。流石にこれだけ動き回ると振り飛ばされかねないらしい。


「ちょこまかと……素直に当たったらどうですの!」

「それはゴメン……かな」

 穂乃さんの叫びを無視して攻撃を避けつつ俺は反撃の手を考える。

 スリングは……この火球の群れが有る限りは無理だな。撃ち落とされる。

 かと言って右目だと多分やり過ぎになる。全身が凍り付いたら人間は生きていられないだろう。


「(彼女を抑え込むのに何か丁度良い力とか有るか?)」

『そうだな……』

 と言うわけで困った時のイース頼みである。

 だって俺よりも戦いも自身の力も良く分かっているし。


『ふむ。これだけの弾幕なら術者までは届かないだろうし、右目を使ってしまえ』

「おっと(使えって、炎は凍らないだろ?)」

「くっ、身のこなしだけは一人前ですわね!でも避けているだけではどうしようも有りませんわよ!!」

『心配するな。やってみればその意味は分かる』

「じゃあ、ちょっとだ……け!」

 俺は身を屈めて火球を避けた所で、俺に向かってくる無数の火球に対して右目の力を開放する。


「なっ……」

「「「!?」」」

「流石……」

『ふふん』

 そして俺が右目の力を開放した瞬間、俺も含めてその場に居る全員が驚きを露わにする。

 だがその反応もしょうがないだろう。


「わ、私の炎が氷に……!?」

 穂乃さんが茫然とした状態で思わずと言った様子で膝をつく。

 だがその反応もしょうがない。

 なにせ俺に向かって飛んできていたはずの火球……それもただの炎では無く神力が込められた炎がそのままの形で氷の塊に変化し、残らず地面に落ちて砕け散ってしまったのだから。

 ついでに言えば演習場の金網の一部や、地面も氷に変化しており、それに気づいた観客は驚きの表情をより一層大きくする。


『グレイシアンでも良く勘違いされていたが、我にとって睨んだ対象の表面を氷漬けにするなど小手先の技に過ぎん。我一柱を丸ごと取り込んでいるアキラだからこそ出来る技であるが、本来ならば我の魔眼は対象がどんなものであろうとそのまま氷に変えることが出来る物なのだ。故にあの程度の炎ならいくらあろうとも一瞬で氷に出来る』

「(なるほどね……)」

 イースの説明が確かなら凄まじい力である。なにせ右目で睨み付ければ、睨み付けた相手は確実に絶命すると言っても過言ではないのだから。

 尤もあの時(『迷宮』の主)の事を思い返すに対抗する方法も有るのだろうけど。

 で、イースの説明を受けている傍らで、俺は自分の力に驚くのはおかしいと言う事でいち早く表情を元通りに戻すと、立ち上がって穂乃さんの方にゆっくりと歩いていく。


「まだやる?」

「いいえ、降参よ」

 そして右目に力を集めつつ膝をついている穂乃さんの目の前に立った俺は彼女に降参を勧め、彼女はばつが悪そうに俺から顔をそむけつつもそれを素直に受け入れた。

 これによって初めての練習試合は俺の勝利で幕が下りた。

炎すら氷に変える魔眼ですが、格上にはほぼ確実に無効化or反射される他、欠点が多々あったり。


07/14誤字訂正

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