PvP
PvP。
それは、プレイヤー同士で対戦するアレだ。
PvPで勝った奴は、相手のお金と装備品、そして経験値なんかを受け取る事が出来る。PKとは違い、お互い合意の上でやるから、恨みっこなんて無しだ。もしこれで逆恨みなんてしたら、ネット上とかで永遠の笑いものとされるぞ。
俺は今からそれをする。相手?相手は…。
友達と愛すべき存在を貶した、この世に存在しちゃいけねぇ類の、ゲボカスゴミ野郎だ……!!
『プレイヤー“超絶最強神”が、PvPを受諾しました』
「テメェ…!ぜってぇ後悔させてやる…!」
「やれるもんならやってみなよ?こっちは例え、泥水啜ろうが血反吐まき散らそうが汚物をたれ流そうが、絶対にお前のその腐った性根を根絶させた後に、部屋の隅でションベン漏らしながらガタガタと命乞いをさせてやるからよぉ…!」
「な、なんだよアイツのあのキモイくらいの熱意…!?」
リーダー格の男が睨み返してきて、子分共はなんかビクビクしてる。やっぱ烏合の衆というか…クソの塊だな!マジでぶっ殺!!
「お、おい雨天!俺等は気にしねぇって!お前、戦闘得意な方じゃないだろ!?」
…稲葉。すまんな、こんなクソイベントに巻き込ませて。だが許せ。
「お米、安心しろ。俺が勝つから」
「だからそういう問題じゃ―――!」
『PvPを開始します。バトルステージへ転送します』
お、始まったか。
俺と相手の…小学生なの?って感じのネーミングセンスのリーダー格は、PvP専用ステージへと転送された。モンスターが出現しないような場所でのPvPを行う場合は、こうして専用ステージへと転送されるとは聞いていたが…あっという間の移動だな。
ドーム状で覆われた、専用ステージ。殺風景なステージで、障害物なんかは何もない。ただ、覆っているドームから、このPvPを見学しにきたプレイヤーの画面で埋め尽くされている感じだ。その中には、稲葉達の姿も。
「我等が王よ、指示を」
「フシャーーー…!!」
『As a demon, I can't overlook the fact that I've degraded my friends and made a fool of my master. Leave it to me to destroy his angel!』
【友達を貶す事、そして主を馬鹿にされたとあっては、悪魔としては見過ごせない案件だからね。あいつの天使をぶちのめすのは、私に任せてくれたまえ!】
そして、俺の相棒たちも無事に転送されてきた。てことは勿論…
「ぜってぇぶちのめしてやる…!」
『フシュルルルル…』
……えーと、蛇?蛇だよな、アイツ。天使の羽と輪っかがある、白い蛇…だな。
…蛇が天使って、大丈夫なの?ほら、アダムとイブ的な意味で……良いのかな?運営の事はよく分からん。
…まぁいいさ。
「八雲、すこちゃん様、鬼銃。お前たちは全力で、あの蛇天使を妨害しろ。俺は単独で、あのゴミを叩き潰す」
「おや、それでいいのかい?我等の手にかかれば、あんな奴はちょちょいの」
「俺 が や る」
「…我等が王の、仰せの通りに」
「にゃう!」
『Understood, my lord.』
【了解した、我が主よ】
任せたい気持ちは大いにあるさ。
だが、俺一人でアイツをぶちのめさなければ、意味がないのだ。だから、俺だけで行く。
それに…アイツの装備からして、主武器は大剣と大盾。恐らく、力が俺の何十倍はあるだろうさ。
だが、それならスピードは遅い筈。相手もそれを理解してるからか、大盾と鎧でガッチリ護っている。となれば…
『Ready... fight!!』
『シュララララッ、ガァ!?』
「我等が王の邪魔はさせないよ、蛇め!」
「にゃおーん!」
『Now, let the party begin! Fire the cannon that starts the war!』
【さぁ、パーティーの始まりだ!開戦の砲を撃ちまくれー!】
「なっ!?て、テメェ!」
「やっぱり、敏捷バフで一気に来る気でいたか。これでお前の足は封じたも同じだな」
デメリットを補う為に、支援系統のバフを与えてくれる天使を召喚したか。支援の天使、火力の悪魔。上手い事活用するよね、本当。
「さて、じゃあこっちから行くぞ!」
低レベルとはいえど、敏捷はアイツよりある!ならば、素早さで翻弄させてやるさ!
