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だらだらと

「…という事で、夏休み前半は田舎行きだ」

「お土産期待してるぞ!」

「う、うぅ~ん…!あるかなぁあそこ…!?」


イナバ食堂。それが稲葉が住んでる家で、近所で知らぬ人はいない定食屋だ。

昼を過ぎて、お客がいなくなった頃合いを見計らって来店して、この定食屋名物の生姜焼き定食を食いながら、稲葉にそう報告する。


稲葉も丁度休憩に入ってたので、都合が良かった。

今は生姜焼き定食を食べながら、稲葉とだらだらと過ごしている。


「というか、あそこって電波通ってるのか?【AO】、電波ないと厳しくなかったか?」

「なんでも爺ちゃん、最近設置したみたい。色々と便利になって、最近の若いモンは色んな物を作ったり、自分みたいな年寄りには考えらんないのを生み出せてすごい!と言ってたのを、この前電話越しに聞いた」

「あら素敵なお爺さん」


そりゃー、最近の若いモンには負ける気はないぞ!って言って、俺に携帯だのゲームだのの遊び方について聞いてくるくらいだし。色々とね、負けず嫌いっつーか、前向きな人間なんだよ、爺ちゃんは。


「まぁ、近況報告的なのは以上!そっちはどうよ?」

「俺?まぁーいつも通りの夏休みだよ。【AO】で遊びながら、家の手伝い!あとはデートとかしたい!」

「いつも通りの予定だな。唯一違うのは【AO】だけで」

「マジで今年の夏は楽しめると思う」


ま、夏イベントとも言える【天獄戦争】はまだまだ始まったばかり!飽きる事はないだろうさ。


「にしても、今後の【天獄戦争】はどうなってくのかね?」

「天使、出会えるといいな」

「天使はクソ」

「おいどうした急に」


お前、そんな悪口言う子じゃなかっただろ!?どうしたんだよお前、お母さん悲しいぞ!?


「いや、俺に天使が来ないって事はさ…それつまり天使適正が無いって事だろ?」

「おい待てなんだその単語。天使適正ってなんだ」

「だから来なかったんだ!ああいいさ!なら次は悪魔召喚してやる!そんでお前といつかPvPで戦ってやる!」

「落ち着け!?」


駄目だコイツ、天使召喚出来なかった悲しみで変な方向に突っ走ってる。オモシロ。


「…というか、稲葉」

「なんだよぉ!?」

「………天使適正どうこう言うんだったら、あの三下チンピラ集団の方が適正ないぞ」

「フォローのつもりの攻撃やめろ」


そんなつもりはなかった。でもごめん、そう聞こえたか。

確かに、これ言ったらお前は三下でも出来る事が出来てないって言われたようなもんか。すまん。


「で、でもさ!次の後半戦になったら、召喚出来なかった人の為に、召喚出来るようになってる筈さ!その日になるまで期待しておこうぜ!流石の運営でも、待たせておいて何もしないっていう鬼畜な事はしない筈さ!」

「…そうだな。後半戦に期待する」


良かった、持ち直した。やっぱお前はバカみたいな元気でいた方がいい。


「だが妖真よぉ、何も召喚出来るようになるだけじゃあない筈だ。他のイベントも出て来たりすると思うんだが、どう思う?」

「ん?そりゃあー……なんだろ?」


そう言われれば…確かに、後半戦は何をするつもりなんだろ?今はただ、戦わせているだけだし…。


「……進化する、とか?」

「あぁ~、ありそう。特に動物系とか機械系とか、変化がすごそう」

「…俺んとこの鬼銃、進化するのかね?」

「服装とか色々変わるんじゃない?あと容姿」

「もっと鬼っぽくなってほしい」

「そればっかだなお前」


妖怪は俺のアイデンティティみたいなもんだぞ。可能ならば妖怪の彼女が欲しいとか、妖怪だけが暮らしているという秘境とかに足を踏み入れて永住したい。食われても本望な俺だぞ?


舐めんな、俺の妖怪愛。


「ところで話をガラッと変えるんだけどさ?俺、イベント終わったら別の国に行こうと思ってるんだよな」

「おぉ、遂にか」


そういえば、ずっとトラベラーでダラダラ過ごしてはいたけど、何も【AO】内で行ける国はトラベラーだけじゃなかったもんな。


「それで、どこに行くつもりなんだ?」

「それで迷ってるんだよ。なんせ色々あるだろ?『炎の国、ファイム』とか、『森の国、フォレグル』とか!それに、国ごとに名物とかが異なるしさぁ。色々と堪能したい」

「名物は色々と堪能したいよな」


因みに俺が一番行きたい国は、『極東の島国、ジャホン』だ。調べた感じ、どうやら妖怪が野良モンスターみたいな感じでいるみたいだ!倒せ……れないけど、どうせなら攻撃されてみたいよね!あと温泉が良いみたい!入りたい、温泉!それすら味わえる【AO】はマジで無敵だな!


「お前も一緒に行こうぜ?一人旅も楽しそうだが、俺はボッチ嫌いというか好きじゃねーんだ!」

「おぉ、いいぜ。だがそうなった場合、俺の行先はジャホンだけだ」

「それ絶対妖怪目当てだろ!?」

「それで何が悪い!?」

「もっと和の要素堪能しろよ!?温泉とか城とか侍とかさぁ!」

「妖怪だって十分“和”だろうが!」

「そうだけども!!」


ブブ、ブブ

「ん?お袋からだ…そろそろ戻ってこいってさ」

「あぁ、そういえば買い物しに行くんだったか?楽しんでこいよ!あ、学生割引等で、合計700円になりまーす」

「おう、お土産とかはあんまり期待しないで待っとけ。んでこれ、700円。レシートはいらね」

「ありがとーございましたー。気を付けて行けよー」

「オカンかお前は。まぁ楽しむわー」


イナバ食堂を後にして、家に向かう。


さーて、何を買おうかな。向かう途中の軽食とか、あと…ポテチ食いたい。あとコーンフレーク。俺、ミルクとか何もかけないで、そのまんまのコーンフレークを食いたい派閥なんだよな。絶対少数派、というか俺だけだと思う。


…あぁ、そうだ。あと、和菓子とか買おう。洋菓子とかも一緒に。


お供え物…という意味で。

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