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死化粧の湖

海の上に存在する水の国、ウオクア。

故に、プレイヤーは基本的に、海を狩場として生活する。


「でも、ここは『水の国』。でしたら、”川”や”池”、”湖”なんかがあるのは当然ですよね~」


そう語るメリィ曰く、この水の国でのモンスタースポットは、何も海に限った話じゃないようで。ウオクア周辺には、沼地や湖、池、川なんかも多く存在していて。そこにも当然、モンスターは存在しているそう。


今回、俺等がメリィに連れられて向かう場所というのも、その中の一つなんだとか。彼女の案内の元、俺達はそこへ向かう。道中、色々と質問攻めにあったりこそしたが…まぁ、有意義な時間だったよ。


ただ、ビックリした事がある。メリィはどうやら、病気を患っているらしく。前回の【天獄戦争】の際も、大半を病院で過ごしたせいで参加できず、天使を召喚出来ず終いだったと。

………すこちゃん様と世海をメリィに預けて、もふもふをたっぷり堪能させる事にした。ご満悦そうで何より。


さて、メリィが俺達を連れて向かう先の名は『死化粧の湖』。推奨レベル60の、かなり難易度高めのスポットだ。そこにどうやら、例の経験値を大量ゲットできるスポットがあるようだ。


……ただ、問題があるとすれば。その死化粧の湖というのは、早い話が”毒”で出来た湖なのだ。それも、かなり強い毒で構成された。『猛毒耐性』とか、『状態異常耐性』とかでも、結構厳しいレベルで強いんだとか。

勿論、触れない限りは問題ないんだけど…モンスターがその毒湖にいるもんだから、出てきた時の水しぶきにかかって~とか…そういう事故で毒になったりするケースがある。


あと、匂い。匂いがかなりキツいんだって。曰く……


『春日部に住む某大黒柱の足の匂い』


……それもう、死そのものでは??


「な、なぁ…本当に大丈夫なのか?そこ」

「はい!問題ないですよ!」


うーん、いい笑顔。でもすごい不安。

だってこの子、ここに来る前にさぁ…


「あ、何も準備する必要ないですよ~」


って言ったのだ。毒ステージに、何の対策もしてこなくていいって。そいつは笑顔で言ったんだぞ?

ハッキリ言って、怪しさ全開だ。


…でも、何かを企んでるっていう感じでもねーんだよな。もしそーだったら、すこちゃん様とかが気づく筈だし。野生の勘って奴で。


なら……警戒こそするけど、一応信頼はしておく。

だけど!さっきの兄姉の件、忘れた訳じゃないからな!PKとかだったら、マジでお前……泣くぞ!?


警戒をしながら、ウオクアを出て約30分弱。

先ほどまで生い茂ってた植物が、徐々に数を減らしていき……遂に俺達は、目的地へと到着した。


「ようこそ~、『死化粧の湖』へ~」


メリィに連れてこられた場所は……一言で表すとしたら、”地獄”だ。


まず、湖という名に相応しく、その湖はかなり広い。水平線も見えるから、面積がかなりある方だと推測する。


しかし、周りの光景が最悪すぎる!

そもそも、湖の中を満たしているのが、淡水じゃなくて毒なのがもう、予想してたとはいえ酷い!オマケに紫色のなんか濃い感じの毒が、さっきからゴポゴポとガスを出しているんだよな!


その毒ガスが最悪すぎる!!何この匂い、クッサ!!?鼻がもげそう…つーより、腐り落ちそうなんだが!?ゴミ捨て場でも、こんなひっどい匂いとかしないぞ!?

くそ、これが例の大黒柱の足の匂いだってのか!?


こんなに酷い環境が広がっているせいか、湖の周りには、草木一本も生い茂っていない!これが地獄じゃなければ、他に何の例えがあるんだ!?


「ふが、が……!」

『あぁ、すこちゃん様!すこちゃん様があまりのbad smellで死にかけてます!』

「ぢょ……じぶんも死にぞうっず……!ば、鼻栓どがないっずが…!?」

「ここまで酷い匂いだとは、我等も予想外だったよ…!」


そして、このとんでもねぇ悪臭により、死にかけが二人いるんですけど!?


「なぁ!本当にここが目的地なのか?」

「そうで~す!では、今から準備しますので、少し待っていてくださーい」


じゅ、準備?準備って……はっ、まさか?!


「まさか、この中を”潜る”なんて言わないだろうな!?」

「おぉ~、お義父さん正解でーす!」

「当たってほしくなかったわ!!!」


冗談だろ!?こんな、如何にも毒です!ってめっちゃ主張してくる毒湖の中を入っていくの!?アイテムとか魔法とかを抜きにしても、絶対に嫌なんだけど!!?


「皆、信じないんですよね~。この湖の中に、お宝スポットがあるなんて~」

「当然だわ!!」

「でも、こう考えてみてください。『そんな所にあるわけがない』『そんな所見るだけ無駄』。そういう所にあるからこそ、”秘密”の存在はあるんだーって」


……………何故だろう、ちょっと説得力が出てきてしまった。

意表を突いた場所にあるからこそ、ってか……。うむむ……!


「えーっと…よいしょ」

「えー、でもなぁ……ん?何それ?」


メリィが、鞄から何かを取り出した。それは……石?というより……宝玉か?


「あれ、言ってなかったですっけー?私、職業はテイマーなんです~!」

「テイマー!?魔法使い系じゃなくて!?」

「はい~。普段はテイムした子たちは、この宝玉の中に封印しているんです~」

「ほ、宝玉の中にモンスターを……いや、そういえばそういうアイテムがあったような…?」


過去の記憶を思い出す中、メリィは持っている宝玉を杖にセットして、詠唱を開始した。


「『来たれ、我が従僕。我が声に応え、顕現せよ』。という訳で、おいでシャボンちゃーん!」


杖から光が放たれて、俺達の前に降り立った。そこから出現したのは…


「メェー」

「……羊だ」

「羊だねぇ」

『There's a sheep』

「羊っすね!」

「まーぅ」

「もこもこだぁー」


メリィの事だからと思って予想はしていたが、やはり羊だった。

体毛がシャボン玉みたいな感じになってる事を除けば、どこにでもいそうな風貌の羊だ。


「私の6番目のお友達、泡羊(あわひつじ)のシャボンちゃんでーす。この子の力を使って、この中に入っていきまーす!」

「シャボンちゃん……あぁー」


そーゆー感じね?はいはい、それならまぁ……なんとなく、やりたい事も理解できるし、毒状態にならずに済む…のかな?


「んん?どういう事だい?」

「つまりだな――」

「それでは、早速行きましょうー!シャボンちゃん、『潜水泡沫(ディープ・シャボン)』ー!」

「メエェー!!」


八雲に説明しようとした矢先、シャボンちゃんを中心に巨大な泡が膨らんでいき、俺達を包み込んだ。

…つまり、こういう事。


「おぉ!綺麗だねぇ!」

「それでは~、目的地までご案内いたしまーす!この泡、実はステルス機能もあったりするので、道中は危険が無いんですよ~♪」

「すっごぉーい…!」

「あぁ、可愛い……!お義父さん!」

「ダメです」

「ブー!!」


シャボンちゃんの泡に包まれながら、俺達は毒の湖の中へと入っていく。

……分かっちゃいるんだけど、やっぱり不安になる。どうかこの中で戦闘になりませんように……!!

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