唐傘少女と遊んだぞ
「クスクス。オ兄サン、蹴鞠ガ苦手ナノネ」
「そりゃあね!始めて遊ぶもの!!最初は下手くそなのは当然なのですわぁ!!」
翌日です。昨日の宣言通り、予定を全て終わらせたor無視してやってきましたとも。
具体的に?稲葉が姉と遊ぶのに疲れたから助けてっていうメールを無視したとか、そういうのだ。
唐傘少女、俺が宣言通りにやって来た事のを見て、すごく顔を赤くしながら喜んでくれましたよ。可愛くてスクショしたよね。妖怪の笑顔って、見飽きないね!!あぁ、早く皆に会いたい!!
だが、約束した以上は、例え八雲達に会いたいという気持ちが強くとも、目の前の少女との遊びを優先する。
………それに、これは勘でしかないんだけど。
もし約束を破って、この少女の目の前から消えたら…多分、呪いとかの類で死ぬ。そんな気配というか、予感がする。それも、トラウマ必須クラスの怖ぇ演出込みで。
そもそも、この唐傘少女の出現演出自体、唐傘お化けたちの共喰いの結果、出てきたんだ。今は俺が妖怪に肯定的で、彼女のやりたい事を一緒にやれてるから問題ないけど、もし仮に他の妖怪系の奴らが、それを知らずに放置していたら………。
……考えるの辞めよう。身震いしてきた。
で、今は廃校の体育館にて、昨日、少女が提案した蹴鞠で遊んでいる訳なんだけど……思ったよりリフティングが難しい。バランスというか、強すぎず弱すぎずのバランスが結構難しいというか……あ、また落ちた。
「ア、マタ落チタ。オ兄サン、モット集中シナイトダメダヨ?」
「すんません…」
力加減を間違えて、蹴鞠を変な方向に飛ばしていってしまった。
その結果、怒られてしまった。俺より低身長の子に叱られるのって、はたから見れば滑稽の何者でもないな…。まぁ、俺にとってはある意味ご褒美な訳だけど!
「見テテネ?コーヤッテヤルンダ、ヨ!」
「おぉー!」
俺の醜態に見かねた唐傘少女が、お手本として蹴鞠を実践してくれた。自分から提案するだけあって、成程確かにラリーが続いている。無駄な動きも無くて、フォームも安定している。何より一生懸命やっている姿がとても可愛らしい。
…俺、詳しくないのに何を知ったかぶったかのような発言してんだろ。ちょっと空しくなった。
「ジャア、次ハオ兄サンガヤッテミテ!」
「はいな。頑張りますよーっと」
取り合えず、さっきの唐傘少女がやった通りの事を……お、おぉ……おぉぉ?
「オ兄サン、サッキヨリ出来テルヨー!」
「ほ、ほんとぉ?」
「ウン!スゴイスゴーイ!私モ負ケテラレナーイ!」
ど、どうやら上手くやれてるみたいだ…!そんなの自分で分かるもんじゃないのって?やってみるとね、そんな事に集中してる暇があったら足と目を動かす必要あっから!!少しの油断が死に直結するからぁ!!
そんな俺の横で、少女も負けじと蹴鞠を開始した。あの、これ勝負してる訳じゃないからね?ただ遊んでるだけだからね?蹴鞠自体、競うものではあるけどさ?
「あ」
「私ノ勝チー!」
しまった、集中力が途切れて、ボールが飛んでってしまった。でも、俺にしては良い線行ったんじゃない!?
蹴った回数は……20超えた辺りからは数えてない。そして少女はまだ続けてる。上手だねぇ本当に。
「エヘヘ!楽シイワ、楽シイワ!モット遊ビマショウ!」
「はーいはい、いくらでも付き合ってあげますよぉーい」
その後も、俺は少女が提案する遊びを、一緒に遊んだ。
例えば、あやとり。
「一応、ほうき完成…!」
「見テ見テー!オホシサマ!」
「何それすごい!?どうやんの!?」
例えば、独楽。
「ウワァ~!オ兄サンノ独楽、スゴイ早イネエ!」
「小学校の頃、何故かめっちゃ流行ってたからな!こういうのは得意なのよ!」
あとは、だるま落とし。
「エーイ!」
「何故初手からだるまの頭を!?一番下からだよ!?」
「エ、違ウノ?」
「違いますですわよ!?」
他には、羽子板。
「バドミントンみたいで楽しいな、これ。って言ったそばから油断した!?」
「アハハ♪オ兄サンノ負ケネ!ジャア、オ顔ニ墨ヲ塗ッテアゲルワネ?」
「あ、そういう罰ゲームあったんすか…ってがっつり塗るなぁ!?」
凧あげもした。
「……風、来ないんだけど」
「オ兄サンノ妖術デ、風出シテー?」
「成程それだ。それ!」
「ワーイ!飛ンダ飛ンダー!」
という感じで、唐傘少女と目いっぱい遊んだ。他にも色々遊んだぞ。竹馬とか、縄跳びとか。
昔懐かしい遊びを中心にやっていたが、かなり楽しいものだ。今度、稲葉達も誘って遊んでみるとしよう。
そして気づいたら、あっという間に、現実時間は0時を越えていた。楽しい時間というのは、あっという間に過ぎ去る物なんだな。
「ふぅー、結構疲れたぜ……!」
「フフフ♪楽シカッタ?オ兄サン」
「あぁ、楽しかったぜ。ありが……!」
少女にお礼を言おうと、振り返った。
