初めての戦闘
「お、いたいた。アレがこのトラベル草原のメインモンスター、ホーンラビットか」
草木に隠れながら、俺は目の前のターゲットを観察する。
ホーンラビット。
トラベル草原に出没する、この草原のアイドル。愛称は『ラビット先輩』。
このゲームを始めた人は、まずは最初に先輩と戦う事が多い。そして、先輩から獣型モンスターに対する、魔法攻撃のやり方や攻撃の受け流し方等を、実戦形式で教えてもらう。
そして、先輩から採れる素材は、武器や防具に利用出来て、先輩を倒す事で得れるお肉は、しっかりと調理すればとても美味しいお肉となる。しかも敏捷に若干のバフが入る。
何をするにしても、先輩から学ぶ事が非常に多いので、全プレイヤーからは親しみを込めて、『ラビット先輩』と愛されている。
因みに、人型モンスターとして最初に戦うのはゴブリンで、全プレイヤーはゴブリンを『ゴブリン先生』と。
初めて戦う大型モンスターとして、グレイベアが出てくるのだが、全プレイヤーは彼を『灰熊教官』と親しみを込めて名付けている。
「なぁ…お前マジでやるの?戦う事は別に良いんだけどさぁ…召喚方法、もうちょっと考えようぜ?今なら多分間に合う筈だから」
「本気と書いて超絶ガチだぞ俺は。やると決めたらやる!それが俺の覇道ってもんよ!」
「……はぁ、分かったよ。付き合ってやる」
流石俺の友達!最高だぜぇ!
「けど、トドメを刺すのはお前だぜ?雨天決行。召喚石を生成するのに必要な魔石ってのは、召喚士、もしくは召喚獣が倒した奴じゃないと、召喚石を生成するのにカウントされないみたいだからな」
「え、何その仕様。初めて知った」
「…お前、召喚士するならそれくらいの事前情報は把握しとけよ」
「いやぁ、妖怪を生み出す方法を作るのに必死で…」
「お前のその妖怪に対する情熱、本当に怖えぇよ…」
えぇい、四の五の言ってても始まらない!早速戦闘だ!
「てことで行け!お米の人!」
「おう!…って、お米の人って言い方、もうちょっとどうにかならん!?」
「長いんだよお前の名前!俺は妖術で攻撃するから、良い感じで体力削ってくれ!」
「俺も初めての戦闘だってのを念頭に入れながら、攻撃してくれよ!!」
稲葉が草木から飛び出して、ラビット先輩に向かって走っていく。
ラビット先輩は一瞬驚いたが、すぐに戦闘態勢に入り、稲葉目掛けて体当たりをしていく。
「遅せぇ!」
だが稲葉は、先輩の角突進攻撃を回避して、持っているダガーで、がら空きになった先輩の胴体に切りつける!
「ピギュッ!?」
先輩のHPが削れていくのを確認しながら、俺は妖術の準備に取り掛かる。
といっても、やり方はとても簡単!詠唱すればいいだけ!でも、ちょっとカッコつけたいから、唐傘を構えながら詠唱するぞ!
「『水妖術:水球』!」
MPを消費して、妖術を発動。
すると唐傘の先端に、どこからか水が集まり出して、バレーボールくらいの大きさになりだした。そして、水が集まるのをやめると、自動的に発射された!
ブォン!
「おっと!」
バシャアン!
「ぷぎゅる!?」
ピシッ…!パリィン!
先輩を攻撃していた稲葉は、後ろから迫っていた俺の水球を難なく避けた。
避けられた水球は、そのまま先輩の顔面にヒット!攻撃を食らった先輩は、顔を中心にひび割れていき、最終的にはガラスのように砕け散っていった。
その後、さっきまで先輩がいた場所には、先輩の角と肉と皮、そして魔石が残っていた。
『ホーンラビットの肉×2、ホーンラビットの角×1、ホーンラビットの皮×1、ホーンラビットの魔石を手に入れた!』
その後、素材を手に入れたという通知が来た。
それが意味する事。つまり、俺達は戦闘に勝利したという事だ!
「よっしゃあ!」
「ナーイス雨天!俺がギリギリまで体力を削ったお陰だな!」
「いや本当にナイスだそれは」
力のステータスって、物理もそうだけど魔法攻撃に対しても影響されるから、唐傘お化けの俺の攻撃って、それはそれはもう弱い部類なんだよね。
その辺を、稲葉が暗殺者という職業を上手く活用して、暗殺者の特徴とも言える攻撃速度の速さで補ってくれた。
その結果、俺の雀の涙程の攻撃で、先輩を倒す事に成功!魔石も無事に回収する事が出来た!
持つべきものは友達ってなぁ!
「よっしゃ!そのまま次の先輩を倒すぞぉ!あと最低でも9つ!それを合成すれば召喚石になる!待ってろ俺の妖怪たちよぉー!!」
「本当、熱意だけは高いなぁ…。それに付き合う俺も、中々の変人だな」
「え、今更自覚したの?」
「え?」
「え?」
……………。
……取り合えず…次、行こうか。魔石回収、頑張っていきまショー。