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95:王都ミナカタ-16

「っつ……見事にやられたか。」

 俺は倦怠感と痛みによって非常にだるい体を無理やり動かして起き上がると死に戻りポイントから離れて神殿前の広場で一時休憩する。


「にしても前は死に戻りしてもここまでだるくなかったよな。」

 自分の四肢の感覚を確かめながら俺は以前に死に戻りした時の感覚と明らかに痛みや倦怠感が強くなっている今の感覚の差を感じ取る。


「現実に近づく……か。電子の女帝は一体何を考えているんだろうな。」

 人は思い込みによって時に現実を捻じ曲げる事もある。それこそ火事場の馬鹿力やプラシーボ効果などがいい例だ。

 そして仮の話だが、痛みなどが100%再現された時に首や心臓などの急所や四肢に甚大な損傷を負うレベルのダメージを負ったなら……いや、考えても対応できないし無駄か。


「とりあえずデスペナ解除まで色々やっておくか。」

 俺は倦怠感を無理やり無視しつつ行動を始めた。



--------------



「おっ、ヤタであるか。」

「おいっす。」

 俺は協会でビッグクロウとストーンアームの素材からいらない物を売るとプレイヤー街にあるガントレットのオッサンとアーマさんの店を訪れていた。

 プレイヤー街と言うのは最近≪建物職人≫のレベルが上がり、一時的な建物ではなく恒久的な建物を建てられるようになったために最近王都に出来たエリアである。

 そこでは土地を購入(クソ高い)した上で≪建物職人≫が作成した図面というアイテムを使用することによってオリジナルの建物を建てることが出来る。

 もちろん、これらの建物はプレイヤーが普通に暮らす事にも用いることが出来るが、職人が自分のアイテムを売るための店舗として使ったり、各種設備を仕込むことによって自らにとって最高の工房とすることも出来る。

 なお、土地代として一定期間ごとにお金か素材を納める必要が有ったりもするが、これもそれ相応に高かったりする。まあ、ガントレットのオッサンたちならその辺は何とかしてるだろ。


「今日は何の用であるか?」

「防具の修理とちょっと話を聞こうと思ってな。」

 さて、今回の本題であるが岩巨人の攻撃で傷ついた防具の修復と、とある話を聞く事である。

 ちなみにガントレットのオッサンの店は内装がよくファンタジーな世界である防具屋と言ったところであり、相談や待機の為にイスやテーブルも用意されている。

 なお、店名は『イッシキ』である。


「話であるか?」

 ガントレットのオッサンが俺から防具を受け取りながらそう言う。


「ああ、ガントレットなら職人系スキルのレベル何てとっくに10を超えてるだろ。職人街のイベントはどうしたんだ?」

「……!?」

 俺の言葉にガントレットのオッサンが明らかに固まる。


「あ、あのイベントであるか……。」

 ガントレットのオッサンは思い出すのも嫌と言った表情を見せる。


「どうだった?」

「あのイベントは見事にしてやられたである。奉納アイテムを必死の思いで作り上げ、大量の盗人烏を退け、やっとの思いで奉納したと思ったらまさかの強制ボス戦であったである。おまけに明らかにウルグルプなどよりも強いボスで、瞬殺されたのである。」

 ああうん。やっぱりガントレットのオッサンも岩巨人にやられていたか。

 というか、アレを初見でどうにかするのは厳しいよな。


「あー、実を言うと俺もついさっきソイツにやられたんだわ。」

「!?」

 ガントレットのオッサンが今度は驚いた表情を見せる。


「≪大声≫も≪嗅覚識別≫も効かなくて完敗だった。で、ガントレットのオッサンなら職人同士のネットワークでアイツへの対抗策を知らないかと思って話を聞きに来たんだ。」

「なるほど。そうであるか。」

 ガントレットのオッサンは少し考え込む。


「まず、職人街のイベントそのものは奉納を完了した時点で達成してあるから問題ないである。だから、奉納したアイテムの店に行って追加料金を払えば上位の機材を使わせてもらえるはずである。」

「なるほど。」

 俺の場合は≪メイス職人≫だから≪メイス職人≫の店でもっと質の良いハンマーや炉を使わせてもらえるわけか。


「で、肝心のボスの方であるが、あちらに関しては撃破に関する情報はほぼ無しである。」

「理由は?」

「丘陵地帯のイベントを終わらせた直後の生産職が限界まで徒党を組んだところで勝てるような相手だと思うであるか?罠や使い捨てのアイテムを使いまくることを前提にしても『轟炎砲』並の火力と『浮沈艦』並の囮が一人ずつは必要である。」

 その言葉に俺は納得せざる得ない。

 というか『浮沈艦』って誰だ?『轟炎砲』は確かハレーの事だと思ったけど。


「だから、今では攻略組が一度倒してから改めて挑むためにインスタントポータルの設定だけしてある生産職が殆どである。」

「なるほどなぁ……。」

 俺はその言葉に天を仰ぐ。

 情報なしと言うのは中々に辛い物があるな。


「でも、全く情報が無い訳じゃないわよ。」

「アーマさん。」

「交代であるか。」

「ええ。」

 ここで店の奥から出て来たアーマさんが俺に声をかけてくる。と、同時にガントレットのオッサンが店の奥に引っ込む。

 恐らく二人の職人系スキルの差から交代で作業を進める様にしているのだろう。


「それで情報と言うのは?」

「その前に情報料……と言いたいけどそれはあのボスを倒した後にでも私たちの元に素材を一個持って来てくれればいいわ。」

 一瞬情報料と言う言葉にビビるが、すぐに問題ない形の物を提示してもらえて俺はホッとする。


「で、情報っていうのはアレの体に対してピッケルを使うと貴重な鉱石を回収できるという事と、その行為に対してアレは異様なまでに怒りを覚えると言う点よ。」

「?」

 疑問符を浮かべる俺に対してアーマさんが詳しい経緯を説明してくれる。

 何でも岩巨人に挑んでいた生産職の中に『アレの身体って岩なんだよな。ならピッケルで掘れるんじゃね!』という発想をしたプレイヤーがいるそうで、実際にピッケルで岩巨人の体を掘ってみたらしい。

 すると実際に岩巨人の身体からそれまで手に入れた事の無い鉱石が手に入ったのだが、その直後に岩巨人は凄まじい勢いで暴れだして、自らの体を掘ったプレイヤーを最優先対象にして暴れだしたそうだ。


「おかしいとは思わない?あれだけの強さを持つボスなのにピッケル一回を使っただけで怒るなんて。私はね、そこにアレを攻略する糸口があるんじゃないかと思っているのよ。とあるお話の中には岩の巨人は文字一つ削れただけで機能を停止する。なんて話もあるぐらいだしね。」

「なるほど。」

 ただなぁ……あの攻撃を掻い潜って急所にピッケルを突き立てる……うーん。やれないことは無いだろうけど俺には厳しいかも。ミカヅキやピッケルの扱いに慣れている生産職なら簡単に出来るかもしれんが。


「まあ、仮にこの考えが正解でもそれは生産をメインに進めてきたプレイヤーへの救済策だろうし。ヤタ君は普通に戦うことをオススメするわ。」

「あっ、はい。貴重なお話ありがとうございました。」

「いえいえ、」

 そして奥から修理された俺の防具を持ったガントレットのオッサンが現れ、俺は二人に礼を言ってから防具を装備して二人の店『イッシキ』を後にした。

ゴーレムの元ネタは敢えてぼかしてます。

プレイヤー全員が全員、元ネタを知っているわけではありませんからね。


10/20 誤字修正

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