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0044話

アルファポリスのファンタジー大賞が終了しました。

応援してくれた皆さんのおかげで、なんと3位に入ることが出来ました。

他の場所でも小説を書いていますが、小説家になろうにて初めて投稿した作品がこれだけ評価して貰えて嬉しい限りです。

これからも皆さんが楽しんで貰えるように頑張って書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

一応、出来る限りは1日1話のペースで更新して行きたいと思います。

「グルルゥ」


 レイがミスティリングから取り出した魔石……ではなく、オークやその上位種の肉を見てセトが喉を鳴らす。

 オークを倒した直後は死体をそのままミスティリングへと入れていたのだが、エルクに手伝って貰って素材を剥ぎ取ったり魔石を取り出したりした時にセトがその肉を食べたそうに眺めているのを見て、エルクがついでとばかりに適当な大きさに切り分けてくれていたのだ。

 ……もっとも、その時は色々と忙しかったせいもあってセトがその肉を食べる機会はお預けとなったのだが。

 一応分類的には亜人となるオークだが、当然この世界ではそんなのは関係ないとばかりに……否、ランクDのオークやその上位種達の肉は一般に出回っている低ランクモンスターの肉よりも魔力を多く含んでいるので美味であり、街中の肉屋でもそれなりに取り扱ってはいるとレイはエルクに聞かされていた。


「ほらっ!」


 オークの集落から街に戻って2日。宿で貰える食事や餌付けしてくれる街の住民や冒険者達から貰った食べ物だけでは足りなかったのか、セトはポンと放り投げられたオークの肉をそのクチバシで器用に咥えて飲み込んでいく。


(魔石の吸収は、取りあえずセトが一段落してからだな)


 オークの肉を美味そうに食べるセトを眺めていると、レイもまた夕暮れの小麦亭で昼食を食べてからそれ程経っていないというのに腹の虫が自己主張してきたので、木から枝を一本切り取ってオークの肉を刺して地面へと突き刺す。

 近くに落ちている枯れ木を集めて魔法を使い火をおこしてオークの串焼きにし、ミスティリングから取り出した塩を表面に軽く振って口へと運ぶ。


「確かに美味いな」


 オーク自体がDランクとそれなりのランクで魔力が高い影響もあって肉の味が濃い。その為、塩のみというシンプルな味付けで存分に肉の味を堪能出来た。


「グルゥ……」


 それまで生肉を貪るように食べていたセトだったが、魔の森から出る時の野営で火を通したウォーターベアの肉を食べており、街中でも串焼きは良く食べていた。それ故にオークの串焼き肉を食べているレイへと羨ましげに喉の奥で鳴き、それを見て苦笑したレイがセトの分の串焼きを作ってやるのだった。






「グルゥ」


 ミスティリングの中に入っていたオークの肉を数頭分程食べて満足したのか、セトが満足気に鳴く。

 その頭を撫でながら少しの間休憩し、林の中を流れていく風を感じる。

 緑の匂いが香る風を堪能し、耳を澄ませば聞こえるのは鳥や虫、あるいは何らかの獣やモンスターの鳴き声。そんな声を聞きつつ、レイはミスティリングからオークの魔石を取り出す。

