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特訓開始!

「本日から、君たちの特訓に付き合う事になった、センコという者だ。ビシバシ鍛えていくから、そのつもりで」

「「よろしくお願いしまーす!!」」

「よろしく頼むよぉ」

『暑苦しいですねぇ』

「えい、えい、おー」

「にゃーん!」


妖狐御殿の、とある訓練場にて。


目の前にいるのは、豪傑と呼ぶに相応しい、筋骨隆々の人間に化けた妖狐、センコ。傷のついた狐耳が、ちょっとシュールでもあり、歴戦の強者感を出していたりで、感情がちょっと迷子になる。


これから、彼ともう一人による特訓が始まるということで、気合を入れていく!!………のはいいんだけど…。


「……なぁ、八雲」

「なんだい?我等が王よ」

「………本当にこれ、似合ってる?」

「おとーさん、にあってる!」

「……ありがと、世海」


現在、俺には……というか、俺と愉快な仲間たちには、立派な狐の耳と尻尾が生えている。というのも、この里で過ごすには狐の姿でいる事が絶対条件らしくて……。なので、まぁ……こんななりきりセットみたいな道具を装着させられているんですよ……。


これ、何が嫌って強制装着なんだよね!!流石にこの里から一歩出れば、このなりきりセットも消えるみたいではあるんだけども!だとしても男のこれは何というか、キツイ!!


八雲や世海は可愛いからいいし、アシュラは顔がイケメンだから許される!ただ、すこちゃん様はちょっとマズイ!!アニメとかでよく見る、ヒト耳とケモ耳が同居した四つ耳のアレみたいな感じで、耳が渋滞しちまってるんだよ!!

まぁそれも可愛さで許容できるけど……!俺に至っては需要ゼロだろうがぁ!!


オマケに、色が最悪!!こっちはさ、髪の毛紺色なんだよ!そこに普通の狐の黄褐色な耳と尻尾!ミスマッチにも程があるのでは!!?

こんなんだから、コスプレに大失敗した人みたいな構図になっちまってるんだよ!!一人百鬼夜行に興味ねぇんだよこっちはさぁ!!キマイラか俺ァー!!!


ぜぇ……ぜぇ……!


ま、まぁ……貴重な体験だと思って、割り切るしかあるまい。


「大丈夫っすよ、雨天先輩!先輩なら、きっと立派な九尾に……いや、天狐になれるっす!」

「あぁ、ありがとうねココノ……。ところで、ココノ」

「はい!なんすか?」

「……昨日会った時、そんな喋り方じゃなかったよな?」


俺の記憶が正しかったら、普通に喋ってたよな?なんで今、部活の後輩のノリみたいな感じの~っす!口調になってるの?


「これが”素”っす!昨日はちゃんと喋れって言われたから、頑張っていたんすよ!でも、先輩はこれから、一緒に戦う仲間っす!仲間になったなら、遠慮なんていらないっす!」

「……もう、先輩呼びに関しては触れないでおこ…」


何というか、熱量がすごくてそっちへの質問がダレる。

今まで、こういう熱血系の奴と絡んでこなかったからってのもあるかもしれないが……ちょっと、強い……!


「ゴホン。そろそろいいかな?」

「あ、すいません大丈夫です」


怒られた。そうね、こっちは教わる側だから、ちゃんとしないとね。


「では、最初の特訓だ。まぁ、やる事は至ってシンプル。最初の特訓は……”逃げ足強化”だ!」

「え、初手がそれ?」


筋力とか、それぞれに合った個性伸ばしとか、そんなんじゃないの?最初が逃げ足って?


………あ、待てよ?

えーっと………相手はがしゃどくろで………あ、あーあー!はいはい、理解しましたよ!!


「来訪者よ。お前は味わってるから分かるだろうが、がしゃどくろはデカい。デカイ上に、何故か素早い」

「えーえー、それはもう嫌って程経験したからねぇ……!」


オマケにあの気配遮断!あの怨念を近くに来るまで悟らせない力とか、どんだけチートやねん!って思ったわ!!


「がしゃどくろの攻撃手段は、自身の巨体と、見た目に似合わぬ速さで行う巨大な質量攻撃だ。他にも、怨念を使った妖術、そして自身が今まで食らってきた妖怪を、眷属として召喚するという方法で襲ってくる」

「え、そんな事出来るの?」

「そうなんすよ先輩!しかもがしゃどくろは、今まで食らった妖怪の魂を、自身の怨念で操り、強化して襲う事が出来るんす!!」


え、そんなヤバイ能力持ってるの……!?

でも、この前遭遇した時にそんな技は使わってこな……………舐めプでも勝てるって理解してたからかぁ……!!?


「そんな攻撃を仕掛けてくるのだ。ならば、攻撃を躱す為に足を鍛えるというのは、間違ってはいないだろう?」

「ほぉ、そういう事か」

『つまり、先手必勝を目指せって事だね!』

「その通りだ。ただし、単純に逃げるのではない。縦横無尽に逃げれるようになるのだ!」


縦横無尽……つまり、こういう事か?


「ただ走って逃げるんじゃなくて、ジャンプして攻撃の隙間を通るようにして逃げたり、逆にがしゃどくろにくっついたりとかしろって事?」

「うむ、まさにその通り!」

「おぉ!先輩、頭良いっすね!」

「まぁ、優等生だからな!」


頭は悪くないんだぞ!脳みその容量を、ほぼ妖怪に使ってるだけだから!


それに、逃げ足…というより、敏律を上げる事に関しては賛成だ。速さは確かに大事だしな。


あと、世海の事も考えるとね。世海は俺達の中で、一番足が遅い。まぁそれが可愛いんだけどね!

だが、がしゃどくろの攻撃を全て受け止めれるか?と言われたらNOだ。実際、攻撃を食らって瀕死状態になってしまったからね。

受け止める攻撃は受け止めて反撃して、受け止めきれないって分かったらすぐ逃げる!この戦法が出来たら、確かに強力!


「では、最初の特訓だ!まずは、私の攻撃を全て避けるようになれ!」


そう言って、センコは7つの尻尾から炎を生み出し……え、ちょい待って?


「もしかして…もう始まってる感じ?」

「逆に聞くが、戦闘では今から攻撃するよ、と教えてくれると思うか?」

「よっしゃ逃げまーす!!!」


駆け出した瞬間、足元から爆発音!あっぶな!あと少し行動が遅かったら、爆発の餌食に…!


「今はただ、攻撃を避けることだけに集中しろ!反撃しようとか考えるな!逃げて、ぶつからない事だけに意識を向けろ!」

「師匠、容赦無さすぎっすー!?」

「にゃーん!?」


つまり、ただ逃げるだけって事だな!言ってる事は簡単だけどっ、うわぁ!?

ちょ、ちょっと攻撃速度がはや、いやめっちゃ早い!リズムゲームのエキスパートとかルナティックをやってる気分だぞ!?


オマケにフェイントとか、死角からの攻撃とかも来るし!一切手を出さないで避けろとか、ちょいと一般人にはキツイんですが!?


「言っとくが、こんなのは序の口だぞ!他にも重量攻撃に耐えたりだとか、怨念への対策、力の受け流し等、やる事は山積みだからな!ひたすらその体に叩きこめ!!」


くっそぉ!あの師匠、鬼教官か!?狐なのに鬼とかこれ如何に、って言ってる場合じゃねええええええ!!?

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