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温泉忘れてた…

「はぁー…!極楽!!」


はい、俺です。美味しいもの、いっぱい食べました。美味しかったです。

………あぁー駄目だ、気持ちいいのといっぱい美味しいもの堪能したのと、色々とありまくった結果語彙力がゴミカスになってる。


一旦脳内リセット。がしゃどくろはクソ、がしゃどくろはいつか殺す、がしゃどくろお前絶対許さんからな、がしゃどくろ……………オッケ、落ち着いた。


さて、現在俺は温泉に入っている。

ギルドの中にワープポイントと呼ばれる場所があり、そこから温泉のある場所へと一飛び出来るのだ。ゲームって便利!


そんな俺がいるのは、目の前に()()が広がる絶景を眺めながら入る、露天風呂だ。現在の季節は夏なのに、何故目の前の山に茂っているのは紅葉なんだ?というツッコミは……この景色に免じて、深く追求しないでおく。


皆は既に入ってたので、現在は俺一人だけ……という訳ではなく。


「うっはぁー!気持ちいぃー!!」

「お前、さっきも入ったって言ってなかった?」

「馬鹿野郎、温泉は何度入ってもいいもんなんだぞ!」

「……さいですか」


稲葉も一緒である。まぁ、言いたい事は分かるのでこれ以上は追及しない。


「…で?お前、さっきニセモノさんに何を相談したんだ?」

「ん?何、ちょっとした予約だよ」

「は?予約?」

「そ。がしゃどくろを倒すのは俺だ。だからアンタたちには悪いけど、手出しをするなってね」

「……なーるほど」


おや?意外だ、稲葉がなんかツッコミを入れたり怒鳴ったりしないなんて。いつもならここでなんか、ギャーギャー騒いでる筈なのに。


「いや、お前の事だからどうせ『ここの妖怪全部ください!』とか強請るのかと」

「お前俺を何だと思ってるの!?」

「妖怪の事になると目が無い馬鹿」

「ぐぅ…!正に、正論!!ぐうの音も出ない!」

「さっき思いっきりぐぅ…!って言ってたぞお前」


ここの妖怪全部ください……!そんな富豪みたいな事、確かに言ってみたいさ!でもそれは流石になんか……違うじゃん!自分の手で得た訳じゃないじゃん!!そういう事だよ!!


「まぁ、理由は分かった。でもよぉ、レベル上げるにしたって色々大変だぜ?どうやって500レベルにまで上げるのよ。それも短時間で」

「待って、俺短時間でレベル上げしようと思ってない」

「馬鹿かお前は!?がしゃどくろが出たなんて、きっと他のプレイヤーも見てる!今頃は掲示板でお祭り騒ぎだ!討伐隊がここにやって来るかもしれない!だったら、お前が早く行かないとその決意もアボンだぞ!?」


いや、言いたい事は分かる!分かるけどさぁ……!


「短時間でそこまで行ける訳がないだろ!?だからニセモノさんに頼んで、がしゃどくろが討伐されないようにしといてくださいって頼んだんだ!」

「ニセモノさんだって暇じゃねえんだぞ!?リアル事情で来れない時に討伐隊がやってきて、討伐されましたー!なんてなったら意味ねぇぞ!?」

「じゃーどうしろってんだい!徹夜覚悟でレベリングか!?だったらお前も付き合えよ!?」

「なんでだよ!?お前の事情に俺を巻き込むな!大体なぁ――!」




『ホ、ホ、ホ。若い子ぉは元気があってええなぁ』




「「!?」」

「……今の、聞こえたか?」

「あぁ…いや、もしかしたら気のせいの可能性が……」




『おや、聞こえたのかい?耳もええみたいや、流石やな』



「いや、気のせいじゃないわこれ!?」

「声は……多分、そこから!」


近くにあった石鹸を掴んで、声のする方向に向けて投げる。あ、クソ!デスペナ弱体入ってるせいで、石鹼の軌道がすっげぇへろへろだ!面白!


『っと危ない。こっちはあんまり運動は苦手やねん、お手柔らかにしとくれ』

「な、なんだアイツ!?」


石鹼を投げた先にいたのは、金色の毛並みをした、()()()()()()()()だ。その周りには、人魂……いや、狐火が二つ浮いていた。


間違いない!あれは……!


