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第1話「プロローグ」

新作でございます。

TS要素がその内出てきますので、苦手な方はご注意を。

「はぁはぁ……くそっ……」

 柱から床まで全てが金属製の通路を一人の青年が大きな金属音を打ち鳴らしながら駆け抜けていく。

 青年は実用性を重視した軍服のような制服を身に着けており、腰には革製と思しきスリングとその弾である金属球が複数個さげられている。


「ーーーーー!」

「っつ!?」

 通路の奥から獣の鳴き声のようなものが微かに聞こえ、それを捉えた青年は慌てて今走っている通路から手近な横道に入ろうとし、若干体勢を崩しながらもスピードを保ったまま新たな通路に入る事に成功する。


「はぁはぁ……頼むぞ……」

「ブラッシャアアアァァァ!」

 そして青年は通路の影に自らの身を滑り込ませ、息を殺して潜み始め、青年が隠れると同時に先程まで青年が走っていた通路をブラシ状の牙が頭に生えた巨大な四足獣が奇怪な鳴き声を上げながら駆け抜けていく。


「くそっ……どうしてこんな事に……」

「ーーーーー!」

 青年は鳴き声が遠ざかっていくのを聞き届けると、その場に深く座り込んで現状を嘆くように頭を抱える。

 ただそれでも周囲への警戒を欠かさない辺りから青年がそれ相応の訓練を積んでいる事が窺える。

 尤も訓練を積んで、常識や定石と言うものを知っているが故に余計現状については納得がいかないのだろうが。

 そして青年は振り返る。どうして今自分がこんな目に遭っているのかを。



■■■■■



「今日も平和だなぁ……」

「いいじゃねえか。平和でよ」

 俺は支給品である細長い棒を左手に、腰にスリングとその弾丸をさげて相棒であるベイタと一緒に木製の平屋が立ち並ぶ下町街を見回っていた。


「今日も平和であることを感謝いたします。アマテラス様」

「まあ、ベイタの言うとおりこの平和はアマテラス様の御力に依る部分が有るのは理解できるけどな」

 道の真ん中で太陽に向かって祈りのポーズをするベイタを見て多少嘆息しつつ俺もベイタの言葉を肯定する。

 この世界の名は『ミラスト』。

 この世界には都市国家が幾つも存在するようで、それぞれの都市にはその都市とそこに住む人間を守護する神様が何柱も存在している。

 そして俺たちが住む都市の名はジャポテラスと言い、我らが主神アマテラス様が守護し治める都市国家である。


「でもよ。この都市を実際に守ってるのは俺たちだと思うんだがな」

「その守るための力はアマテラス様から貰ったもんだろよ」

 祈りのポーズを止めたベイタと一緒に俺は見回りに戻る。

 ただ、守護していると言ってもアマテラス様が降臨して直接犯罪者をとっちめているわけでは勿論ない。

 と言うのもこの世界において神と言うのは、人間と契約し、祈り等を捧げる事を対価としてその力の一部を分け与えてくれる存在であり、俺とベイタが所属する治安維持機構ではそうして得た力を使って都市の治安維持と『迷宮(メイズ)』と呼ばれる空間への入り口を発見し『迷宮』を破壊することを目的としている。


「と、この水たまりは大丈夫そうだな」

「なら、次に行こうか」

 俺とベイタは路地裏に移動すると水たまりを発見し、ベイタが手に持った棒の先端で発見した水たまりの水面を突いて普通の水たまりであることを確認する。


「おっと、こっちにもか」

 ベイタが次の水たまりを突く。

 『迷宮(メイズ)』……それはこの都市どころかこの世界に住む殆どの者が恐怖する存在だ。

 と言うのも、まず『迷宮』は水たまりや鏡、鏡石と呼ばれる鉱石の断面など、一定レベル以上の光を反射をする平面が有るとある日突如として出現する。

 そして『迷宮』の中は、俺は入ったことが無いから知識として知っているだけだが、その名の通りに複雑な迷宮になっていると同時に、『モンスター』と呼ばれる異形の怪物が徘徊していて迷い込んだ生物を殺害するらしい。

 しかも発生した後に放置しておくと次第に『迷宮』内部の構造が複雑化すると同時にモンスターも凶悪化し、終いには『迷宮』の外にまでモンスターが出てくるようになるらしい。

 そう言うわけで俺たち治安維持機構がこうして毎日都市中を見回って発見次第上に報告し、治安維持機構の花形である討伐班を召集して迷宮を潰している。


「こっちにもあるなー」

 ベイタが次々に水たまりを突いていく。

 そう。俺たち治安維持機構の敵は犯罪を犯した人間よりも、『迷宮』とそこに住むモンスターを退治する事の方が多いのだ。

 そしてこのモンスターたちの主と『迷宮』の作り主はアマテラス様を始めとする神様たちと敵対関係にあるらしく、アマテラス様たちが俺たち人間に力を貸してくれるのはそう言う事情も有るらしい。

 ちなみにこっちは先輩からの受け売りである。

 まあ、新人の俺がアマテラス様やその周囲の方々に会えるわけが無いからな。こればかりはしょうがない。


「おい!ちょっと来てくれ!」

「どうした?」

 と、ここでベイタが俺に声をかけてきたために俺はそちらに駆け寄ってベイタの棒を見る。

 すると明らかに水たまり本来の深さ以上にまで深く棒が沈み込んでいた。

 間違いない。『迷宮』が発生している。


「ちょっと上に連絡するから見ておいてもらえるか?」

「分かっ……!?」

「なっ!?」

 そしてベイタが上に連絡しようとした瞬間、『迷宮』から手が伸びて来て俺もベイタも『迷宮』に引き摺り込まれたのだった。

宣伝も兼ねて第4話までは八時間ごとに更新しますよー

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