少女は、消えかけていた。体のあちこちから、光の粒子みたいなのが少女の体から出て行って、消えていっていった。
「ウフフ……最期ニ、オ兄サントイッパイ遊ベテ、トテモ楽シカッタワ。貴方ノオ陰デ、『成仏』出来ルワ」
「……成仏、か」
「エェ。少シ、オ話ヲ聞イテクレルカシラ?」
「……いくらでも、聞いてあげるよ」
「アリガトウ、オ兄サン。エトネ…」
そうして、少女は語る。自分が何者なのかを。
唐傘少女は、唐傘お化けの集合体。捨てられた傘たちの怨念が、積もり積もって、人の形として顕現した。今回のケースで言えば、学校に置いてけぼりにされた傘たちがそうだ。
本来であれば、怨念は人を襲う存在と成り果てて、人里に降りて危害を加え、俺達プレイヤーや、陰陽師という和製魔法使いのNPCによって討伐される存在。仲間になる事も出来ない、完全なる敵対モンスター。
しかし、彼女は違った。何故なら、彼女は”知っていた”からだ。自分達の主……子供達が、何故自分達を捨てた……否、”消えた”のかを。
「アル日ネ。コノ学校ヲ『怪物』ガ襲ッタノ。大キナ大キナ、白イ骸骨ヨ」
「!がしゃどくろ……!」
少女は語る。
とある雨の日の事だった。
いつものように、授業を受ける子供達。そこに、『ありえざる来訪者』が訪れた。
がしゃどくろ。
俺達が倒すと決めた、怨念の集合体とも言える、超巨大骸骨。
そいつが突如、学校を襲ったのだ。
本来であれば、学校には結界が施されていて、野良妖怪が侵入してくるような事は一切ないし、そもそも襲おうとする野良妖怪すらいなかった。だから、突然現れた脅威に、子供達はおろか、教師たちすら対応できなかった。
結果、学校の中にいた妖怪達は皆、がしゃどくろの腹の中へと誘われていってしまった。
それを知っていたから、彼女は子供達に恨みを持つことはなかった。その代わりに、新たな”想い”が出てきた。
『独りぼっちで死にたくない』と。
だから、『誰かといっぱい遊んで、寂しい想いをしないで逝きたい』と。
……がしゃどくろへの恨みは、蓋をしたみたいだ。自分には勝ち目がないから。そもそも、妖怪の世界は弱肉強食が常。弱い自分には、何も出来ない。悔しいけど、それが真実。だから、それは未練の中には入らなかったみたいだ。
「今デモネ……アノ日ノ出来事ヲ思イ出シチャウノ。私達ノ持チ主達ノ、悲鳴ト叫ビガ……!『助ケテ』ッテ……!『死ニタクナイ』ッテ……!デモネ、アノ骸骨ハネ、私達ノ持チ主達ヲ、バリバリト大キナ音ヲ立テナガラ……!ア、アァァア……!」
「っ落ち着け!」
頭を抱えて、叫び出しそうになった彼女を抱きしめて、宥めさせる。辛い思い出を思い出させてしまってごめんよ。だからこそ、俺は彼女に『誓う』。
「安心しろ、唐傘少女。がしゃどくろは、俺が倒してやる」
「………エ?」
「俺もな、がしゃどくろには恨みがあるんだ。だから約束する。必ずがしゃどくろを倒してやるって」
「……本当?」
少女は、涙でいっぱいになった瞳で、俺を見つめてくる。その姿を見て、がしゃどくろへの怒りがこみあげてくる。それを一度飲み込んで、彼女を不安にさせないために、笑顔で俺は語る。
「おう!俺は約束は破らないんだ!今日だって、破らずに君の元へ来た。信憑性、高いだろ?」
「……信ジテ、イイノ?」
「おうよ!がしゃどくろを倒したら、ここに来て報告するぜ。がしゃどくろの亡骸をお土産にな!」
俺は笑顔で、彼女にそう宣言する。
少女はポカンとしていたが……次第に、さっきの可愛い笑顔になっていった。
「……ウフフ♪ナラ、極楽浄土デ期待シテ見テイルネ!オ兄サン、約束ヨ?」
「…あぁ。約束」
少女が、小指を出してきた。俺も小指を出して、絡ませる。そして、誓いの歌を歌う。
「「ゆーびきーりゲーンマン♪ウーソついたら針千本飲ーまス♪ゆーびキッタ♪」」
……約束を誓ったのち、少女の体が、さらに透けていった。どうやら、お別れの時間のようだ。
「オ兄サん!また遊ビに来てネ!今度は、お友達モ連れテキてね!」
「あぁ。お友達に会ったら、君との出会いを伝えて、一緒に来るよ。だから、空から見守るか、遊びに来いよ」
「ウフフ♪うん!あ、そうダ。お兄さん」
「ん?なん――」
一瞬。ほんの一瞬だが、頬に少女の唇が当たる。
「えへへ…バイバイ♪」
そうして、彼女は笑顔で光となりて、消えていった。………その場に残ったのは、彼女が持っていた、赤い…紅い、唐傘だけだった。
「………最後に、嬉しいお土産を二つくれて、どうもありがとね」
恥ずかしい気持ちはあったが……彼女との約束を無駄にしないためにも、精進しないとな。
つまり…。
「待ってろがしゃどくろ!必ずお前をブッ倒して、ハッピーエンドを迎えてやる!!!」
『唐傘少女の想いの唐傘を手に入れた!』
『PN:雨天決行は【契りの唐傘お化け】への特殊進化を果たした!』