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稲葉の天使

『ないをそげんたまがっちょい?あたいん喋っちょっ言葉、そげん可笑しかか?』

「どうして運営は天使と悪魔に、言語に何かしらの変化を与えてるんだ!!」


稲葉の叫びが、トラベル草原に響き渡る。まぁ…うん、気持ちは分かる。俺も鬼銃を初召喚した時、そう思った。


稲葉が今回召喚した、帯刀シスター天使。彼女の言葉は…ギリ日本語を喋ってるからか、翻訳スキルが仕事しねぇ。クソスキルが!!


『Hmm. I understood that I couldn't communicate with angels through words, but I never thought we would be able to communicate this much. I was surprised.』

【ふーむ。天使とは言葉を通じ合う事は出来ないとは理解してたが、ここまで通じないとは思わなかったよ。私、びっくり】

「俺達も驚いたぞ!まさか人型の悪魔は英語を、天使は薩摩弁を使うとは!」

「運営って、馬鹿しかいないの?」


仮面セイバー1号とクマ先輩の反応は御覧の通り。そして、鬼銃もまた、不思議なものを見たといった感じで天使を見ていた。


正直、俺も驚いてる。ここまで遊び心満載とは…運営のセンスには脱帽だ。

そんでなんで薩摩弁かどうかが分かったのかっつーと…翻訳サイトさんのお陰です。翻訳サイトすごいね!


あ、ダイノキングは帰った。「レックスの回収に向かわねば!」との事。何してんだ。


「で、でもまぁ?天使が仲間になったのは事実だ!これからよろしくな!”おトヨさん”!」

『あぁ、任せな。どげん敵が来ようどん、返り討ちにしてやっど』


うーん、男前。女性型なのに。

そんでこの天使の名前なんだが、稲葉はおトヨさんという名前にしたそうだ。薩摩弁と言えば島津家。んでこうなった。

……調べて分かったけど、島津家の人々ヤバすぎだろ…。なんで勘違いで全軍突撃とか平気でしちゃうんだよ…殿とかなんで玉砕が大前提なんだよ…!


…まさかとは思うけど、おトヨさんもそんな感じとは言わない…よ、な?


「なぁおトヨさん。ステータス画面見せてくれねぇかな?」

『ん?あぁ、別によかど。ステータスオープン』


さて、どんな内容なんだ…?


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個体名:???→おトヨさん

Lv:1

職業:殺天隼人さつまはやと

種族:天使

HP:10

MP:20

力:20

敏捷:15

器用:10

耐久:5


スキル

【刀術】【回復術】【武術】【挑発】【威圧】【狂化】



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見た事ない文字見つけたんだけど。何?殺天隼人って書いて”さつまはやと”?聞いた事ないわそんな日本語。

というか、何?この天使にあるまじきステータス。なんで力がレベル1で最高値なんだよ。しかも、天使って支援系じゃなかった?何このゴリゴリの前衛系スキルの数々。頭薩摩かよ??


「…すっごいね、君」

『攻撃は最大せでん防御ってゆじゃろ?なら、敵が攻撃すっ前に倒してしめば、あっじが怪我をせじ済んじゃろ?』

「ギリギリ、聞き取れた…!」


殺られる前に殺れって事?やだこの子本当に頭薩摩だわ。


『Hahaha! Apparently, the angel is a bit of a scumbag. After all, it seems no exaggeration to say that we devils are smarter than us!』

【ハハハ!どうやら、天使は中々のくせ者のようだ。やはり、我々悪魔の方が賢いと言っても、過言ではないようだ!】

『はぁ?わいがないをゆちょっとかさっぱり分からんじゃ。天使ん言葉で話せ天使ん言葉で。天使ん言葉が分からんアホ悪魔は、さっさと地獄に帰ってけしんどけクズめ』

『Ha ha! I don't know what you're saying, but... I'm going to kill you, damn angel!』

【ハッハー!何を言っているのか分からないが…殺すぞクソ天使!】

『なんじゃ、殺し合いがお望みか?言葉は分からんでん、ないを言おうとしちょっとかだけはないごてか分かったじゃ。なら、そん首置いてけクズ悪魔!』

「「なんで急に喧嘩になる!!?」」


ちょっと様子を見守ってたら、急に殺し合おうとするじゃん!?おっかないわこの子ら!?


「そういえば、これって天使と悪魔の戦争だったわね。だからああいう感じなのかも」

「犬猿の仲という事だな!平和になる事を願うしかない!」

「何を呑気に解析してんだ君らは!?」


あのなぁ、俺はボケ側の筈なんだよな!ツッコミ役なんかじゃないんだよね!!こんなの俺のキャラじゃない!!


「グルルル…!」

『む!敵じゃ、主!あたいから離れ!』


と、敵が出現した。グレイウルフが…ひい、ふう、みい…全部で10体。

幸い、俺達の装備は万全だ。だから慌てず、戦闘態勢を整え―――。


『キエエエエエエエエェ!!!!』


て、ええええええ!?おトヨさん!?なんで勝手に突撃していっちゃうの!?

そしてその猿叫怖い!!女子が出していい声じゃないのよそれぇ!?


「ちょ、おトヨさん!?何してんの、こっち来て皆で戦おうよ!?」

『チェストオオオオオオオオオ!!』

「聞いてーーーーーー!!?」


おトヨさん、稲葉の指示を無視して攻撃を開始。グレイウルフは、おトヨさんの猿叫にビビったのか、硬直状態だ。それを逃さず、おトヨさんが抜刀。目にも止まらぬ早さの攻撃がグレイウルフに入り、数匹が餌食となった。


『キエェー!!』

「ギャン!?」


おトヨさんはそのまま動きを止めずに、次のグレイウルフを攻撃する。


「グルル、バウ!!」

『っ!』


しかし、グレイウルフも黙ってばかりではなかった。一匹が、おトヨさんの腕に噛みついた。すると…


『邪魔じゃ犬ッコロ!』

「ギャワン!!?」


なんと、逆に噛みつき返した。そして地面に叩きつけると、噛みついたグレイウルフに刀を突き刺すと…嚙みちぎった。うわぁグロぉ……!!


「キ、キャインキャイン!」

『あぁ?逃ぐっな犬ッコロ!そん首置いてけ!置いていってから去ね!そいでもけもんかきさんらぁ!』


そのグロ光景を見た影響か…残った数匹のグレイウルフ、尻尾巻いて逃げていった。…本当に尻尾を丸めていった。


『チィ…!…主よ、怪我はなかか?』

「…」

『…主?』

「はっ!?あ、あぁ…大丈夫だ、問題ない」

『そか、安心した。もし少しでも怪我させてしもてたら、あたいは恥ずかしゅうて切腹すっ所やった』

「やめてね!?」


「……私達、完全に空気だったね」

「ハッハッハ!正直悲しい!」

「我等、出る幕が無かったよ…トホホだねぇ」

「にゃーぅ…」

『This is why angels are barbaric.』

【これだから天使は野蛮で仕方がない】

「……悪魔選んでて良かったよ、俺」

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