「チッ!させるかよ!」
おっと、大剣を振り回してきた。当たるわけないが、牽制にもなるが…遅いな!
「なっ!?」
「そりゃ!」
大剣をフルスイングし終えた隙を狙えば、狙うのなんて造作もないさ!
俺は唐傘を、鎧の隙間…首にくっつけ、妖術を放つ!
「『水妖術:水撃』!」
「ゴハッ…!」
水球より威力のある攻撃で、首を打ち抜く。チッ、やっぱりダメージはさほど通用しないか。唐傘お化けの事を馬鹿にするつもりはミリも無いけど、こういう時に少し欲しくなるね、攻撃力。
「だが、裏を返せばいくらでもダメージを与える事が出来るし…嫌がらせにも繋がるって事で」
「ゲホ、ゲホッ…!舐めんなぁ!」
ブォン!
うぉっと!?大盾をぶん投げてきやがった!危ねぇ、ギリギリ避けれ…っ!?
気づけば、リーダー格が近くに…!よく見れば、足に風が…『ウィンドブースター』か!支援系の風魔法を使えるのか!
「うおりゃあ!」
「っ!!」
振り下ろされてくる大剣を攻撃を防ぐべく、唐傘を開いて盾にする!
ガキィン!
唐傘からは絶対に出てこないような金属音と共に、かなりの衝撃が腕に襲ってくる…!くっそ、ガードしても多少HPが削られるな…!
「もう一丁!」
「おっと!」
流石にそれを連続で受け止める気はない!緊急回避!からの!
「『水妖術:水刃』!」
「ぐっ!」
くそ、鎧に当たった!やっぱり通用しないな、鎧の前には…!狙うなら隙間か!
『シュラララララ!』
「黙っていヤガレ駄蛇如キガァ!!』
「ニャオーン!!」
『Oh? I feel like I've suddenly become more powerful! Maybe it's because of Suko-chan? Thank you!』
【おや?急にパワーアップした感じがするよ!もしかしてすこちゃん様のお陰かな?感謝するよ!】
…あっちはあっちで、ちゃんと仕事を果たしてくれている。なら、主としてはカッコイイとこ見せないとな!
「オラァ!」
「ぐっ…!」
とかなンとか言ってたら殴られた!くそ痛てぇ!今のでHPが残り5くらいになったんだが!?でも…!
「捕まえ、たぞこの野郎…!」
「くそ、離せ!コノ!」
フハハハハ!力は弱いが粘着質なら負けないぞ!例えそんなに腕をブンブンされてもあれまって意外ときつくて吐きそ…
「『水妖術:水球』ァ!!」
「ぶぇ!?ぐあ、汚ねぇ!!」
ふはは!どうだ、口から妖術の味は!見事顔面にクリーンヒットだ!顔を全部鎧で覆わなかった貴様が悪いのだ!
「それに、唐傘からしか妖術が出ないとは一言も言っていないぞ!『風妖術:風弾』」
「痛っ、痛たたた!?」
指先から風弾を放って、チクチクと攻撃していく。どうだ、痛いだろ!大技食らうよりキツイだろ!弱い奴には弱いなりの戦法があるんじゃバーカ!!
「いい加減、離れろ!」
ブォン!
「うおぉ!?」
あ、やっば!あまりの遠心力に吹っ飛ばされ…あ?
『シャ?』
ドガッ!!
『ギシャア!?』
ドカァーン!
……リーダー格による吹っ飛ばしで俺が弾となり、そのままの勢いで天使に激突!その衝撃で天使を倒した!
棚ぼた!!
「な、あぁ!?」
「ふっはははは!結構予定とは違ったが、棚ぼたで天使を倒せた!ラッキー!」
「…我等が王よ。我等の立場が…」
「あとで魔石いっぱい上げるから許して」
「ワーイ♪」
あれ、八雲ってこんなチョロかったかな?可愛いからいいけど。
「テ、テメエ!よくも!」
「いや、そっちのせいだからな?俺悪くない」
お前が俺をあのまま粘着させていたら、天使は倒されずに済んだんだぜ?まぁもう遅いけど!
「くそ、こうなったら…!『チャージバスター』!」
お、その場で大剣を抱えて、力を溜めこみ始めた。恐らく…いや、十中八九、溜めた力で突撃し、全力フルスイングをかますつもりなのだろう。
なら、こっちも…!