 オークの魔石はギルドにその殆どを売り払ったが、セトとデスサイズ用に一応2個程取っておいたのだ。


「……よし。休憩終了っと。セト、魔石の吸収を始めるぞ」

「グルゥ!」


 セトもまた、魔石を吸収すれば己の力が増すというのを理解しているのでレイの言葉を聞き嬉しげに鳴く。


「まずはこの通常のオークの魔石だ。……一応ランクEのゴブリンの希少種でもスキルを覚えられたんだから、可能性はあると思うが……セト!」


 声を掛け、セトの方へと魔石を放り投げる。

 それをクチバシで器用に受け取り、そのまま飲み込むが……スキルを習得した時のようなアナウンスメッセージが特に流れることもなく、特に変化は無かった。


「何も起きない、か」

「グルゥ」


 残念そうに鳴くセト。

 一応念の為にとセトのスキル覧を脳裏に浮かべるが、そこにあるのは相変わらず水球とファイアブレスの2つのみだ。


「スキルの習得はどういう基準なんだろうな?」


 呟きつつ残り1つのオークの魔石を宙へと放り、デスサイズで一閃する。

 その刃で2つに分断され、煙のように消え去るが……やはりデスサイズもスキルを習得することは出来なかった。


「魔石2つを無駄にしただけか。まぁ、せめてもの救いは通常のオークの魔石だったってことだが」


 溜息を吐きつつ、次はオークアーチャーの魔石をミスティリングから取り出す。


「セト」


 先程と同じようにオークアーチャーの魔石を放り投げ、同様にセトがその魔石をクチバシで咥えて飲み込む。


【セトは『ウィンドアロー Lv.1』のスキルを習得した】


 そして脳裏に響くアナウンスメッセージ。


「覚えた、か。にしても、ウィンドアロー? セトのスキル名が水球とファイアブレスだというのを考えると、風の矢とかになりそうな……まぁ、その辺は恐らくタクムの趣味か何かなんだろうが。それよりも、オークの魔石は黄色。つまりは地属性の魔石だ。なのに風のスキルを覚える? オークアーチャーの魔石だからか? セト、向こうに生えてる木に向かってウィンドアローを使ってみてくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に頷き、指示された通りに少し離れた所にある木を睨みつける。そして……


「グルルルゥッ!」


 高く吠えたかと思うと不可視の何かがセトから複数撃ち出され、木の幹を数ヶ所鋭く切り裂いた。

 ただし、さすがにLV.1と低レベルの為にその威力自体はそれ程強くはなく、木の幹を切り裂いた傷の深さは数cm程度といった所だ。とても木の幹を真っ二つにするような威力は無い。その代わりという訳ではないのだろうが、水球に比べると明らかにその射出速度は速い。


「威力自体は水球やファイアブレスより低めだが、ウィンドアロー、風の矢の名前通りに不可視に近い攻撃手段というのはかなり使えそうだな」

「グルルゥ」


 レイの言葉に嬉しそうに鳴くセト。それを横目に、残り1個のオークアーチャーの魔石を宙へと放り投げてこちらも先程と同様に2つに斬る。その瞬間、煙のように魔石は消え去り……


【デスサイズは『飛斬 Lv.1』のスキルを習得した】


 アナウンスメッセージが脳裏に響く。


「飛斬、か。まぁ、読んで字の如くなんだろうが」


 デスサイズを構えてセトが先程ウィンドアローを放った木へと狙いを付ける。


「飛斬!」


 スキルを発動させてデスサイズを振るうと、そのスキル名通りに斬撃が飛んで行き……木へと命中する。

 飛斬が命中した箇所は、セトの放ったウィンドアローよりも深く木の幹を切り裂いていた。ただし、ウィンドアローが1度発動するだけで複数の風の矢を飛ばせるのに対して、飛斬で飛ばせる斬撃は1つだけという欠点もある。


「なるほど。手数はウィンドアローが上で、一撃の威力は飛斬の方が上な訳か。さて、次はオークメイジの魔石だな」


 多少予想とは違っていたが、それでも満足気に頷いたレイは続いてオークメイジの魔石をミスティリングから取り出した。

 そしてそれを先程と同様にセトへと吸収させ……


【セトは『ファイアブレス Lv.2』のスキルを習得した】


 アナウンスメッセージが脳裏を過ぎる。


「ほう、ファイアブレスのLv.2か。セト」

「グルルゥッ!」


 レイが何を促しているのかを悟ったセトは、そのまま上空へと向けてクチバシを開き……炎を吐き出す。

 その口から吐き出された炎は、Lv.1の時に比べると明らかに太く、遠くまで届いている。そして炎その物の温度も以前よりも上がっているのが分かる。


「グルゥ?」


 どう? とばかりにレイの方を振り向き、その顔を擦りつけてくる。


「ああ、さすがセトだな。いい炎だった」


 その頭をコリコリと掻きながら褒めてやると、セトは喉の奥で嬉しそうに鳴くのだった。


「さて、じゃあ次はデスサイズだな」


 セトから離れ、オークメイジの魔石を宙へと放り、デスサイズで一閃する。

 今までと同様に、2つに切断されて煙の如く消え去るオークメイジの魔石。


【デスサイズは『マジックシールド Lv.1』のスキルを習得した】


 そして脳裏に流れるアナウンスメッセージ。

 だが、それを聞いたレイは微かに眉を顰めてデスサイズへと視線を向ける。


「これは外れ、か?」


 疑問に思いつつも試しとばかりにデスサイズを構える。


「マジックシールド!」


 レイがそう叫ぶのと同時に、レイの目の前に1枚の光の盾のようなものが現れる。それを見たレイは、デスサイズを振りながら光の盾を邪魔にならないように動くように念じる。そうすると光の盾は自動的にレイが振り回しているデスサイズの邪魔にならないような位置へと移動する。

