戻ってきました
「やぁ皆。俺だ。もう少しで帰るから、お別れを言いにきたよ」
懐かしの広場に足を運び、祠にお参りをして、そう報告する。
お盆参りも無事に終わり、夏休みもあと2週間で終わる。その為、懐かしの我が家に戻って、色々と準備をしなければならない。お土産とかも、いっぱい買ったしね。
「次に来るのは、来年かもな。なんせ、家からここまで割と遠いからね。ゲームみたいに、すぐにたどり着くとかは出来ねぇしさ」
さて、最後に祠の中にお酒とお菓子を置いて……よし、帰るか。
「じゃーな、皆。また来年」
さてさて、帰る時に稲葉達に報告とかしねぇとな。あいつの事だ、どうせ宿題とかまだ終わってねぇだろうから、あとで色々まとめた資料を―――。
「いつでも来い、クソガキ。俺達ゃここで、酒飲んでるからよ」
―――!?
懐かしい声が、聞こえた気がした。
でも、振り返ってみても……周りを見渡しても、誰もいない。誰もいない筈なのに、声が近くで聞こえた気がして……。
ただただ、俺だけが、山の中でポツンと立っているだけだった。
……でも、胸の中は暖かくなっていった。
…そうだ。そうだった。あの口の悪い蜘蛛は、そういう奴だった。
「はは…相変わらずで安心したよ。…コガネ兄さん」
懐かしいその名を呟いて、俺は振り返る事なく、山を下りて行った。
そして、家に帰る時間になった。
親父の車に乗って、最後にもう一回と思って、思い出の山を見返した時………俺は、見つけた。
山の入口に佇む、思い出の中の人物像と一切変わっていない……金髪の男が、こっちを見て、相変わらずのぶっきらぼうな感じで、その8つの目で見ていたことに。
男は……コガネが、口を開いた。
『 ま た な 』
声は聞こえずとも、そう言っているのが分かった。
そっか……覚えていたんだ。はは、嬉しいな……!おっと、俺も何か気の利いた事を…!
『 ま た 来 る ね 』
そう口パクで伝えると……コガネは少し微笑んで、山の中へと入っていった。
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「てことでただいま!」
「お帰りぃ!はよお土産、はよ!」
「初っ端からそれかよ!?ほれ」
「やったぜぇー!」
ほぼ1日を使って、やっとこさ俺の生まれ故郷へと戻ってきた。既に朝方だから、稲葉は起きていた。今日は定休日っぽいから、そのままお邪魔する事に。お土産とか土産話とか、色々あるしさ。
「いやー、あっという間に終わりそうだよなぁ、夏休み!俺まだ宿題終わってねぇよ!」
「だろうな。やれ」
「いきなり命令はキツイっす」
「やれ」
「やれやれbotになるなよ!?」
そうでもしなきゃ、お前動こうとすらしねぇだろ?気持ちは分からんでもないけど。
「あーもうやめやめ!リアルの話は置いといて!【AO】の話にしようぜ!」
「無理やり話しを逸らしたな」
「シャラップ!えーっと……イベント、終わっちまったな」
あぁ、天獄戦争か。そーだな、あの激闘が終わってもう数日か。あっという間だったな。
「いやぁー、トーナメントえぐかったな!色んな上位プレイヤーが、熾烈な戦いを繰り広げててさ!」
「確かに。まぁ?最終的に『悪魔陣営』が”勝利”したから、俺としては嬉しい事だよねぇー!!」
「天使陣営何故負けたぁー!!」
天使陣営と悪魔陣営による、熾烈な戦い。最後の最後まで、目が離せない、とても素晴らしい時間だった!
「今にして思えば、前哨戦で見せたあのちょい地味な戦闘ってのは、本戦を華やかに見せる為の演出だったんだろうなぁー」
「……絶対違うと思う」
「……言ってて思ったけど、やっぱ違うわ」
前哨戦。ニセモノさんとAMENプリーストによる最後の殴り合いは……まさかの”相打ち”という形で終わってしまった。互いの攻撃が見事にクリーンヒットして、そのままダウン。一分一秒のズレもなく、同時にHPが0になり、消滅という……ちょっと予想外の結果となってしまった。
そんな試合を見てしまったからなのか、本戦で戦うプレイヤー達はなんか、とても士気が上がっていた。
そして、最後に勝ち残ったのは、悪魔陣営に所属していたプレイヤー、アレフレアだった。全身が紅い装束の男で、右手が大鎌のように変化していた………ちょっと、あの…見た目にSAN値チェックが入りそうな装備をしていて…不気味というか、怖い男だったのを覚えているよ……。というか、奥義っぽい技の『グッバイ』って技、あれ射程どうなってんだよ……!
しかしまぁ……勝ちは勝ちだ。皆、アレフレアの勝利を祝っていた。
そして、それに伴い、彼の悪魔に変化が訪れた。
彼が従えていた悪魔は、角の生えた豚サイズのコモドドラゴンみたいな見た目の悪魔だったんだが、なんと優勝と共に、人の姿へと変貌。しかも、天使と悪魔の羽が生えた、未知なる存在へと進化を果たしたのだ!!
ゲームマスターの説明によれば、アレフレアの悪魔は、次世代の悪魔と天使を統べる、新たなる王としての進化を果たしたとのこと。
つまり、今回のイベントというのは……天使と悪魔、両方の力を持つ存在を生み出す為、お互いの力を吸収し合うイベントだった、という訳だな!
そんな感じで、イベントは終了した。が、ゲームマスターから、ゲームのアップデート情報が発表された。
《次回のアップデートで、天使と悪魔が住まう国、『デビエントピア』の実装が決定しましたー!!》
という事で、新ステージが出現!天使と悪魔モチーフのモンスターがいたり、そこでしか出現しない特殊イベント、さらには『謎の天空遺跡』が待ち受けているとか!
………まぁ、推奨レベルが100越えの時点でお察しだけどね。
そんで、追加情報はそれだけじゃなく、近い内に新イベントを行うとか!キーワードは、『悪夢襲来』らしい。…………もー、字面だけで嫌な予感しかしない感じだね!
そんなノリで、今回のイベントは幕を下ろした。
「いやー、本当に楽しかったな!」
「だな!そんで、イベント終了になっても、悪魔とかはそのまま残るの嬉しい」
「いやそれな?イベントに全く触れていなかったって人にも、そのまま残ってていいっていう感じにしたのは神だわ」
「それな?ああいうのって、仮加入扱いみたいなもんだから、イベント終了までに何かしらの目的を達成しないと、そのまま帰っちゃうみたいな感じだと思ってたから」
つまり、アシュラもおトヨさんも、マッハもレプンもアーラも、そのまま稲葉達の元で戦うようだ。
ほんで、イベント終了後でも進化は出来るようだから、どんな感じになるのか楽しみだ。
「次のイベントが楽しみだなぁー!……嘘、楽しみじゃない」
「あー……分かりやすい程に、絶対に嫌な予感するもんな」
「俺たちのような初心者でも、楽しくやれるやつだといいなぁー……!!」
そんな感じで、その日は二人で、【AO】の内容で盛り上がったとさ。