「九尾の狐だぁああああああ!!」

『おや、うちを知ってるのかい?うちも有名になったみたいで、少し嬉しいなぁ』

「え、何そのテンション?」

「バっ、お前!?あいつも【大妖怪】だぞ!?がしゃどくろ並みのヤベェ存在!そんで有名妖怪上位に位置する存在ぞ!?」

「はぁ!?」


このジャホンに住み着く、凶悪な【大妖怪】!その内の一柱、九尾!妖狐たちの女王、変化の達人!

実装初期から君臨している【妖怪女王】が、なんでここにいる!?


「……何が目的だ」

『まぁまぁ、そう警戒せんと?別に戦争しに来たわけとちがうんやさかい』

「警戒するわ!?こっちはがしゃどくろと戦って負けた直後なんだ!」

『ちょい、うちをあのイカレた骸骨と一緒にせんといてや!こっちは”提案”をしに来ただけなんやさかい!』

「「……提案?」」


大妖怪が俺達プレイヤーに、直々に提案だと?胡散臭いにも程があるぜ……!


『何、簡単な話やで。あんた、あのクソ骸骨に出くわして負けたんやん?』

「そーだよ惨敗ですよ悪いか!?」

『別に悪いとは言うてへんわよ?実は、うちもあのイカレ骸骨好かんの。あいつ、あちこちに怨念をばら撒いては土地を汚染するさかい、私達にとっても害悪なん。そやさかい、あいつを倒すのに協力したる!』

「………はぁ!!?」

「え、何?どういう事?」

「俺、がしゃどくろ倒したい。九尾、がしゃどくろ嫌い。だからタッグ組んであいつ殺そうぜ!っていう提案持ちかけてきた」

「はぁ!!?」


うん、同じリアクション!流石稲葉、俺の親友!!

じゃなくてぇ!!


「同じ大妖怪同士、なんかこう……友情とかそういうのは!?」

『最初はあったけど、今はもう微塵もあらへんわ。眷属以外みーんな好かんの、うち。あ、そやけど人間は一応例外よ?いなり寿司、えらい好き。』

「………いなり寿司で人間サイドに堕ちる大妖怪って……威厳isどこ?」

『そこに無かったら、多分あらへんわ。なんてね、おほほ♪』

「おいあの狐、ネタまで理解しているぞ」


さ、流石大妖怪……!死語を言いまくる八雲と違って、思考が柔軟だ…!あ、別に八雲を貶してる訳じゃないからそこは勘違いするなよ?マジで。


「……まぁ、確かにこっちとしては願ったりかなったりではあるが……どうやって倒すと?俺、まだレベル25くらいなんだが。」

「は?なんでお前レベル上がってんの?俺と同じだっただろ!?」

「いや、お前が温泉入ってる時に妖怪退治してたからだよ」

『いけるよ、うち色々と鍛えたるさかい』

「アンタが!!?」


大妖怪が俺達を鍛え……何それ!?どういう事!?


《ピコン!EX(エクストラ)イベント、『怨念殺しの弟子狐』が発生しました。イベントを開始しますか?》


ファッ!?これイベント扱いなの!?しかもEX!?数あるイベントの中で、特に何が開始条件なのかが分からない奴じゃん!


「おぉ、EXイベント!?マジで!?」

「……はは、すげぇな」


驚きの連続だぜ、こいつは……!大妖怪と接触する事が、このイベントのトリガー…?いや、だとしたら既に『噓偽りの温泉旅館』が情報を出している筈だよな……?


『うちはな、絶望的な状況でも、眼ぇ死なさへん子ぉえらい好きなんよ。あんたにそれ見出した。そやさかい手助けしたる。勿論、倒す事出来たら報酬やらも用意したる。どや?やる気になった?』


………フフ、フフフフフ…!!


「こんな、妖怪好きにとっては垂涎もののイベント、手を出さない妖怪バカはいないってな!やってやるさ!」

《EXイベントを開始しました》

『流石やわ!やっぱし、うちの目に狂いはなかった!』


さぁ、これで後には引けないな!どんだけ時間かかろうが、必ずがしゃどくろをぶっ殺してやるぜ!


「で、具体的にはどうするの?」

『フフフ……そら、また後で♪』

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