田舎へGO
「やっほー爺ちゃん。久々~」
「おぉ!来たか小童!相変わらず儂より大きいのぉ!もっと縮めバカタレ!」
「理不尽だなぁ!?」
夏休み初日。俺達は爺ちゃん家にたどり着いた。
いやぁ…まさかフィールドボス戦が終わったと同時に、出発するとは思わなかったな。夕方頃に家を出て、真夜中頃に港に着いて、船に乗って約8時間くらい。北海道にある爺ちゃん家に到着。
うん、長旅!つか久々に船乗ったけど、酔った!オェ…。
あ、そうそう。爺ちゃんは農家をやっている。じゃがいもや玉ねぎなんかを中心にやっていて、ついで感覚で鶏とかも飼ってる。新鮮な卵がいっぱい食えるね!
「どうも、お義父さん。しばらくの間、世話になります」
「おーおー、ゆっくりしてけ!婆さんも喜ぶじゃろて!」
「父さん、元気してたー?」
「おぉ、お帰り!勿論、元気元気じゃ!しばらく死ぬつもりはないぞ!ガッハッハッハッハ!!」
…うーん、本当に元気だな爺ちゃん。マジで死ぬビジョンが見えねぇ。多分、俺が結婚して子供出来て、爺ちゃんにひ孫見せると同時に死ぬんじゃねえかな。常にひ孫の顔見るまで絶対に死なん!って言ってくるし。
「おぉそうだ。妖真、お前さんの部屋はこっちじゃ。好きに使っていいぞ!」
「え、いいのか?ありがとう!」
「好きなだけ遊べ!ただし、勉強も忘れずにな!」
「流石だぜ爺ちゃん」
という事で、爺ちゃんから部屋を借りる事に。うーん、和室なだけあって、畳の匂いが良いね!オマケに広い!【AO】をプレイしてても、ぶつける事無さそうだな!
「さて、じゃあ早速ログイン!……の前に、色々と」
まずは婆ちゃんの仏壇にご挨拶。
しばらくここでゆっくり過ごさせてもらうぜ、婆ちゃん。爺ちゃんの手伝いとかもやったりするしさ。
「さて、それじゃ…ちょっと出かけてくるわ」
「どこまで行くんだい?」
「ちょっとそこの山まで」
「あら、お菓子も持ってそこまで行くの?」
「あそこ、小さいけど祠とかもあるし。まぁお供え物さ。夕方くらいには帰ってくるよ」
てことで、来る前に買っておいたお菓子を携えて、いざ出発。
目的地は、爺ちゃん家から少し歩いた所にある、とある山。名前は……忘れた。でも、羊蹄山とか藻岩山とか、そういう有名どころの奴ではなかった。いや、そもそも名前すらない山だったか?
まぁいいや、そこは大して重要じゃない。
俺はここに用があるから、この山を登るのだ。
山の中に入った俺は、目的地に向かってただ歩く。山登り装備で来てるとはいえ、やっぱ夏の山は暑いね…!汗だくだくだわ!
「ふぅー…!水分補給とか塩飴とか、持ってきて正解だわこれ」
熱中症、本当にシャレにならないからね。
技術がある程度進み、ドラ○もん世界に近くなっている今でも、熱中症で逝っちゃう人はまだまだいる。皆、熱中症を舐めてかかったから死んだ。俺の小学校のクラスの奴も、熱中症になって病院送りになった。
対策、万全に。多めに水分補給しておくくらいが丁度いいのだ。
と、熱中症対策云々は置いといて。
「…まだまだ変わらないな、この山も」
この山には、幼少期の頃から、爺ちゃん家に来るたびに何度も訪れた。もはや、俺のテリトリーと言っても過言ではない。あの大きな切り株を右に行けば、小さいながらも泉がある。あの二股に分かれた巨木からは、謎の実が採れる。味は普通に美味しい。
そんな山に来る理由は、いつも一つだ。
「…お?着いた着いた」
頂上付近。本来の道から外れた場所にあるそこは、そこはとても広い空間が存在している。
そしてその奥にポツンと一つ、小さな祠が存在している。
「よいしょっと。えーっと…これと、これ」
小さな祠に近づき、お供え物としてお菓子を置いていく。それと、緑茶。そして柏手を打って、お辞儀をする。
この山こそ、俺の『野望』が産まれた原点。
それ即ち……“本物”の『百鬼夜行』を目撃し、ここで妖怪達と遊んだ、俺だけが知っている俺だけの聖域。
俺が妖怪好きとなった原因とも言えるこの場所。ここに訪れる事こそが、爺ちゃん家に向かう事を欠席する事なく、いつも向かう理由だ。
「…懐かしいな。あれからもう十年も経つのか」
ふと、過去を懐かしむ。そう、それは十年前…
俺が、まだ妖怪すら信じていなかった時代の事だった。