同族の匂い
「と、いう訳で!新しく仲間になった妖怪、すねこすり!またの名を…“すこちゃん様”だ!」
「にゃう!」
「いや名前草ァ!!」
「実にいい名前だな!」
「すこちゃん様きゃわわ~!!!」
土曜の朝になった。
すねこすりこと、すこちゃん様を召喚し終えた俺は、そのまますこちゃん様のレベリングを少ししてからログアウト。一旦寝て、朝に起きて飯食って、再びログイン。
その時には、稲葉達がログインしていたので、合流した後、お披露目という形になった。
「肉球ぷにぷにしてるぅ~!!可愛いぃ~~!!」
「あぁ、全くもって、けしからん可愛さだよねぇ。我等の後輩がこんなのだとは、全く可愛いもんだねぇ」
そしてすこちゃん様、現在は女性陣に愛でられまくっている。本人…本猫?もまんざらでもないようで、されるがままだし、愛嬌を振りまいている。その金色の毛並みをわしゃわしゃされまくっても、心地よさそうにしている。
それを見てて思う。やっぱり、可愛いは世界を救うんだな!可愛いは正義!
「お前さぁ……すこちゃん様って名前、もっとどうにかならんかったの?」
「なんでや!良い名前じゃろがい!」
「俺はとても良いと思っているぞ!分かりやすくて!」
「ほら、仮面セイバー1号もこう言ってる!」
「ああああもう収集つかねぇ!」
なんでだよ!めっちゃ良い名前ダルルォ!?
よーし、そこまで言うならお前のネーミングセンスを問わせてもらおうじゃ……!!
「失礼!そこを通るぞ!」
「ん?」
後ろから大声をかけられ、振り返ると、一人の男が俺達の後ろを通っていった。
長く整えた赤髪の隙間から角が生え、腰付近から伸びているトカゲのような尻尾から察するに……竜人族のプレイヤーだな。
確かに、ちょっと邪魔だったかな?失敬しっけ………む。
「ちょいと良いかな?」
「え、雨天?」
「?どうしたんだい、我等が王よ?」
「む?なんだ?」
その男が通り過ぎたその時、ある気配を感じた。気づけば、俺はその男に声をかけていた。
周りが俺の突然の行動に、頭にハテナを浮かび上がらせる中、男は俺の方を振り返ってくれた。
そして、その男は俺の目を数秒見て……こっちに近づいてきた。
どうやら…俺と同じ感覚を味わったみたいだ。やはり、俺の感覚に狂いは無かった!
「お、おい。どうしたんだよ?知り合いなのか?」
「いいや!」
「いいや!?」
だが、俺には分かる!この男は…!
「………」
「………」
男が俺の前に立って、俺を見つめてくる。俺もこの一つ目で、見つめ返した。
周りがうろうろしているのを気配で感じ取りながら、俺はそいつとしばらく向かい合い……そして…。
「「………っ!!」」
ガシッ!!
固く、両手を握り合わせた。
「???え、あの……え?」
「うーん……?雨天君、何をしているんだい?」
「まさか、禁断の…!?」
「我等が王よ…?」
「にゃー?」
やはり、やはりだ!
コイツは、俺とは若干違う!しかし分かる!!
コイツは、『同族』だ!
「はっはっは!急に呼び止められたから何事かと思ったら……まさか俺と『同じタイプ』の人と出会うとは!いやはや、本当にこのゲームの世界は面白いな!」
「あぁ、俺もだ!俺と似たような思想の持ち主が他にもいるとは!変人とは、どこに行ってもいるもんだな!」
「違いない!」
「「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」」
いやぁ、これは良い出会いだ!まさかまさかだよ、本当に!
「そうだ、これから実際にやろうと思うんだが、一緒に見るか?」
「お、いいの?見に行く見に行く!」
「よし、ではついてこい!そこの友人たちもどうだ!」
「いやいやいやいやいやいや!!まず状況!状況説明プリーズ!?」
む、なんだ分からんのか。全く…稲葉、お前って奴は…。
「お前、何年俺の友達として過ごしたと思ってるんだ?」
「どういう意味だよ分からんわ!」
「つまり、だ。あの男は、俺と同じ『野望』を持っているって事だよ」
「………は?」
あ、理解したみたいだ。その上で「何を言ってやがるんだコイツ?」って顔と目してる。
まぁ、気持ちは分からんでもないぞ。
「なんで初対面の奴が通りかかっただけで、自分と同族だってのが分かるんだよオメー?って顔だな」
「エスパーか?と思うくらい、一言一句同じ思いをしたよ。若干気持ち悪いわ!」
「そこまで言われると普通に傷つく」
「え、あ、ごめん」
変人とは自負してるが、傷つく心は一般人なんだぞ俺は。
だがまぁ、その理由に関して答えるとなれば…。
「よく漫画とかである展開だよ。『コイツからは、俺と同じ匂いがする…!』って奴。正にそれ」
「ほほぉ!本当に漫画みたいな事を、直感で感じ取ったというのかい?」
「俺もびっくりした。あれ、絶対嘘だろwwwって思ってたけど…実際に自分が同じ場面になると、こういう感覚か!ってなったよ」
まさに、事実は小説より奇なり!
「…あの、ごめん。私は何のことやらサッパリなんだよね」
「実を言うと、俺もだ!」
あぁ、そういえば二人は俺の『野望』について知らないんだったか?まぁ、今ここで俺の事について話してもしょうがないし…彼の考えを言うが吉だな。
「要するに、この人は俺と同じで……見た目からして、竜だよね?」
「うむ!正確に言うと、恐竜だな!」
「という事で、この人は自分が竜になりたいし、死ぬなら竜に食われて死にたいし、自分と同じ、『恐竜だけの軍団を造り上げたい』という『野望』を持っている……早い話が変人って訳だ!んで、俺はコイツと同じ穴の狢!」
「分かりやすい説明、どうもありがとな!」
「……ヤバイ、余計分かんなくなった!」
「成程!そういう事だったか!」
「分かったの!?」
お、仮面セイバー1号は理解したみたいだ。じゃあ、あとの説明は彼に任せるか!
「そうと決まれば、早速行こう!試したい事があって、ついさっき材料を集め終わったんだ!とても楽しみだ!」
「おぉ、それはいいな!よーしお前ら、ついてこーい!」
「…あぁ、頭が痛くなってきた……!」
「我等が王は、時折面白い事をするねぇ。それこそが、我等が付いていきたくなった理由とも言えるのだがね」
「にゃう!」
さーてさて、どんな奴が出てくるのかな~♪俺みたいな『野望』の持ち主…これから先は“親友”になるか、“ライバル”になるか…見ものだね!