夜の冒険
「い、いい色々とお姉ちゃんがごっごご、ご迷惑をおかけしました……!」
「だ、大丈夫……大丈夫だよ…」
にしても、突然魔王巫女がエンコを切ろうとしてきたのは驚いた。
『やっぱり、ただ強いバフアイテム渡すだけじゃあ、そっちが割に合わないわよね。てことで指切るわ』
って、ナチュラルに言い出した時はマジでビビった。で本当に実行しようとするし!!
その場にいた全員、一斉に止めに入ったよね。俺も、稲葉達は勿論、周りで見ていたプレイヤー全員が、ヤベェって感じてすぐ動いたもん。
『バカバカバカバカ!?何しようとするんだこの巫女はぁ!?』
『魔王のケジメとか洒落にならんから!』
『おい誰か魔王呼べ!!』
『ちょ、この巫女力つよブヘァ?!』
………今思い出しても、かなりの地獄絵図だったな。
やっぱり、魔王と呼ばれるだけあって、俺達だけじゃ時間稼ぎくらいしかできなかった。
最終的には、誰かが呼んだのであろう、偽りさんと――
『悪いなお前たち!相棒が迷惑かけた!』
『おいマジョ兎!!嫁の手綱くらいちゃんと握っとけ!!』
『そーだそーだ!アンタらの夫婦喧嘩に巻き込まれるこっちの身にもなれ!!』
『『だだだだ誰が夫婦だ!!?』』
『はは、テンプレ乙。ったく、いきなり呼び出されるこっちの身にもなれや…』
……全プレイヤーが(勝手に)夫婦認定している夫の方、【星空の魔王】ことマジョ兎の活躍で、どうにか戦いは終結した。二人は巫女を連れて、さっさとログアウトしていった。
にしても、始めてマジョ兎を見たけど……見た目は王道中の王道、金髪でトンガリ帽子、黒スカートに箒っていう、『THE・魔女!!』って感じなんだよね。
だが男だ!!
…はい、茶番はこの辺に。
でもって、何とか戦いは終わったのだけれど、こちらの被害は大きくて…。
「あとは……頼ん、だ…ガクッ」
「ヒーローが……負ける、なんて…!」
「我が人生に悔いは多くあり」
と言い残して……稲葉、石森、熊川は死んだ。ええ、魔王巫女の駄々こね攻撃、もとい『拳☆骨☆流星』をモロに食らってしまい、デスしてしまった。ものの見事にクリーンヒットしてたなあ……お陰で、現在デスペナを食らい、戦力外通告。今はトラベラーで大人しくしてもらってる。
……言ってて思ったけど、なんだこのカオスな展開。というか、ぐだぐだな感じ。どっかに第六天魔王(CV.釘なんちゃら)と新選組一番隊隊長(CV.悠なにがし)がいるんじゃねーの?
「ヘブシュッ!!」
「うわっ汚い!汚いですよちょっと!何なんですか急に!」
「いやぁー、儂も急に出るとは思わんかったわ。これってアレだよね。どっかで誰かが儂の噂をしているに違いない!儂ってば超絶キュートじゃからの!是非もないヨネ!」
「まーた変な事言ってますねぇこの人は…。頭のネジ緩んでるんじゃないんですか?」
………今なんか聞こえた気がしたけど、何も問題はない!よし!!よしじゃないけど兎に角ヨシ!!!
「まぁー……当初の予定とは大分狂ったけども。ヨル巫女ちゃん、今からフィールドに出て一緒に戦おうよ」
「わ、わ私で良ければ…!」
「よし決まり。実は夜の戦いって何気初めてなんだよねぇ~」
そんな訳でやってきました、夜のトラベル草原。見慣れたラビット先輩は…既に多くの夜行性モンスターによって、お口にボッシュートされていたりする。南無……。
さて、夜のフィールドはモンスターが活発に活動する時間帯な為、出現数が極端に多くなる。そして昼の時間帯と比べ、出現するモンスターとは異なる場合が多い。
しかもレベルが総じて高い。トラベラーという初心者向けのステージとは思えない程のレベルの高い奴が、高確率で顔を出してくる。正に、ゲームに慣れてきた人向けのコンテンツとも言える。
オマケに……出現モンスター、総じてデカイ。
「「あ」」
「ゴルルルルル……!」
俺達の前に現れたのは、巨大な熊。灰熊教官をそのまま倍以上の大きさにさせたとも言えるそいつは、以前戦ったあのエリアボスこと、ブラックグリズリーと同等、或いはそれ以上の高さから、俺達を見下ろしていた。
そのモンスターの名は、ナイトベア。夜に出現するから『闇夜の熊』なのか…はたまた、とんでもない強さを誇る存在だから、『悪夢の化熊』なのか。
まぁ取り合えず言えるのは……初手からヤベェ存在と出くわしちった☆
「ガアアアアアアアアアアア!!!」
「全員戦闘準備ー!!!」
「バ、バフとかは任せてください!」
「今回は、私が出ます。ヤマタノ姉妹次女、ヤーちゃん。出ます」
「にゃー!」
『今日は久々に楽しめそうだ!』
「がんばるぞー!」
「精一杯お役に立つっす!」
「ッシャア!やってやるぜぇ!」
「あれほどの巨体かぁ、僕の氷通じるかな?」
「肩慣らしには丁度いい!派手に行くぜぇ!」
さぁ!初めての夜の戦い、精一杯頑張りましょー!!