『野望』への第一歩。新たなる仲間
『“シークレット召喚”を確認。以後、この召喚手順を以て、新たな召喚モンスターカテゴリーに、【妖怪シリーズ】を追加致します。おめでとうございます。発見者であるプレイヤー、【雨天決行】にこれより、特別な召喚モンスターをプレゼント致します。これからも、【Alternative Online】をお楽しみください』
……………………今なんて言った?
「お、おい。今の声って…!」
「あぁ、明らかに運営アナウンスだ!俺はあの人の声が大好きだから分かる!間違いない!!」
「で、でもって今…シークレット召喚って言ったよな!?」
周りがざわつきだした辺りで、俺と稲葉で顔を合わせた。
「………シークレット召喚って…言ったよな…」
「あぁ、確かにそう言ってたな…」
「「………てことは…?」」
二人で、何の反応もしなかった召喚石の方に目を向ける。
ゴオッ!!
次の瞬間だった。召喚石を中心に竜巻が発生した!
「うおおぉ!?何これ何これ!?こんなの俺知らない!初めて見るんだけど!?」
「ま、まさか本当に?本当に妖怪系統なのか!!?だとしたらすっげぇテンションぶち上がるんだけど!!頼むからこれでドッキリでしたーwww!とかって言わないでくれ頼むから!!!」
噴水広場で強烈な風を巻き起こしていく竜巻から飛ばされないように踏ん張りつつも、目の前で起こっている光景に、俺はマジで興奮を隠せうおおおおおおおおおおおおすっげええええええええええ!!
ん?あれは…まさか!?
「おい見ろお米!竜巻ン中で、何かが形を形成していってる!」
「えぇ!?あ、本当だ!なんか動いてる!!」
目ざとい俺は、竜巻の中で変化が起きているのをすぐに見つけた!
竜巻の中で、影が作り上げられていった。それは徐々に巨大となっていき……八つの長いナニカとして形を変えていった。
まさか…あれはぁ!!
ブワアァ!!
「うおぉ!?」
「うわった!!」
興奮していたその時、突然竜巻が膨れ上がっていき、周囲へと散っていった。
その範囲内にいた俺と稲葉、そして野次馬達はそれを喰らって吹っ飛ばされた。うおぉ、お尻打ったぁ……!
「はっ、そうだ!召喚は!?」
すぐに起き上がり、さっきまで竜巻が発生していた場所を見やる。
そこにいたのは…!
『キシャアアアアアアアアアアアアア!!!』
黒く光る鱗!特撮なんかに出てきそうなほどの巨大な体躯!そして八つの長い首!
雄叫びを轟かせる、大蛇の姿がそこにはあった!
そして俺は知っている!この妖怪の正体を!この妖怪の名を!!
「ヤマタノオロチキターーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
誰もが知る最強妖怪に名高い大蛇が、俺の召喚方法で現れた!!
来たよ来たよ来ちゃったよ!!!!憧れの妖怪!マジモンの妖怪!!召喚士が生み出すモンスターシリーズで見た、なんちゃって妖怪っぽいのとは隔絶した、本当に本当の!!何度もネットや図鑑、伝承なんかで見かけた、まさにその姿!!
紛う事なき、ヤマタノオロチそのものだ!!!
本当に………!夢にまで見た、妖怪をこの目で……!俺の手で…!!
「あぁ……!嬉しくて、嬉しすぎて涙が…!!」
気づけば、眼からボロボロと涙を零していた。中学校の卒業式の時や、婆ちゃんの葬式の時のように、とめどなく涙が溢れ出てきて、視界を滲ませてきやがる…!!
『問オウ』
「!?」
突然、上から周囲に響き渡るかのような声が聞こえた。驚いて涙も引っ込み、慌てて上を見上げれば……。
八つの頭が。
16の瞳が。俺の事を睨みつけていた。
『オ前ガ、我等ヲ喚ンダノカ?』
威圧感たっぷりに、その声は問いかけてくる。
『返答次第では、すぐさまお前を食ってやる!』
そんな声すら聞こえてくるような程、ヤマタノオロチはじっくりと、俺を睨みつけていた…!
それだけで、ちびりそうだ…!蛇に睨まれた蛙の気持ちって、こういう事なんだろうな…!
だが、それでコイツの意図は読めた!
きっとコイツは試している!俺というちっぽけな存在に、自分が仕えても良いと思うような存在か否かを!
ならば、やる事は一つ!
「応!そうだ、その通りだ!俺が、お前をここに喚び出した!俺の方法で、俺が編み出した方法で!だから俺に従え、神をも喰らわんとした災害の蛇よ!!」
逃げずに真正面から堂々と!しっかりとこの単眼で、目の前の大怪物を睨み返す事だ!
『………ソウカ。……………ク、ククク…!』
ただひたすらに睨み返していたら、ヤマタノオロチは小さく笑い始めた。
『良イダロウ!我等、貴殿ニ忠誠ヲ誓ウ!我等ガ牙、我等ガ異能!全テヲ我ガ主ノ為ニ!!』
ヤマタノオロチは、声高らかに叫ぶ。
そして誓った。俺に忠誠を誓うと……!
契約、完了だ……!!
ブワァ!!
「!?」
「なんだ!?」
突然、ヤマタノオロチの頭が花となって、その姿を崩し始めた。
みるみるうちにその身は削れていき、小さくなっていき……最終的には……!?
「さぁて、我等が認めた我等が王よ。どうか、我等に“名前”を授けてほしい」
…蛇を模したマフラーを身にまとい、昭和時代を彷彿とさせるような黒のセーラー服、頬には蛇の鱗、先の黒く光り輝く鱗の如き艶やかな髪が、地面に着くか着かないかのレベルにまで伸びている………それはそれはもう、超絶美少女としか言い表せない程の存在が、俺を見ていた。
「……ぉ…あ……」
「…?どうしたんだい?………もしや、この服装はどこか変だったりするのかな?君の時代に合わせた服を作った筈なんだが…」
「え?!あ、いやいやそういう訳じゃなくて!えと、その……ぁー…あんまりにも綺麗なもんで…」
「…ふはっ。なんだ、そうだったのか!いやいや、それなら良かったよ♪」
くそぅ、可愛い!!同じクラスの女子生徒と話す機会があんまりなくて、ろくに喋る女性っつったらお袋か昔通ってた塾のおばちゃん先生くらいしかいなかったから、新鮮すぎるというか、刺激が強すぎて反応に困る……!!
「っていやいや、そうじゃなくて…!えーと、名前ね、名前……」
モンスターを召喚した際、そのモンスターに名前を与えるのは、召喚士のみならず、モンスターや動物を扱う系の職業を選んだ人の絶対事項。これ大事。
勿論、この【Alternative Online】に来る前に、いくつか候補は作ってからログインした。
しかし、だがしかし!彼女に見合う名前が無かった……!一から作るとなるとぉー…!そぉーだなぁー………!
ヤマタノオロチ……お酒……天叢雲剣……伊吹童子……八つ頭…………。
………ふむ。なら…。
「決めた!今日から君の名は―――!」