91:技巧神の神殿-7
さて、オオゴンズワムの剥ぎ取りを終えたところでイベントが始まる。
インスタントエリア一帯に散らばったオオゴンズワムたちの身体が黒い闇へと変化してゆっくりと宙に浮かび上がっていく。
そして、突如として魔除けの灯から光が一閃され、オオゴンズワムが変化し、部屋中に漂っていた闇たちはさらに細かい闇へと変化して消え去っていく。
オオゴンズワムたちを消し去った魔除けの灯から再び一条の光が放たれ、それは俺の左手に当たる。
光は俺の左手で一度光球の形で蓄えられ、魔除けの灯からの光が途切れたところで光球が少しずつ俺の中に吸収されていく。
やがて、完全に光が吸収されると一度左手が暖かくなった気がするが、それもすぐに収まり、何事も無かったかのようにイベントは終了して俺たちの身体が動かせるようになると同時にインスタントエリアの中心に帰還用のゲートである光の輪が形成される。
「で、ミカヅキ的にはここからが問題なわけか。」
「全く持ってそうですね。」
俺の言葉にミカヅキはため息を吐く。
で、他の三人は分かっているのか分かっていないのか微妙な所の表情だ。
うん。どうせだし他の三人にも説明しておくか。
「いやな。このゲートをくぐった先でもイベントがあるんだが、そのイベントの発生場所が狩猟神の神殿と同じなら技巧神の神殿の神殿前の広場のど真ん中に飛ばされてイベント進行なんだよ。しかも、インスタントエリアとか気の利いた物は無いから周囲から丸見え。」
「あらぁ~」
「うわぁ……」
「それは面倒だニャ~」
俺の言葉に三人三様の表情を浮かべる。
「とりあえずヤタは獣人化しておいてくれませんか?それなら周りの目も誤魔化せますし。」
「無茶言うな。戦闘フィールド外で使える祝福じゃないしBPも足りないから。」
ミカヅキの提案には素直に無理だと返しておく。
というか、仮にできても【獣人化:ウルグルプ】の満腹度減少スピードを考えるとイベント中に餓死しかねん。
「まっ、素直に腹くくっとけ。」
「はぁ……。」
そして俺たちはゲートの中に入った。
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「ありがとうございます。御使い様。」
さて、再びのイベント開始。場所は予想通りに技巧神の神殿、神殿前広場に居る司祭の前である。
周囲のプレイヤーは……何となくだが人数の少なさと面子に驚いている気がする。
フェルミオのネコ耳スク水双大剣とかアステロイドの全身鎧のはずなのにピンク色オーラ全開とかは特に目立つからなぁ。
まあ、ミカヅキが目立たなくていいか。
「これで御使い様に宿られた魔除けの種火は二つ目。」
たぶんだけどこの台詞は聞くプレイヤーの進行状況によって聞こえる内容が変わるんだろうな。でないと話の流れの整合性が取れないだろうし。
「御使い様が集められるべき種火はあと一つ。それを授ける魔除けの灯の欠片は北の山を抜けた先にあります職人神の神殿に持ち去られたと聞いております。」
ああやっぱり北の山を抜けた先に神殿があるのか。となるとイベントが終わった後にでもアステロイドから気になった場所が無いかとか聞いてみるか。
「そして3つの種火が集まった時こそが魔除けの灯の復活する時であり、闇の灯に囚われた彼女を救い出す時でもあります。」
闇の灯……新しい単語が出て来たな。もしかしなくても灯台もダンジョンみたいな感じなのか?
「では御使い様。私は御使い様の活躍とご無事をいつでもここで祈っています。そしてどうか後一つの灯を取り戻し、彼女を……この世界を救ってくださいませ。」
そして司祭が頭を下げた所でイベントは終了する。
うん。男に頭を下げられても全然やる気にならない。巫女さんの方が断然よかったね。
と、ミカヅキたちもイベントが終わったのか身体を動かし始める。
「で、お前ら今後はどうするよ?このままPTを組み続けるのかそれともまたソロに戻るのか?」
とりあえず開口一番でこれを聞いておく。
「私は地底湖の底まで探れるようになるまで別の所に行く気は無いニャ。」
ふむ。フェルミオはこのまま海底洞窟か。
「私は狩猟神の神殿ですかねぇ。あちらではプロレス技をかけてくれる熊がいるそうですからぁ。」
アステロイドは攻略を進める。とりあえず恍惚としたその表情は止めなさい!勘違いする人が出るでしょうが!
「僕も姉さんに付いていくつもりです。あちらも今なら攻略の最前線で稼ぎ所ですし、状態異常付与の矢玉が作れそうなモンスターが多そうですからね。」
ハレーはアステロイドに付いていくつもりらしい。
まあ、生産職ならあそこは色々と魅力的だよな。
「じゃあ、私もひとまずベノムッドを倒すところまでは同行しますね。皆さんの協力のおかげで予定よりもだいぶ早く技巧神の神殿が攻略できましたから恩返しがしたいです。」
へー、ミカヅキもハレーたちに同行するのか。
「俺は職人神の神殿攻略。て、ことはハレーはハーレム状態か。」
と、俺が思ったことをそのまま言ったら周囲の空気が一瞬凍りつき、すぐさま俺以外の四人が一か所に集まってヒソヒソ話を始める。
「あ……本気……」
「いく……もぉ……」
「さ……は『エロ犬』……ニャ。」
「とり……ず、さら……しょ……」
あるぇ~?俺そんなに変な事言ったか?
というか気のせいか周りのプレイヤーも一部で似たような感じでヒソヒソ話してないか?
「ヤタ。」
「何だ?」
と、ここでヒソヒソ話は終了し、ミカヅキがこちらを向く。何となくだが怖い。
「とりあえず今日の晩御飯は素寒貧になるまで奢ってもらいますから。」
「えっ……」
「断ったら分かりますよね。」
そしてミカヅキの笑顔と共に提案される無茶な要求と決闘の申請画面ついでに首筋に置かれた戈の鋭い切っ先。というかいつの間にか俺だけPTから外されてるし。
「分 か り ま す よ ね。」
「イエスマーム。」
で、俺は結局ミカヅキの凶器と化した笑顔に押し切られてその要求をのまざる得なかった。
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「え、マジで。」
「大マジです。あっ、生一本につまみ追加で。」
「むしろ何で気づかないニャ。ステーキよろしくニャー。」
「流石に失礼よねぇ。私にはお寿司。わさび多めで。」
「僕そんなに女の子っぽくないですか……そうですか……とりあえずジャンボパフェお願いします。」
「ちょ、まっ!?追加の奴全部高い物じゃねえか!」
で、王都に戻って料理街のファミレス風のお店に来たところで衝撃のカミングアウトを喰らった。
何とハレーは、
女の子でした!
うん。全く気が付かなかったよ。うん。
匂いに男女差って有ったかなーどうだったかなー
とりあえず俺の迂闊な発言のせいで職人銀貨一枚は飛んでいきそうです……。
「はあ、俺の銀貨ちゃん……。まあいいや、過ぎた事は気にしてもしょうがないや……。」
そして夜は過ぎ、宴は流れていく。
さて、明日からはどうしようか……。
これにて『3章:星々と権瑞蛇』終了となります。
もちろん明日からは新章です。