読者は客だが客ではない(『逃げるは恥だが役に立つ』のイントネーションでどうぞ)
皆さん、こんにちはこんばんは。初めての方は初めまして。
自分は、小説家になろうにて細々と活動しているしがないアマチュア作家・朽縄咲良と申します。
タイトルを読んで「何言ってんだコイツ?」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、もし宜しければ、ご一読頂ければ幸いです。
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最近、エッセイジャンルやツイッター上にて、取り上げられる話題があります。
それは、『迷惑感想』『読者ブロック』といった件です。
ツイッターを覗いていると、時折、難癖どころか誹謗中傷としか思えない様な心無い感想や、作品の内容に細かすぎる(そして、多くの場合的外れな)指摘を載せた感想を寄せられた事に苦慮する作者の嘆きや不満が目に入ります。
そういった感想に真摯に対応している作者さんもいらっしゃいますが、真摯に対応するあまり、無駄な労力を費やしてしまったあげく、心のSAN値を悪化させたり、心労が過ぎて筆を折ってしまう方もいらっしゃいます。
自分がウェブ小説サイトで連載を始めてから二年半以上経ちますが、素晴らしい作品を連載していて、将来は書籍化も狙えそうだった方が迷惑感想の餌食となり、小説ウェブサイトから姿を消してしまった……そんな悲しい結末を、もう何度も目にしております。
何故、そんな事が起こってしまうのか……自分は、ウェブ小説作家の間で当然のように認識されている『読者はお客様』という不文律が、誤った方向に曲解されてしまっているからなのではないか――そう愚考いたしました。
迷惑感想の件で、自分が強く言いたいのは、当エッセイのタイトルの言葉そのままです。
――『読者は客だが客ではない』――
――お読みになっている皆さんの脳裏に、(……つまり、どういう事だってばよ?)という疑問が浮かんだ事だと思います。
なので、より分かりやすく、補足とルビ振りをしてみる事にします。
『(小説投稿サイトの)読者は客だが客ではない』
これで分かりやすくなったかと思います。
小説投稿サイト内の迷惑感想が尽きない原因、そして、そんな迷惑感想をウェブ小説の作者が無下に扱う事が出来ない原因が、この一言に尽きると、自分は考えています。
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日本語の『客』という言葉。
それには、様々な意味があります。
試しに、『goo辞書』にて、『客』という単語を引いてみましょう。
1 訪ねてくる人。また、招かれてくる人。まろうど。「客をもてなす」
2 料金を払って、物を買ったり、乗り物に乗ったりする人。顧客・乗客・観客など。「客の入りが悪い」
3 旅人。また、止宿人。「不帰の客」
4 主体または自分と対立するもの。客体。
「月の題に大仏を詠み合せて大仏が主となり月が―となるとも」〈子規・俳句問答〉
5 (多く「お客さん」の形で)
㋐ある組織の中で、別格扱いされる人。
㋑勝負事・商売などで、くみしやすい相手。
6 月経のこと。
――(goo辞書より引用)
へぇ……月経の事を『客』って呼ぶんですね。知らなかったです。
て、それはひとまず置いておいて……。
このエッセイで重要になるのは、1と2の意味です。
即ち、1の『訪ねてくる人』と、2の『料金を払って、物を買ったり、乗り物に乗ったりする人』。
英語にすると、1は『visitor』、2は『customer』と訳されます。
つまり、英語の上では全く違う単語を日本語にすると、同じ『客』という単語になってしまうという事です。
ウェブ小説投稿サイトの『読者』は、しばしば『お客様』と呼ばれます。
では、ウェブ小説投稿サイトの読者――“客”は、『visitor』と『customer』のどちらに比定されるのでしょうか?
答えは明白。
『visitor』です。
何故なら、小説投稿サイトの読者は、作品を読む際に『料金を払って』いません。よって、『customer』の要件を満たしてはいないのです。
逆に、『訪ねてくる人。また、招かれてくる人』という点に関して、『visitor』の要件は充分に満たしているといえます。
その事から、
「小説投稿サイトの読者は、『客』である」
という結論が導き出せると思います。
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たとえ話をしましょう。
あなたが、ある人を“客”として自宅に招きました。
しかし、あなたの自宅に上がり込んだその“客”は、
「この家具の位置は風水的に悪いから」と言って、あなたに部屋の家具の配置を変えさせようとしたり、
「あなたの同居人は性格が悪くて、私は好きになれない」と、あなたの身内を悪し様に罵ったり、
「あなたの同居人の事を、私は好きになれないから追い出しなさい」と、乞うてもいない忠告を圧しつけてきたリ、
「こんな間取りじゃ使い辛いだろう?」と言いながら、ハンマーを振り上げて内壁を壊そうとしたりします。
そんな“客”の振る舞いに対して、家の主であるあなたはどうしますか?
恐らくあなたは、
「ウチの家に何してくれとんじゃ!」「俺の身内の事を侮辱するな!」と激昂して、その横暴でお節介な“客”を家から追い出したり、警察に通報して連行してもらったりすると思います。
おかしくなんかはありません。それが、至極正常な反応です。
小説投稿サイトでも同様なのです。
「この設定は不自然だから」と、感想に事細かに記載した上、作者に修正を強いたり、
「このキャラクター、とにかく気に食わない。存在自体がふざけている」と、作品の登場人物を過剰に罵ったり、
「この作品に、こんなキャラが居る事が耐えられないから排除しろ」と作者に命じたり、
「こんな文章じゃダメだ! 修正してやる!」とばかりに、誤字修正機能を駆使して、作者の書いた文章を添削しまくったり……、
作者は、そういった「迷惑行為」に対して、自分の作品の尊厳と存在を護る為に、その迷惑行為を行なっている読者をブロックしたり、運営に通報したりして排除する権利を持っているのです。
ましてや、相手は、相応の対価を支払って、あなたの作品を楽しむ“客=消費者”ですらなく、単なる“客=訪問者”に過ぎません。
……否、
読者が、作者や作品に対して、上記のような狼藉を働いたのであれば、その読者はいずれの意味においても“客”ではありません。
ただの“狼藉者”に過ぎないのです。
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……とはいえ、耳に痛い感想全てが、作者と作品への敵意によって齎される訳ではありません。
案外と、直言された厳しい感想が作品の弱点を的確に衝いていて、その感想に沿って改稿したところ、作品のクオリティが劇的に上がった――という事も少なくないです。
作者の皆さんは、辛口の感想が寄せられた際に、その感想が的確な指摘なのか、それとも単なる罵詈雑言なのかを判断して、糧になるものは取り入れ、毒になるものは排除する――そういった的確な選択ができる判断力が必要だと思います。
そして、たとえ痛みを伴う感想であっても、一度は耳を傾ける事の出来る度量を持つ事が肝要です。頭ごなしに排除してしまっては、本当に役に立つアドバイスをみすみす見逃してしまう事になるからです。
もらった意見を取捨選択できる強かさを持つように、心を鍛える事が、あなたの作家人生の寿命を延ばすカギになる――自分は、そう思います。
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作者の皆様、『辛口感想』という皮を被ったタダの罵詈雑言に心折られる事無く、強く強かに執筆して参りましょう!
乱文、失礼いたしました。