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第11話「タカマガハラ-2」

「良く来たな」

 社の中をひたすら真っ直ぐ……それこそ明らかにアメノヤマの頂上部よりも長い距離の一本道を歩いた俺とイースはやがて板張りの広間のような場所に出て、その中心で着物を着て胡坐をかきながら煙管を咥えた偉丈夫の姿を認める。

 初めて見た姿だが、放っている気配からして間違いないだろう。


「俺の名前はスサノオ。お前も知っての通り治安維持機構を治める神であり、ここジャポテラスでもトップ3に入る偉い神様だ。尤もこの都市に所属する神で無いそっちの蜥蜴ちゃんと信仰を捨てちまったお前さんには割とどうでもいい事かも知れんがな。ああ、座るならそこに座れ」

『我はアイスバジリスクのイースと申します。お会いできて光栄でございます。スサノオ殿』

「白氷アキラです。本日はお呼び頂きありがとうございます。では失礼」

 スサノオから指示された場所に俺が座り、俺の頭の上にイースが昇って俺とイースはスサノオと相対する。


「それにしてもアキラと言ったか、予想以上の別嬪さんだなぁ。お前さん本当に人間か?」

「イースとの契約でこうなっただけです。俺の意思ではありません」

「そうかいそうかい。あ、俺の妻であるクシナダに比べたら全然だから手を出したりはしねえぞ。ハッハッハ」

「……」

 スサノオは分かり易く惚気ながら大きな声で笑う。

 俺としても例え神であっても男に手を出されるとか絶対に御免なので、そっち方面の心配をしなくて済むのは楽でいいが。


「それで俺……いや、イースを呼んだ用件は?」

「せっかちだなぁ、お前さん。まあいい、ダラダラと喋っているのも俺の趣味じゃねえしな。とっとと話を済ませちまうか」

 スサノオはそう言うと煙管を口から放し、煙を一度吐いたところで今までとは打って変わって真剣な……それこそ神の名に相応しい顔つきになる。

 そして煙管の先でイースを指差す。


「イースとか言ったな。その名と力から察するにお前さんはグレイシアンの所属なんだろうが、それがどうしてジャポテラスに居る?おまけにウチの人間を自分の巫女にしちまった。事と次第によってはそれ相応の手段で報いるのも辞さんぞ」

「……」

『全て覚悟の上でございます。ですが我の話だけでも聞いて頂きたい』

「話してみろ」

 スサノオの言葉に対してイースは神妙な面持ちで言葉を紡ぎ始める。

 それにしてもグレイシアン?うーん、どっかの都市国家の名前がそんな名前だったか?とりあえず話の流れからしてイースの元々の所属はそこだったわけか。


『まずグレイシアンですが……我とアキラが会うその前日に滅ぼされました』

「それは国同士の争いによってか?」

『いえ、『迷宮』の主……『(ミリタリー)』と呼ばれているあの女によって滅ぼされました』

 そうしてイースは自分の所属していた都市が、街の内外から同時多発的に大量発生したモンスターによって抵抗むなしく滅ぼされた事を語る。


「ヒムロノユミルはどうした?それとグレイシアンの人間もだ」

『ヒムロノユミル様は我を始めとして他の都市に危機を伝える役目を任せた者の突破口を開く途上で滅ぼされました。グレイシアンの人間については分かりませんが、アキラと契約する時の我には既に一切の信仰が届いていませんでしたので恐らくは……』

「そうか……一応聞いておくが、お前さん以外のグレイシアンに所属していた神と連絡を付ける方法はあるか?」

『有りません。突破口を開いたと言っても微かな物でしたし、我と一緒に逃げ出した者も次々と襲われていきましたから……運が良ければ我と同じように何処かの都市に辿り着いているかもしれませんが……』

「なるほどな。こりゃあ真面目に対策を練らないと拙いな」

 イースとスサノオの話は滞りなく進んでいくが、何と言うか俺の置いて行けぼり感が半端ないな……。

 とりあえず、イースがグレイシアンと言う所の所属で、そこのお偉いさんであるヒムロノユミルと言う名前の神様がやられて、グレイシアンが滅び、イースは命からがら逃げてきたって言うのは理解できた。


