星海の鐘池
「うおぉー……不思議な光景だ」
「そうでしょ~。私も最初見た時、変な気分になりました~」
死化粧の湖の中。そこに広がっているのは、何とも言えない光景だった。
何故なら、中は毒で溢れていないからだ。あのー……あれだ、泡風呂あるだろ?その泡の部分が毒みたいな感じ。
だから、中は意外と普通……っつーより、そこら辺の川とか湖より綺麗だった。遠くの魚すら見える程、透き通った湖だ。そこが何というか、不思議な感覚で混乱する。
「湖の中は、もっと毒々しいものだと思っていたよ。こうも綺麗だとはねぇ」
「綺麗ですよねぇ。でも、綺麗でもしっかり毒水なんですよー。それで痛い目を見ました」
「うーん……不思議だ。なぁメリィ、お前どうやってここを見つけたんだ?」
「企業秘密でーす」
こんな怪しい所をどうやって見つけたのかを聞いてみたが、はぐらかされた。くそぉ、知りたかったな。
でもこれ以上聞いたら、多分、世海の結婚と引き換えにーとか言い出すだろうから、絶対に聞かない。
ただ……
「うおおおおお……!い、今、横を通っていったっすよ…!めっちゃ怖いっす…!!」
…この湖にも、当然モンスターは存在する。そして今、そのモンスターの中では大きい部類に位置する魚型モンスター、ヴェノムバスが、ゆっくりと横切っていった。うん、メッチャ怖い!
「大丈夫ですよ~。シャボンちゃんの泡は、ステルス機能も付いているんですー。こっちからちょっかいを出さない限り、モンスターはこっちには絶対に気づきません~」
「この泡すげぇ!?」
潜水も出来て、ステルス機能もあって……泡の癖して、割と高性能だな!?
「あ、見えてきましたよ~!」
『んんー?おや、何か洞窟のような穴が見えますね』
潜る事、凡そ10分。
割と深く潜った辺りで、岩肌に穴がポッカリ空いている所を見つけた。どうやら、そこが目的地へと通ずるようだ。
さっきまでただ流されるままの状態だったが、ここに来てシャボンちゃんが、泡の真ん中で歩き始めた。それに合わせて、俺達を覆っていた泡も動き始め、その穴の中へと入っていった。
「ここまで来れば、もう大丈夫ですよー。この洞窟のサイズより大きいモンスターしか、この湖にはいませんので~」
「まぁ~う…」
「『魚食べたかった』だって?すこちゃん様、それは死にに行くようなものだぞ?」
洞窟の中に入って2分程。水面が見えてきた辺りで、シャボンちゃんが上に向かって歩き始め、俺達は水面から顔を出す。
そこにあったのは……あの毒の湖からは連想できないような、とても神秘的な光景だった。
「ようこそ、私の穴場スポット。その名も『星海の鐘池』へ!」
その洞窟は、翠色に輝く水晶で構成された、とても綺麗な場所だ。
水晶の柱があちこちに刺さっていて、それが天井を支えている…そんな印象を与える洞窟。その洞窟の真ん中には、これまた翠色の水で満たされた池が存在していた。
「それではお義父さん!釣りをしましょう!」
「…え、釣り?」
「はい!これ、貸しますね!あ、スキルとかなくても楽しめるので、そこはご安心を!」
そう言って、メリィは突然、人数分の釣竿を渡してきた。突然で分からなかったが……まぁ、すぐに意図に気づいたよね。釣りをすることで、獲れるモンスター…というか魚?がいるんだろう。それをゲットする事が、経験値アップの近道なんだろう。
そういう事なら、楽しんで釣りをしよう。餌は…あ、なくてもいい?そういう事なら、このまま針を池の中へポチャンと。
さて、あとは待――――ヒットするの早くない!?
「入れた瞬間食いつくの!?」
「あれ、言い忘れてましたかー?この池のお魚さん、馬鹿だからすぐに食いつくんですよー」
「あ、でもなんか簡単に釣れた!?」
「馬鹿だし力もそんなにないんですよ~」
釣り糸を垂らしてすぐに釣り上げたその魚は……なんだっけ、この魚。テレビで見た事あるようなー…………あ、思い出した。ピラルクだピラルク。世界最大の淡水魚で、生きた化石って言われるあの。コイツは、そのピラルクをそのまま小さくした感じの大きさをしているよ。
「おぉ、私にも簡単に釣れたとも!」
『入れ食いだね!』
「フウゥー……!にゃう!」
「すこちゃんすごーい!」
「なんで自分の所には、魚一匹も来ないんすか!!?」
お、皆も大量ゲット出来ているみたいだな!……ココノを除いて。
「で、メリィ。これがその、経験値大量ゲットの?」
「はい!その名も『グロウラルク』って言って~、この翠水晶から抽出されるエキスをたーっぷり食べている魚さんなんです~!」
え、この翠水晶を?じゃあこの翠水晶、ちょっと持って帰っても…
「やったらこの前死にました」
「なんで!?」
「呪いみたいです…」
「呪いなのかぁ…」
なら…しゃあないかぁ…。でも、水晶がダメで魚はオッケーなのって、どういう違い?
「あ、あとこれは豆知識なんですけど。さっき、この翠水晶のエキスを吸って育つって言いましたよね?」
「ん?うん、言ってたな」
「成長の際に出てきた老廃物が、あの死化粧の湖を作ってるみたいですよ~」
「え。じゃあ何、あの毒ってこの魚のう○こって事!?」
「その通りです!」
その情報、知りたくなかったなー!?
「フハハハハハ!ゆけぃ、我が妹たちよ!この池の魚たちを捕まえまくるのだー!」
『ちょ、さっきから水がめっちゃかかってるんですけど!』
「魚が逃げるっす!辞めるっす姐さん!!」
あ、八雲がヤーちゃん達を使って、池の中のグロウラルクを捕まえては陸に引き上げてってる。熊かなんかか?
「あ、忘れてました!釣った魚は、この冷却ボックスに入れてくださーい!じゃないと腐って、経験値大量ゲットどころか、大量強奪されちゃうんですー!」
「腐るとそんなヤベェ効果が…!?」
急いでグロウラルクを冷却ボックスにぶち込んでいき、パンパンになるまで放り込んだ。
いやぁ、大量大量!
「では、あとはこの子達を持ち帰って、調理して食べるだけです!」
「成程。それで経験値を大量に?」
「はい!では、帰りましょー!」
目的も達成した所で、俺達はまたシャボンちゃんの力を借りて、湖から脱出するのだった。
「所で、調理はどうするの?」
「お兄とお姉を頼ります!」
「え゛」