 デスサイズを振り回しながらその様子を確認していたレイは、動きを止めてからマジックシールドを消す。


「確かに自動的に動いてくれるというのは悪くない。悪くないんだが……」


 呟きながら、自らが纏っているドラゴンローブへと視線を向ける。

 ドラゴンの皮を使って作られているそのローブは、当然のことながら魔法に対する強い防御力を発揮する。また、2枚重ねになっているローブとローブの間にはドラゴンの鱗が仕込まれているので、並の剣や槍、弓ではドラゴンローブを貫いてレイの身体にダメージを与えることは出来ないのだ。もっとも、斧やハンマーといった重量級の武器なら刃を防ぐドラゴンローブでも衝撃自体は防げないのでレイにダメージを与えられるのだが。


「……そういう意味では一応有用と言えば有用なのか? マジックシールド!」


 再びマジックシールドを出現させ、セトの前まで持っていく。


「セト、そのマジックシールドに何か攻撃をしてみてくれ」

「グルゥッ!」


 レイの言葉に頷き、マジックシールドへとその鋭い鉤爪を振り下ろす!

 するとマジックシールドはその一撃を完璧に受け止めるも、次の瞬間にはまるで霞のように消え失せる。


「……ん? マジックシールド! セト、もう1回だ。今度は水球で」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトから放たれた水球。それも同様にマジックシールドがその攻撃を防ぐと霞のように消え失せる。


「これは、もしかしてかなり強力な攻撃も防げるのか? セト、次はウィンドアローだ」

「グルゥッ!」


 レイの声に従い、放たれるウィンドアロー。最初の攻撃は今までと同様に防げたのだが、その攻撃を防いだ瞬間にマジックシールドはこれまで同様に消え失せ、同時に放たれた他のウィンドアローはシールドの後方にあった草を刈り取っていく。


「なるほど、1回のみだがかなり強力な攻撃も防げるのか。しかもオート、セミオート、マニュアルの3種類を使い分けることも可能、と。そうなるとさっきの外れという言葉は取り消さないといけないだろうな」


 防御を自動的に行ってくれる盾。しかも防具の盾とは違って質量が無く、ましてや手で持つ必要も無い。唯一にして最大の欠点は攻撃を1回防ぐと消えてしまうことだが、それにしてもレイの場合はその莫大な魔力に物を言わせてマジックシールドが消えたら再度使用すれば問題無い。

 ドラゴンローブとマジックシールド。この2つの防御を抜くというのは並大抵では無いだろう。


「まぁ、使えないスキルじゃなくて良かったってことか。それに腐食と違ってあからさまに魔法っぽいからあまり隠す必要も無さそうだしな。次、オークジェネラルだな。セト」


 ミスティリングから取り出したオークジェネラルの魔石を放り投げ、それをクチバシで咥えて飲み込むセト。

 その様子を見ながら、次はどんなスキルを習得するのかと楽しみにして待つが……


「……何?」


 スキルを習得したというアナウンスメッセージは流れることがなかった。


「どうなっているんだ? ランクCモンスターの魔石だぞ?」


 そう呟くも、アナウンスが流れることはない。


「グルゥ……」


 セトもまた残念そうな声で鳴く。

 その様子を見ながら、レイは内心で考えを纏めていく。


(ランクCのオークジェネラルでスキルを覚えなかった。その割には希少種とは言ってもゴブリンの魔石でスキルを習得している。スキルの習得には魔石を持っていたモンスターのランクや強さは関係無いのか? となると、スキルを覚える条件は何だ? 相性とかか? まぁ、結局スキルを覚えるには魔石を吸収するしかない以上は倒したモンスターの魔石を与えるしかないんだが……まさか、ランクCモンスターのオークジェネラルの魔石でスキルを覚えられないとは思わなかったな。……いや、待て。そうなると、もしかしてデスサイズの方もオークジェネラルの魔石でスキル習得は出来ないのか?)


