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『噓偽りの温泉旅館』

「右手に見えますのが~、『噓偽りの温泉旅館(フェイク・ランド)』が管理している施設で~す。お土産やさんに食堂、ちょっとしたゲーム会場なんかもありま~す」

「左手に見えますのが~、ジャホン名物の”灼熱地獄風呂”で~す。温泉卵を作るのに最適な温泉で~す。勿論、とっても熱いので~、【熱耐性】とか【火傷無効】のスキルを持ってる人しか~、温泉として楽しむ事は出来ませ~ん」


双子…ジグザグブラザーズの施設紹介とか名所紹介を受けながら、俺達は彼らの本拠地である『噓偽りの温泉旅館』へと向かっている。


あぁ…本当に俺、ジャホンにいるんだ!あのジャホンだぜ!?


世界地図を見れば一番右、つまり東にある、北海道サイズに大きさの国!温泉とグルメが全国一の、最小にして最強の観光エリア!


道行くNPCもプレイヤーも、皆して浴衣姿!しかも湯上りホッコリスタイル!羨ましい!

そんで温泉の匂いが、あちらこちらで漂ってくる!温泉もそうだけど、お風呂の匂いってなんかすぐに分かるよね!分かる人いる!?

そんで温泉饅頭!温泉卵!頬張ってる姿を見ると小腹が空く!


それとお土産屋さん!店頭に並んでる玩具が、絶妙にいらないけど欲しくなるっていうデザインなんだよね!ブサカワというか…なんか癖になる欲しさ!分かるかなぁこの俺の感情!?


いや、違う!そこじゃない!いやそこも俺が憧れてた部分ではある!問題はだなぁ…!!


「ケケケ!」

「ドロロ~ン…」

「天国かここが…!!!」

「…?どしたの~?」

「お腹痛いの~?」

「案ずるな双子たちよ!彼は妖怪が大好きなだけだ!」


マジモン妖怪が、人に紛れて生活してるって事なんだよね…!

店の看板としてなのか、提灯お化けがいるんだよね!しかも河童が普通に橋の下の川で泳いでいたり、空を見上げれば火車とか人面鳥が飛んでたり!!


ジャホンはまさに、妖怪達の住む国!俺流にいうなら、妖怪のテーマパーク!!!


「俺やっぱりここに住む…!」

「じゃあ、ギルド加入申請する~?」

「いつでもウェルカムカムだよ~。働いてもいいし~、別の国で遊んでても咎めないよ~」

「待て止まれ雨天!ギルド加入するにはまだ早すぎるぞ!!」


はっ!?し、自然と手が加入ボタンを押そうとしてた!?

だ、駄目だ…!この国、危険すぎる…!!誘惑が、誘惑が多すぎる……!!!


「ここまで浮かれている王を見るのは初めてだねぇ」

『それほどまでに、attractiveな国なんですねぇ』

『見事なまでん腑抜けじゃな』

「おとーさん、たのしそう…!」


なんとでも言うがいい!今の俺は心が激広ぞ!どんな暴言を吐かれようが、耐えきれる自信がありまくりじゃ~!!


「着いたよ~」

「到着したよ~」


歩いて約10分。ジグザグブラザーズの案内によって、俺達は無事に『噓偽りの温泉旅館』の本拠地にたどり着くことができた。


デカイ。それこそ、ジ○リとかに出てきそうな程、和風でデカくて、荘厳で。見るだけで心が湧き立つかのような気持ちになってくる!

その本拠地を囲むように、幅の広い堀が存在し、その中には水が溜まっていて。中では水系妖怪が心地よさそうに浮いていた。侵入対策とかなのかな?この広さは。


そんなギルド唯一とも言える入口として、一本の大きな橋が架かっていた。


「さぁさ皆様、こっちだよ~」

「ここを通れば、無事に到着で~す」


双子はそう言って、橋の上を渡っていった。


「楽しみだなぁお前等!」

「…だな。ここまで来たら、全力で楽しむとしよう!」

「温泉かぁ~、楽しみだなぁ~♪」

「ハッハッハ!ヒーローたるもの、時には休息も必要だ!」

「中々だな、この施設…」


そうそう、もう小難しい事を考えるのはやめて、楽しく過ごしましょう!それが一番!


「我等も楽しみだよ♪」

「けっ、熱湯なんかに入って何が楽しいんだ?」

『蜥蜴に温泉ん良さが分かっ訳がなかじゃろうさ。勿論、そんた悪魔もな』

「ア゛ァ゛!?」

『喧嘩なら高値で買ってあげますよ、クソ天使…!』


……いつの間にか、後ろでは天使と悪魔+ダイノキングんとこのレックスが喧嘩しそうになってる。というか、久々に見たよレックスを。ブラックグリズリー以来じゃね?


「よ~こそ~!!我が『噓偽りの温泉旅館』へぇ~!!」

「お?」


突然、明るい声がギルド拠点側から聞こえてきた。そっちに目を向けると…彼等の姿があった。


「喧嘩も殺し合いも~、このギルド及び我が領土ではご法度だよ♪」

「殺るなら専用施設でだ!ここは癒しを与える娯楽の世界!」

現実リアルに疲れた人は、ひと時の虚構フェイクを楽しんで!」

「良い子悪い子、誰でも気軽によっといで!」


カッコイイポーズを取りながら、ギルド拠点前に陣取る、四人のプレイヤー。


一人はシルクハットを被った、鼠獣人の狂った男。『マッド・ラット・ハッター』

一人はピンク髪が目立つ、吸血鬼のPKKプレイヤーキラーキラー。『オルタナ・デモン』

一人は愛くるしい姿をした、植物人(ドライアド)の音楽家。『ユグドラシル』

そして…狐の仮面を身に着けた、【AO】で数名にしか与えられていない、【魔王】の称号を持つ男。


「「「「我等、騒がしゃ天下無双の『噓偽りの温泉旅館(フェイク・ランド)!!!!』」」」」

現実リアルとは違う、幻想フェイクの景色。君たちに見せ続けてあげよう♪」


俺達の目の前にいたのは、世界最強ギルドの看板を背負うキッカケとなった、4人のプレイヤー。

その代表。ギルドマスターにして、【嘘偽りの魔王(フェイク・キング)】。


名を…『ニセモノさん』。


……うん、とんでもねぇ歓迎のされ方したんだけど!!!?

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