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ふわふわ羊のメリィさん

「えへへ~、可愛い~…!」

「んぅー……くるしぃー…」

「………えーっと…」

「……どういう状態なんだい?これ」


俺が知りたいわい。


よし、現状を整理しよう。


まず、俺達は無事にこの水の国、ウオクアへとたどり着くことが出来た。

そして、しばらく観光をした。そんでもって、宿屋に行こうと動こうとしたら、いきなり謎の少女、メリィと名乗るプレイヤーが現れた。


メリィというキャラを一言で表すとしたら……羊、が一番最初に思い浮かべるね、これ。

だってよぉ……地面と接触しそーになるくらい長ーい白髪がさぁ、すっごいもっこもこになってるんだぜ?そんで、そんな白髪の間から、渦巻き状の角が二本こんにちはしてる。

さらには、羊毛で出来たそのコートとか鞄とか、羊系統のモンスターの素材で製作したであろう杖とかがいっぱいだ。


つまり、見たら分かるお前羊めっちゃ大好きじゃん?って事。あと……小っちゃい。世海と同じくらい、背が低い。ちんまいのよ、この子。

まぁ、このゲームってキャラクリの時に、色々とやれたからな……身長とかも色々弄ったんだろう。そう考えれば納得なんよ。目の色とか明らかに紅いし。アルビノ系なんて、ゲームだから許される容姿だよな。


そんなメリィはなんというか……ゴーイングマイウェイな感じで、いきなり俺達と行動を共にし始めて…現在、世海をとても気に入ったようで、世海に頬擦りをしながら、キャリザウラーを宿屋に預けて、水路とはまた別に存在している歩道を歩いてる。

俺達も当然、その後を付いていくんだけども……何というか、思い返してもよく分かんねぇな?これ。


…まぁ、世海は抱き着かれて苦しいとはいいつつも、逃げる素振りとかは見せないから、悪い奴とかではないようだ。いきなりフレ登録してきたのはビビったけど。……圧に負けて登録した俺も大概とは思うが。


………というか、その辺はまだちょっといいんだ。結構問題なのがさぁ…。


『Hmm.こうまで強い殺気をぶつけられると、色々とムズムズするね』

「尻尾と耳がビンビンしまくってるっす…!」


………どこかからか、強力な殺気がこっちに向かっているって事なんだよなぁ…!

ああああ、背中辺りがムズムズするぅ…!がしゃどくろに襲われた時と同じ感覚ぅ……!!


このメリィとかっていうのと接触した辺りから、ヤケに肌に突き刺さってくるんだよなぁ……!身内か何かですかこの野郎……!?


「あの、お義父さん…!世海君を私にください!」

「だからやらんと言ってるでしょうが!?」

「ちぇー」


そして、隙あらば婿にしたいと言ってくる。確かにさぁ、このゲームは結婚機能とかあって、その気になれば、自身の召喚獣とか、その辺のNPCとかも結婚出来るけども!

だとしても!どこの馬の骨とも知らぬ輩に、我が息子は絶対にやらんぞ!!


「というか…世海のどこを気に入ったんだ?お前」

「全てです」

「………具体的には」

「全てです」

「……あの」

「全てです」

「……はい」


で、気になった事を聞いてみたら、ごり押しで黙らされた。何なのこの子?怖いんだけど。

いや、というより……いいんか?羊以外に現を抜かしていいんか?お前さん、どう見たって羊LOVEだろ?なのに、羊ですらない海坊主の世海を可愛がるって……その……


「浮気じゃないので大丈夫です」

「それ本当に回答として正解か?」

「ノープロブレム」

「そんなドヤ顔で言われても…」

「そもそも、この子は髪が白いです。つまり立派な羊の子です。私がそう決めたのです!」

「すまん、日本語で喋ってるんだろうけど言わせてくれ。日本語でおk」


本当にコイツ自由だな。なんで狂人枠だと思ってた俺に対して、さらに狂人枠が来たりする訳?妖怪が絡んでないと、俺がマトモ枠なのは常々理解はしてたつもりだったけど……だとしても、だとしてもだ。


これ以上変なのが来られても困るんだけど……!!