 嫌な予感を覚えつつも、オークジェネラルの魔石を宙へと放ってデスサイズで一閃する。

 他の魔石の時と同様に2つに別れて消えていく魔石。

 そしてアナウンスは……無い。


(なるほど。今の所はセトがスキルを覚えられない魔石だとデスサイズも無理ということになるのか。まぁ、セトもデスサイズも両方ともが俺の魔力を基にした魔獣術で作られて……いや、創られているんだからその辺は共通していると言われれば納得するしかないんだが)


 やってしまったものはしょうがないと、深く溜息を吐いて気持ちを切り替える。


「オークジェネラルの魔石でスキルを習得出来なかったのは残念だが……取りあえず、ラスト。オークキングの魔石だ」


 ミスティリングから取り出したのは、今まで見てきた魔石の中でも最も大きかったウォーターベアの魔石よりさらに一回り程大きい魔石だ。

 地属性である黄色の魔石を手にし、デスサイズとセトを見比べることしばし。やがて小さく頷くとセトへと声を掛ける。


「セト、オークキングの魔石はお前が吸収しろ」

「グルゥ?」


 いいの? とでも言うように小首を傾げて喉を鳴らすセト。

 レイはその様に笑みを浮かべながら頷く。


「ああ。デスサイズには腐食も飛斬もマジックシールドもある。弱点だった魔法攻撃以外の遠距離攻撃も手に入れた以上はオークキングの魔石はお前が吸収した方がいい。ほら」


 ひょい、とばかりに放り投げたオークキングの魔石をこれまで同様クチバシで咥えて飲み込むセト。


(さすがにオークキングの魔石ならスキル習得出来ないとかは無いと思うんだが……)


 あるいはレイのその内心の祈りが通じたのだろう、脳裏にアナウンスメッセージが流れ込む。


【セトは『王の威圧 Lv.1』のスキルを習得した】


 セトがスキルを習得したという事実に、ほっと安堵の息を吐くレイ。

 だが、すぐに首を傾げることになる。


「セト、王の威圧ってどういうスキルだ?」

「グルゥ!」


 そう。スキル名で大体の効果が分かったこれまでと違い、王の威圧というスキル名では効果が予想出来なかったのだ。セト自身はそのスキルを理解しているようなのだが、あいにくとセトは人の言葉を理解は出来るが話すことが出来ない為に上手く説明出来ない。


「グルルゥ」


 論より証拠とばかりにセトは自分の背へとレイ乗せ、そのまま上空へと駈け上がって行き地上で飛び回っている角ウサギの群れを発見してその前へと降り立つ。


「ピィッ!」


 自分達の前へと突然現れたグリフォンに驚き、そのまま一目散に散って逃げようとするが……


「グルルルルゥッ!」


 セトが高く鳴き、その瞬間角ウサギの速度が若干落ちる。そしてその隙をセトが逃す筈もなく、クチバシと鋭い爪で次々に屠るのだった。


「……なるほど」


 己が倒した角ウサギを食らっているセトを見てレイが呟く。

 今セトがやったことでようやく王の威圧の効果が分かってきたのだ。威圧という名の通りに敵の行動を阻害するのだろう。その効果がどれ程のランクの魔物にまで効果があるのかというのはきちんと調べなければいけないだろうが、有用なスキルであるというのは間違い無い。


「さすがオークキングの魔石だな。出来ればデスサイズの分も欲しかったが……それはまたの機会があれば、か」


 スキルの習得と検証を終えたレイは、角ウサギを食い終わったセトと共にギルムの街へと戻るのだった。

【セト】

『水球 Lv.1』『ファイアブレス Lv.2』new『ウィンドアロー Lv.1』new『王の威圧 Lv.1』new


【デスサイズ】

『腐食 Lv.1』『飛斬 Lv.1』new『マジックシールド Lv.1』new


ウィンドアロー:3~5本の風の矢を射出する。威力自体はそれ程高くはないが、風で作られた矢なので敵が視認しにくいという効果や、矢の飛ぶ速度が速いという特徴がある。


飛斬:斬撃を飛ばすスキル。威力はそれなりに高いのだが、飛ばせる斬撃は1つのみとなっている。


マジックシールド:光の盾を作りだし、敵の攻撃を1度だけ防ぐ。敵の攻撃を防いだ後は霞のように消え去る。また、光の盾は通常はオートでレイの邪魔にならないように動いているが、意識すれば自分で好きなように動かすことも可能。


王の威圧:自分より弱い敵に対して、速度を1割程低下させることが可能。ただし、自分と同等以上の相手には効果は無い。

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