「初めてだけど、やってみるか!『妖怪変化』!」
プレイヤーは、妖怪を選んだら妖怪形態と人形態、どちらも好きに選べる!今回、初めて妖怪変化をやってみた!
ドロン!
おぉ、変わった!俺がいつも持っているあの唐傘の姿に!興奮したいが、後回し!ここで次に行うは、こいつ!
「『唐傘奥義』、発動!」
八雲の時にも知ったのだが、妖怪という種族は、『秘妖術』というのが存在する。それは当然、俺も持っている!
『秘妖術』を発動させると、俺の周りを、強烈な強風と水が渦巻き始めた。それはだんだん強力になっていき、暴風と呼んでも差し支えないレベルになっていっている。
もっとレベルを上げればバリエーションも増えるみたいだが…今の俺が使える、最大級の一撃を食らいな!
「どりゃあああああああああああ!!」
「『奥義:暴風突傘』ぁああああああ!!」
リーダー格は、チャージした力で渾身の一撃を食らわさんと向かってきて。
俺も溜めた一撃を放つべく、真正面から突撃する!
さぁ、食らえええええええええええええええええええええ!!
…………なんてな☆
「ほい解除」
「え?」
ぶつかる数秒前に、俺は元の人間体へと変化して、溜めこんだ力を無駄にさせる。
それを見て、リーダー格は脳がフリーズした。まぁ気持ちはちょびっっっっっっっっっっっとだけ分かる。同情はしないぞ!
「んで、あらよっと♪」
「な、あああああああああ!?」
ぶつかる前に華麗に避けて、攻撃を回避。リーダー格は曲がる事も出来ずに…
ガシャーーーーーーーーーーン!!!
ステージに大激突!その衝撃で鎧もぶっ壊れ、生身の姿が出てきた!
ハッハッハッハッハッハッハーーー!!バーーーーカ!そんな一撃、食らったらこっちが敗けるに決まってるわ!
溜め込んだ力を振るわずに無駄にするなんて、普通だったら考えないだろうなあ!
だが残念!俺は自他ともに認める妖怪好きな変態!故に、発想も変態なのだよ!
にしても上手くいった!すこちゃん様召喚前、八雲とレベリングしていた時に考えていた事が、こうも上手くいくとはなぁ!
大技の強制解除!妖怪時と人間時の時で技の持ち越しが出来ないのを逆手に取った手段!ここまで綺麗に行くと、流石に脳汁が溢れ出てくるのが止められないなぁ!!
……さて。
「ぐ、ぅ…!くっそぉ…!」
バキィ!
「ごぶっ!?」
チャージ技は強力な一撃を与える代わりに、外した時は隙を大幅に与え、さらに何かと激突した時には、武器も鎧も壊れかけるか壊れるという、まさに捨て身の一撃。
そんな攻撃を外したということで、リーダー格は今まさに、丸裸といっても過言じゃない。
俺はそいつに近づき、よろよろと立ち上がろうとするそいつの顔面を蹴り上げた。
面白いように吹っ飛ばされるのを眺めつつ、俺はそいつに近づいて、男の象徴を容赦なく蹴り上げる。
コカーン!!
「はぅっ!!?」
「さぁーて……粛清の時間だ」
多分、今の俺は邪悪な顔をしているだろう。それを自覚できるくらいには、きっといい笑顔をしている筈だ。
なんせ、リーダー格は俺の顔を見て、ガタガタと怯えた様子で見てきた。クックック…!まるで妖怪にでも出会ったかのような顔だなぁ…!
まぁ、それこそが妖怪の本領発揮とも言えるな…!
「さぁ、粛清だ!命乞いなどもう無駄だ!我が眷属の力で、HPを回復させつつお前に攻撃をして、俺の気が済むまでいたぶってやろう!つまり、サンドバックだ!レベリングの役にも立ってもらおう!さぁ、心の準備は出来たか!?神様にお祈りは!?天使様に助けを乞える喉の準備は!?悪魔にすら縋る程の気持ちの準備は!?部屋の隅でガタガタ震えて、ションベンまき散らしながら命乞いをする、心の準備はオーケー!?」
「や、やめろ…!」
「やめろ?ハハ!面白い冗談だ!やめる機会なんて……………俺達に絡んできた瞬間から―――」
「モ ウ ナ イ ン ダ ヨ ♡」