「フー……!」


あぁほら、すこちゃん様がお気に入りの世海を取られたと思って、女の子がしちゃいけない顔になっちゃってる!絶対にしちゃいけない顔になってる!


「あ、そうだ。お義父さんお義父さん」

「お義父さん言うな」

「これから、一緒にレベリングしに行きませんか?」

「唐突すぎないか??」


さっきまでそんな話、してなかったよねぇ?え、なんでいきなりそんな話になるわけ?どういう事?


「さぁ、そうと決まれば行きましょー!」

「ねぇ待って?俺まだ了承してないんだけど?というかなんでそんな流れに!?」

「そうだぞ、小さき羊よ。我等が王を困らせるな」

『そうですね。流石にそれ以上は迷惑……とまでは言いませんが、少し控え目に』


と、ここで二人が助け舟!助かった!


「ぶーぶー。私はお義父さんと仲良くなって、息子さんをお嫁さんにしたいだけなんですー!」

「恐ろしい程に、欲望に忠実っすね!」

「ぼく、おとーさんといっしょがいーよぉー…」

「大丈夫です、貴方は私が幸せにしますから…!」


……そろそろ収拾がつかなくなりそうだ。悪いけど、一旦世海と別れさせよう。


「んーっと……ちょっと落ち着いて話してぇから、少し離れ――――ッッッ!!?」


殺気!!?しかも、超至近距離に!?いつの間に後ろに!!?

や、やばい……!このまま動いたら、確実に殺される…!でも、動かなかったらそれでも死ぬ!!ここまで明確に敵意と殺意を向けられたのは初めてだ……!下手したら、がしゃどくろ以上な気がする……!


あれ、息ってどうするんだっけ?まばたきって、落ち着かせる方法ってなんだっけ!!?


あ、ヤバイ…!い、息でき……!


「あー!ちょっと、お兄ー!お姉ー!私のお友達なんだよー!悲しませたらメー!もう口聞いてあげないよーだ!」


っっっぷはぁ!!


はぁ、はぁ……!きゅ、急に空気が軽くなった…!あぁー!なんか空気がすっごい美味しく感じるぅー!!


「な、何だったんだい今のは…!?我等が、動く事すらできなかったよ…!?」

『動いたらdie.動かなくてもdie.そんな感じの殺意を向けられてましたね……!』

「さ、さっきまで遠くにあった気配が、秒でこっちに来たっすね…!すっごいヒヤヒヤしたっす……!」


や、八雲達も、咄嗟に反応できなかった所から推察するに……多分、というより確実に、実力は俺達以上。そんな奴らの殺意を向けられてたんだ……。


なんだこれ地獄か??


「お義父さん、さっきはごめんなさい。さっき、お義父さんたちをキルしようとしたのは、私のお兄とお姉なんです」

「ふぅー……ちと落ち着いた……。で、えーと…兄姉?」

「はい。お兄たちは何というか、色々過保護で……兎に角、色々とごめんなさい」

「……いや、謝らなくて大丈夫だよ。俺達は気にしてないから」


それほど愛されてるって事だ。家族愛があるのは良い事。それを貶すつもりはない…………んだけど、文句は言っても許されるよな?


「お詫びと言えるかは分かんないですけど、このウオクアの中で、一番経験値を稼げる秘密のスポットがあるんです。そこにご案内しますー」

「んぇ?良いのか?」

「はい~。私だけの秘密の場所なんですけど、お義父さんには特別にお教えします~!それでは、ついてきてくださ~い!」


……折角のご厚意だ、ありがたく頂戴しよう。

そんでレベルが上がったら……がしゃどくろブッ倒して、メリィの兄姉の顔を一発殴らせろ………!!

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