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第13話「タカマガハラ-4」

「すまんな。ダメテ……姉貴は急用だとかで引っ込んでもらったわ。まあ、お前ら二人の話は決して無駄にしないから安心してもらっていい」

「『……、何も聞こえない、何も見てない、何も知らない……』」

「戻って来いお前ら」

「『ハッ!?』」

 どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、妙にすっきりした顔のスサノオ様がいつの間にか俺とイースの前に戻って来ていた。

 いかんいかん。スサノオ様の御前ならしっかりしておかないと。


「で、イースもアキラもこれからどうするつもりだ?」

「俺はイースとの契約が有るので『迷宮』に挑まなければなりません。俺個人としても行かなければいけませんが」

『我もアキラとの契約が有りますので一緒に行動します。我個人としても『迷宮』をどうにかしたい気持ちは当然ありますが』

「なるほど」

 スサノオ様の質問に対して俺もイースも細部は異なるが『迷宮』に挑み、モンスターと戦うつもりであることを告げる。

 俺たちの言葉を聞いたスサノオ様は一度煙管を吹くと、何かを決めたような顔をする。


「そう言う話ならお前ら二人とも治安維持機構の討伐班に来い」

 そして、思いもよらない言葉を何ともなしに告げる。


『む?』

「え!?良いんですか?」

「別に構わん……と言うか俺がトップの組織だからな。この程度は俺の一声で何とでもなる。そうでなくとも神一柱とその力をフルに使える人間一人なんてのは戦力として充分以上だからな。本人にやる気が有るのなら入れないでおく理由が無い」

「えーと、思いっきり権力関係で問題が起きそうな気もするんですが……」

「モンスターとの戦いでは実力が全てだ。地位も権力も出自も関係ない。てか、んな下らねぇ個人同士の諍いを戦いの場にまで持ち込む馬鹿は味方を巻き込まねえ内にとっとと一人で死ね」

『えーと、我は此処の神ではないのだが……』

「グレイシアンはもう滅んだんだろ。だったら所属は変えてしっかりとした補助を受けるべきだ。それに元々がどこの神だっかなんてのを気にするような女にウチのトップが見えるか?加えて言うならお前ら二人ともバックアップが有ろうが無かろうが関係なしに『迷宮』に挑む気満々だろうが。だったらきちんと俺の管理下に置いて万全の状態で働かせた方がいい結果が出るに決まってる。何か反論は有るか?」

「『有りません……』」

 スサノオ様の言葉に俺もイースもぐうの音も出ない程完全に論破されてしまったので、諦めて素直に白旗を振る。

 いやまあ、治安維持機構の討伐班にスサノオ様の推薦で何の滞りも無く入れるのならそれに越したことはないんだろうけど。

 実際スサノオ様の言うとおり入った方が何かと良い面が多いし、元々俺は治安維持機構の見回り班だったから討伐班に対して憧れも抱いていたしな。


「よし。それなら手筈は整えておくから……そうだな、一週間後に討伐班の候補生たちに合流してもらうか」

『候補生?』

「討伐班に配属されると入ってからまずは三か月間候補生として実践的な訓練を集中的にやるんだよ。訓練内容については俺もあまり詳しくないけど、確かあと一月ぐらいで実戦配備だと思ったはず」

「ちなみに今日お前らをタカマガハラまで連れてきた連中の一部がその候補生の一部だったわけで、集団行動の訓練を兼ねさせていた」

『ふうむ……』

 俺とスサノオ様の言葉にイースが納得がいったと言う顔をする。

 それにしても妙に若い隊員が多いと思ったら候補生だったのか。それは若いはずだ。

 と、ここで俺はとある問題に気づいてしまう。


「あの……スサノオ様?」

「どうした?」

「その……討伐班に入れてもらうのはありがたいのですが、確か討伐班って入ってから五年以内の人員はチームワークを磨くとか言う理由で男女に別れて全員寮生活でしたよね……」

