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90:VS権瑞蛇-1

 海底洞窟のボス戦用のインスタントエリアは床も壁も天井も水で作られた不思議な立方体の空間だった。

 俺たちが入ってきた場所と正反対の場所には魔除けの灯の欠片と思しき火が煌々と燃え盛っている。


 と、ここで床下の水中を何か黒い影が通り過ぎる。


 俺がそれの正体を見極めようとする前に続けて天井にも同じような影が現れ、俺の視界に影を一瞬だけ落とすとすぐに俺の視界外へと消え去る。


 そして、影の主が正面の壁から境界を越えて大量の水音と共にその姿を現す。


「キュルルルゥゥゥ」

 その影に手足は無くまるで蛇のようだった。

 しかし、その蛇にはエラがあり、頭と背中からは鋭い針の様なヒレが生え、水中に居る間は黒かったはずの体表は水中から出ると同時に黄金色に輝いていた。


 だが、それよりもなによりも驚いたのはその蛇は一匹だけでなく、数百匹以上の蛇が集合して一匹の巨大な蛇の様な姿を象っていた事だった。


 この蛇の名はオオゴンズワム。通称は権瑞蛇。

 全にして個であり、個にして全のボス。一匹一匹のHPは少ないが、勝利するためには全てのオオゴンズワムのHPを削りきる必要があると言うボスだ。


「キュラアアアァァァ!!」

 そしてオオゴンズワムが身を竦ませるような大声を上げた所で戦闘が始まる。


「キュラアァ!!」

 オオゴンズワムが一体の蛇を象ったまま俺たちの方に突っ込んでくる。


「ヤタ!」

「分かってる!」

「【カバーリング】!」

 それと同時にミカヅキは姿を消し、俺は≪四足機動≫で素早くオオゴンズワムの横を捉えられる位置に移動し、アステロイドは【カバーリング】を発動。

 アステロイドが【カバーリング】を発動することによってアステロイドの周囲に白い境界線の様なものが引かれ、その中にハレーとフェルミオは素早く入り込む。


「くふぅ……」

 そして二人が境界線の中に入り込むと同時にオオゴンズワムが境界線に激突。オオゴンズワムはアステロイドとハレー、フェルミオの三人に体当たりをしつつ水中へと移動していく。

 が、アステロイドの張った【カバーリング】によってハレーとフェルミオの二人が受けるはずだった攻撃はアステロイドが代わりに受けることになり、三人分のダメージではあったが防御特化であるアステロイドはオオゴンズワムの攻撃を耐え切る。


「追うニャ!」

 フェルミオがオオゴンズワムを追って壁へと飛び込み、水中で抜刀。尾の先端に位置しているオオゴンズワムに対して攻撃を仕掛け始める。

 どうやらこのインスタントエリアの境界は水の壁だけでなく、その先にもう一つの境界が存在しているらしい。


「キュラアアァァァ!!」

 フェルミオに追われたオオゴンズワムが天井部分から部屋の中に突入してくる。どうやら一度攻撃してヘイトが下がったアステロイドや≪隠密≫の効果でