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現世とは違う景色を君へ

幼少期…つまり、俺がまだ6歳の頃。


その時の俺は、どこにでもいる普通の子供で…妖怪なんて好きでもない、寧ろその逆。()()()()だった。


『いやー!怖いー!!』


それこそ…あれだ。遊園地にあるだろ?お化け屋敷。あれ見てギャン泣きするくらい嫌いだった。というか、全体的に暗いのが嫌だった。

婆ちゃんの葬式を経験したからかな…なんとなく、暗い雰囲気は悪いもの、という認識だったんだ。だからだと思う。


あ、今はもう稲葉を引きずってでも中に入って、ジェットコースターのノリで楽しむくらいには大好きだぜ!怖いの大好き!寧ろもっと来い!


まぁ、そんな感じの幼少期だ。あと、強いていうなら…小さいながら、頭が他の子と比べて良かったことかな?所謂“神童”。そうイキってた頃とも言える。

頭が良いからこそ、妖怪なんていう存在は“架空の存在”だの“誰かが作り上げた妄想の産物”と、馬鹿にしていた。…実際は怖かったから、やせ我慢してただけだけど。


……冷静に過去を思い出すと、黒歴史すぎて恥ずかしい…!!過去に戻れるなら、小さい頃の俺を叱ってでもイキるのを辞めさせたい……!!


…話が逸れた。

そんな幼少期を過ごしていた俺はある夏の日、爺ちゃん家に家族で泊まる事になった。そして、近くの山で夏祭りが開催されていて。そんで山を舞台とした肝試しをするという事で…強制参加させられた。


たまったもんじゃないよな。嫌いな奴に強制参加とか。そりゃーもう大抗議した挙句、家を飛び出した。

で、飛び出した挙句…肝試しをする山とはまた違う、暗い山の中へ一人、入っていった。


……馬鹿だろ、俺。いくらギャン泣きしていて、周りが見えていなかったとしても、余裕で馬鹿だわ俺。何が神童だクソ。


それで、まぁ……小さい子供が、一人山の中へ入り。ただ闇雲に走り回ったんだ。

その結果…当然、迷子になる。右足出して左足出すと歩けるのが分かりきっているくらい、分かりきった行動結果だ。


辺りは暗く、遠くで微かに祭囃子の音が聞こえてくる程度。それが逆に恐怖を助長させて、泣きながら山の中を歩いた。

しまいには歩き疲れて、近くの切り株に腰かけて、シクシク泣いた。


ここで死ぬのかな?一生この山で暮らすのかな?そう思っていた。


そんな時だった。

微かに…“何か”が動く音が聞こえた。


突然の異音にビクついて、辺りを見渡す。そして、俺は見つけた。見つけてしまった。



『~~~♪』



コンビニ袋を舌で抱えながらピョンコピョンコと跳ねながら移動する…()()()()()()姿()()


『……!?!?!?』


突然現れた異形の存在に、俺は驚いて切り株から落ちた。その音に気付いたのか…そのまま去ろうとしていた唐傘お化けは、俺の存在に気づいた。


『おんやぁ?子供がいるなぁ』

『っ……っぅ!!』


怖かった。一つ目の怪物が、俺を見つめていた。それがただただ怖くて、声も出せず、ただ泣くことしかできなかった。


『うーん…あぁ、分かった!お前さん、迷子だな?』

『…ぅ、え?』

『心細かったじゃろ?なら、儂と一緒に来い!なぁに、取って食おうなんて事ぁしないさ!さぁ、おいで!』

『え…?あ、ぇと…う、うん』


ただ、その唐傘お化けは優しかった。怖かっただろう、寂しかっただろうと慰めてくれた。その様子に、俺が思い描いていた妖怪像に、亀裂が走ったのを覚えている。


そして、その唐傘お化けは、自分に着いてくるように言ってきた。

一人で心細かったのもあって、俺はその唐傘お化けの後ろを、恐る恐るついていった。


唐傘お化けは、俺が寂しくならないように配慮したのか、色々と話題を出してきた。親御さんは何をしているのか。普段学校で何をしているのか。大きくなったら何になりたいんだい?とか。


その様子はまるで、近所のおじさんみたいな風貌で…少し、微笑ましかった。


唐傘お化けと共に歩いていたら、目の前に光が多数現れた。そのまま進めば、光はドンドン大きくなっていき…やがて、その光の正体に気づく。



『さぁさ 踊れや 騒げや 歌え♪  地獄いいとこ 一度はおいで♪  極楽浄土も楽しいぞ♪  されど俺等にゃ縁も無い♪  ならば 呑んで 食って 遊んで 過ごせ♪  さぁ~ そいやっさっさ そいやっさ♪』



…絵本とかで見るような妖怪達が、歌いながら行進していたのだ。光の正体は、提灯お化けや鬼火の炎だったのだ。


『え…!?あ、え……!!?』


勿論、本物の妖怪を目の当たりにした俺は、言葉を失った。夢なんじゃないかと、自分で頬を抓った。しっかり痛かった。つまり現実。


俺の目の前で、本物の妖怪達による百鬼夜行が行われていたんだ。当然の反応とも言える。


『さぁさ坊ちゃん!今日は年に一度の宴会だ!共に楽しもうじゃないか!』

『え!?ちょ、ちょっと待…うわぁ!?』


唐傘お化けに押されながら、俺もその行進に参加する事になった。


『おや?人間の子供じゃないか!珍しい!』

『本当だ。めんこいのぉ』

『丸っこくて旨そうだ』

『こら!怖がらせるんじゃないよ!!』


周りの妖怪達は、すぐ俺に気づいた。でも、皆優しかった。俺に踊りを教えてくれたし、遊びも教えてくれた。

妖怪なんて怖いだけ。そう思っていた俺の固定概念は、その時にはすっかり崩れ去っていた。


『…おい。なんで人間のガキがここにいる』


突然、おっかない声の青年が現れて、俺を睨みつけていた。そいつは金髪で、眼が八つもあった。


『まぁまぁ、良いじゃないかコガネ!今日は年に一度の百鬼夜行!来るもの拒まず去る者は追わず!自由参加じゃないか!』

『それは妖怪に限った話だろうが!人間に適用される訳ねえだろうが!』

『まぁまぁ、固い事は言いっこなしだ!坊主、この兄ちゃんが遊んでくれるってよ!』

『聞け、俺の話を!』

『よーし、宴会だー!!』


行進していった先でたどり着いた、今俺がいるこの広場。ここで、妖怪達による大宴会が行われた。


皆、どこからか出てきた料理や酒を食べて飲んで、酔っぱらって歌って踊ってふざけあって。


とても、とても楽しそうだった。

気づけば俺も、その宴会の中で、たった一人の人間として楽しんでいた。


『おいコラガキ!うろちょろするんじゃねえ!』

『キャハハハハ!』

『何がおかしいんだこの野郎…!』

『コガネも真面目だなぁ。良いじゃないか!こういう宴会の時くらいよぉ』

『お前らが呑気すぎるんだ!!』

『おい坊ちゃん!あっち見て見な!』

『聞けよ!?』


おっかない顔した鬼が指をさした方向を見れば…数多の妖怪達が、この山に向かって移動している光景だった。


『“現世うつしよ”の光景とは違うだろ?俺達はな、普段は“隔離世かくりよ”と言われる世界で暮らしてるんだぜ!今日は数百年に一度の大宴会!その為に、この山でお祭りを開いたのだ!』

『おい鬼!お前、今回の百鬼夜行の主催者だろうが!何人間のガキ相手に重要な事をペチャクチャと!』

『いいじゃねえか!酒の肴として丁度いいんだよ!』

『意味が分からん!!あのなぁ!俺達妖怪は、人間共によって日陰者として暮らしていくのを余儀なくされたんだぞ!』


…あの時はまだ意味を理解していなかったが。今思い返せば、妖怪達は今もどこかで、コソコソと隠れながら暮らしているのかもしれない。


でも、それはつまり、今もまたどこかで過ごしているのかもしれない。なら、やる事は一つ。

彼らを見つけて、彼らが自由に暮らせる場所を提供、あるいは運営したい。それが、俺が彼らにやれる『恩返し』であり、『夢』なのだ。『野望』とはまた違っているのだよ。


まぁ、当時の俺はそんな事はまだ考えておらず。孤独だった俺を迎えてくれた彼らに、感謝を述べていた。


『コガネお兄ちゃん、ありがとう!』

『っ……!ぐ、が…!に、人間如きが、ちょ、調子にぃ…!』

『おーおー、照れてる照れてる』

『いつまで経っても反抗期だなぁ、お前は』

『うるせぇぞ外野ぁ!!』

『アハハハハ!』

『何笑ってやがる!』


そうして、妖怪達による百鬼夜行に参加して、楽しんで……気づいた時には、山の麓でぐっすりと寝ていた。


見つかった時は、心配されたしメチャクチャ怒られたりもした。

でも、その時の俺はダメージなんてゼロに等しくて…。心の中は、とても満たされていた。


また、彼らに…妖怪に会いたいと。妖怪に対する恐怖は、もう微塵も無い。

こうして、俺という自他共に認める妖怪バカが出来上がったって訳だ!!


「いやー、懐かしい懐かしい!…皆にまた、会いたいな」


俺を百鬼夜行に参加させてくれた唐傘お化け。

隔離世という、別世界の事について教えてくれた鬼のリーダー。

美味しい料理を提供してくれた狐のお兄さん。

踊りを教えてくれた鎌鼬の三兄妹。

子供の俺でも飲める飲み物を提供してくれた、河童の爺さん。


そして…文句をひたすらぶー垂れながらも、俺の面倒を見てくれていた、土蜘蛛のコガネ。


…またどこかで、会えたらいいな。

俺は成長出来たぞ。立派とまでは言えないかもだけど、大人になったぞ。アンタらのお陰だ。


ありがとう。皆のお陰で、今の俺がいる。感謝しかない。

いつか…皆とまた、宴会をしたいな。


その時は、俺が大出世出来てたらいいね!


「っと…もー夕方か。そろそろ帰らねば」


また明日も来よう。ここでなら、いくらでも過ごす事が出来るからね。

…来れるかどうかは、分からないけどな?






























「……フン、ガキがいっちょ前に大きくなりやがって」

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