94:VS岩巨人-1
今回は珍しく俺の視点以外からイベントスタートらしい。
というのも俺の視界に周囲を岩で囲まれた広間に入ってくる全身ウルグルプ装備の男……つまりは俺が見えているからだ。
と、ここで俺自身の視点に戻り、俺の体は勝手に周囲を見渡す。
だが、そこには先程俺を捉えていた何者かは映っていない。
さて、どういう事かと俺が疑問に思っていると、突然地鳴りが起き、続けて天井の方からいくつも小さな石の破片がパラパラと落ちてくる。
そして一度地面が大きく揺れた所で正面の壁に今までとは大きく違う変化としてヒビが入る。
ピシッピシピシ……
ヒビは徐々にしかし明確に一つの存在を縁取るかのように大きくなっていく。
「ゴガアアァァァ!!」
そしてヒビが明らかにしゃがんだ人の形を取った次の瞬間に壁が砕け散り、そこから大量の破片を地面に落としつつ全身が岩で作られた身長3m程の巨人がその姿を現して咆哮と共に立ち上がる。
「ゴグアアアァッァァ!」
「ヤバッ!」
と、イベントが終了して身体が動かせるようになったところで仮称岩巨人が右手を前に出して突っ込んでくる。
俺は慌てて≪四足機動≫を使って岩巨人の足元に潜りこみ、岩巨人の右足にマンティメイスを当てながら岩巨人の後ろに回り込もうとする。
「硬っ!?」
が、岩巨人の身体はこちらの想像以上に硬く、マンティメイスはその尖った部分を岩巨人の体に食い込ませることなく弾かれる。
「ゴガ!」
「なっ!?」
と、岩巨人の後ろに回り込んだ俺の体に大きな衝撃が走る。
衝撃に意識を持っていかれない様に気を付けつつ、岩巨人の方を見るとありえない事に岩巨人の下半身は微動だにしておらず、上半身だけが半回転して俺に向かって左ストレートのパンチを放った光景が見えた。
「ぐっ、がっ、くそ【獣人化:ウルグルプ】!」
俺は地面を転がりつつも体勢を整えて【獣人化:ウルグルプ】を発動する。
岩巨人は俺に追撃をするためなのか上半身だけでなく下半身もこちらに向ける。
「『アオオオオ……ガアッ!?」
そして変身が完了して遠吠えをしようとした瞬間。岩巨人は俺の遠吠えなぞ効かんと言わんばかりに所謂ヤクザキックを俺に繰り出し、遠吠えによって動きが止められると思っていた俺はその蹴りを真正面から喰らってしまう。
岩巨人の放った蹴りの衝撃に俺の呼吸が詰まり、俺は岩で出来た壁に叩きつけられる。見ればHPゲージは既に半分近くまで減っている。
「ガッ……くそっ……」
ここに至るまでに俺は既に自らのスキル構成と岩巨人との相性の悪さについて既に認識していた。
≪大声≫は岩巨人に聴覚が存在していないためなのか衝撃波クラスになればどうかは分からないが、ただの≪大声≫では効果無し。
加えて、低レベル時の≪嗅覚識別≫がストーンアームの匂いを嗅ぎ取れなかったように岩巨人の匂いの薄さに対して俺の≪嗅覚識別≫のレベルが追い付いていないためなのか≪嗅覚識別≫による動きの事前察知も出来ていない。と同時に≪嗅覚識別≫が効かないなら≪嗅覚強化≫も意味を成していないことになる。
それと、これだけの体格差が有って取り巻きがいないのでは≪掴み≫も当てにはできないだろう。
つまりこの時点で俺の所有するスキルの内4つはその効力を失っていると言える。
「せめてもの救いはメイスを始めとして打撃属性が硬い相手に一般的に有効とされているって事か。」
ただメイスを含めたハンマーやフレイル、楽器と言った打撃武器は岩巨人の様に堅くて刃が通らないような相手にも比較的ダメージを通しやすいという特性を持っている点があるため、メイスによる攻撃を中心に据えれば一応ダメージを通せることになる。
加えて岩巨人の様に物理防御力が高いモンスターは属性防御力が低い傾向にあるので、【サンダースイング】やハレー謹製の属性投げ矢なども有効な攻撃手段となるだろう。
「つまり諦めるにはまだ早いってことだ。【獣人化:ウルグルプ】解除。」
俺は立ち上がると今回に限っては有効とは言えない【獣人化:ウルグルプ】を満腹度維持の為に解除する。
「ゴガアッ!!」
岩巨人が右ストレートを放つ。
俺はそれを≪四足機動≫の事前体勢としてしゃがむことによって回避。
「【サンダースイング】!」
そこからメイスを振り上げる様な形で【サンダースイング】を発動して岩巨人の右腕に雷を纏ったメイスを叩き込む。
「ゴッ!?」
その衝撃で少しだけ体勢が崩れた岩巨人の体……人間で言う胸の部分に向かって俺は属性のついた投げ矢を投げつける。
当然、岩巨人の硬い体に矢は刺さらない。が、投げ矢が岩巨人の体に衝突した瞬間、投げ矢に込められた属性が解放されて岩巨人にその分でダメージを与える。
「ラッシュかけてやらぁ!」
俺は岩巨人に接近して効果が低いのは分かっているが≪噛みつき≫での攻撃も交えつつ一気に猛攻を仕掛ける。
俺の攻撃に岩巨人の体を構成する岩が少しずつ削れていく。
「ゴッ。」
「んな!?ちょっと待て!!?」
だが、ここで岩巨人は再び俺の予想外の動き……俺の予想以上のスピードで後退して距離を取ると地面に両手を付けてクラウチングスタートの体勢を取る。
「ゴガアッ!」
「……!!?」
次の瞬間空中に居て身動きが取れなかった俺に向かって勢いよくタックルを繰り出し、そのまま俺を先端にして壁に激突する。
「畜生……。」
そして岩巨人の身体が離れたところで、俺のHPは尽き、全身が光に包まれて王都の神殿へと戻された。
とにかく岩巨人と【獣人化:ウルグルプ】は相性が悪いです。