「そうだな」

『あっ……!?』

 そしてイースもその問題に気付いたのか思わず声を上げる。

 だが、スサノオ様はまだ分かっていないのか俺に話の続きを目線だけで促す。


「いやですね……俺、イースと契約する前は男で、今の身体は女なんですけど……その場合寮はどうなるんですか?」

「……。おっと!?」

 俺が問題の内容を告げた瞬間にスサノオ様の口から思わずと言った感じで煙管が転げ落ち、床に着く前に慌ててそれをスサノオ様は回収する。


「あー、それは確かに問題だな……」

 スサノオ様が心底困ったと言う表情で煙管を咥え直してから頭を掻く。

 ただ実際問題、俺にとってこれは死活問題と言ってもいい。

 まず男子寮に入った場合。

 俺の精神的には一時は落ち着くだろう。だが、同年代の男として言わせてもらうが、奴らの獣欲は決して甘く見れない。加えてイースと契約したことによって俺の容姿は下手をすれば女でも惚れかねないレベルになっている。

 結論、男子寮は肉体的にも精神的にもヤバい。


 次に女子寮に入った場合。

 肉体的には問題ない。だがそれ以上に俺の精神にかかる負荷が主に良心の呵責で拙い事になる。正直自分の身体さえ未だにマトモに見ることが出来ない奴が女子寮に行ったらそっち方面で拙い事になる。ついでに言うと神療院に居た例の看護士さんみたいな人が居れば普通に貞操も危ない気もする。

 結論、女子寮も比率が違うだけで普通にヤバい。


 最後に俺個人用の寮を作った場合。

 俺の肉体や精神面を考えればこれが一番いいとは思う。

 ただ、二十歳以下の隊員は寮生活と言う絶対と言っていいレベルのルールを破った結果として村八分のような状況になる可能性は高いだろうし、その結果として様々な弊害が起こる可能性はある。そうでなくとも突然スサノオ様と言う殿上人からの通達で加わるのだから良い顔をしない人間は多いだろう。

 結論、個人用の寮にしても問題は絶対に起きる。


「……。あー、二十歳以上と言う扱いにするのは……無理だよなぁ。絶対にボロが出る」

「正直、隠しきれる自信は無いです」

『加えて言うなら、見れる者なら我の姿も見えるだろうしなぁ……』

 年齢を誤魔化すにしても俺自身の経験が何かと足りないので、絶対に何処かで綻びが出てくるだろう。

 イースの言葉については……非実体化中なら普通の人間には見えないらしいが、契約している俺は問題なく見えるのだから、他の何かしらの方法で見る事の出来る人間が居てもおかしくないと言う事だろう。

 確かにイースを見られてその正体がばれると面倒かもなぁ……ジャポテラスじゃ普通神はタカマガハラに居るものだし。


「イースの件についてはお前らが自分で何とかしろ。寮については……しょうがないからお前の班用の寮を作っておく。男女どっちかの寮に入れるよりかは幾分マシだろう。それでも何か言ってくる奴が居たらそうだな……特別扱いでも周囲が納得せざるを得ない様な実力の差でも見せつけてやれ」

「『分かりました』」

 スサノオ様の結論に俺もイースも了承の意を返す。

 実際の所、スサノオ様の肝入りなら地位や立場を笠に着て何かを言えるような人間は居るはずがないので、これが一番マシな対応かもしれない。


「二人とも今日はご苦労だったな。とりあえず今日の所はこれでもう十分だ」

「『では、失礼させていただきます』」

 そして俺とイースはスサノオ様に一度頭を下げてからタカマガハラを後にした。

寮問題は定番だと思います。


なお、スサノオ様は三貴子のお一人なので、ジャポテラス内に限って言えばほぼ上が居ない地位の御方になります。

後、スサノオ様の上となると天地開闢に関わるような神様方が並びますが、残念な事にあまり有名じゃないんですよねぇ……。

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