「それで、イース。お前さんがそこの巫女と契約を結んだ理由は?そっちはこれとはまた別件だぞ」

『アキラとの件につきましては、『迷宮』内でジャポテラスの神々との契約が切れたところで出会って結んだ形です』

「契約が切れた?どういう事だ?」

 スサノオがイースの言葉を受けて驚いた表情で俺の顔を眺める。

 そんなに契約が切れるのがおかしい事なのか?俺の記憶が確かならジャポテラスの中で殺人や強盗みたいな重犯罪を犯した奴は大概の場合契約が切られているし、そんなにおかしい事だとは思わないのだが……。

 まあ、聞きたがっているみたいだし、一応その時の事情を話しておくか。

 と言うわけで俺はスサノオにその時の話をしたのだが……。


「有り得ん。ウチに所属する神は良くも悪くも大らかだからな。罵詈雑言レベルなら一時的に引き上げる事は有っても切れることは無いし、『迷宮』内に居るのなら尚更切れるのは有り得ん。叱りつけるにしても慰めるにしても生きて帰って来てもらわないといけないんだからな」

 と、全否定された。

 でも契約が切れていたのは確かなんだけどな?

 おかげで信仰心とか完全に失せた。


「他人の信仰を勝手に弄れて、なおかつ『迷宮』内で何の問題も無く活動できる奴……ちっ、後で姉貴を通して確認しておかないとな。一柱だけ当てはまる奴に心当たりが有る」

「はあ?」

『ふうむ?』

 明らかに機嫌を悪そうにしつつ奇妙な機械で何処かに連絡をしているスサノオには悪いが、俺とイースとしては話についていけないので呆然とするしかない。

 とりあえず柱と言う数え方をしたと言うことは、たぶんその誰かも神なんだろうな。


「とりあえず姉貴が来たらもう一度その時に関して話をしてくれ。後、お前らが会った『軍』の奴についてもだ」

「それは別に構いませんけど……」

『ふうむ?』

 何と言うか話が一気に進み過ぎて訳が分からんな。

 まあ、俺もイースも知っている事を話すだけなんだが。


「来た……」

「ん?」

『お?』

 と、ここで戸が動く音がしたために俺もイースも音がした方を向く。

 それにしてもスサノオの姉……もしかしなくてもあの御方か?

 だとしたら偉いなんてものじゃないんよな。後、光とかで目が潰れたりしないよな。

 そして俺がそんな事を思っている間に戸が開き……


「スサノオちゃん何?私は今、フェルミオちゃんとボスマラソンしてて忙しいんだけ……」

 戸の向こう側にこの世の物とは思えない美貌の女性が、その美貌を台無しにするようなよれよれの芋ジャージにボサボサの髪と言う姿で現れ、


「今すぐ身なりを整えてこいやああぁぁ!」

「へぶうぅ!?」

 次の瞬間にはスサノオのドロップキックが腹に突き刺さって女性は俺の位置からでは決して見えない距離にまで吹き飛んでいく。


「イース。アキラ。ちょっと待ってろ」

「は、はい!?」

『わ、分かりました!?』

 そして俺たちに向けていないのは確かなのに、それでも全身が竦むような殺気を放ったままスサノオは女性が吹き飛んで行った通路の先に歩いていく。


「ーーーーー!!」

「ーーーーー!?」

「イース」

『何だ?』

「俺たちは何も見ていないし聞いていない。そうしておこうか」

『そうだな。我もそれが良いと思うぞ』

 やがて通路の先からスサノオと女性のものと思しき声が聞こえてくるが……うん。俺たちは何も知らないと言う事にしておいた方がいいな。

 きっとさっきの女性は近所に住んでる幼馴染のお姉さんとかそんな物なんだよ。うん。そうしておこう。

 そう言う事にさせておいてください。主に俺とイースとスサノオ様の精神面の維持をするためにも。

最後、自然に様が付いたことから分かるようにスサノオ様だけは今後も様が付きます。

他の神様は……直接会った時次第でしょうね。


後、最後に出てきた女性に対して現在嫌な予感がされている方が多数居られると思いますが、その予感は多分間違っていません。

(色んな意味で)覚悟しておいてください。

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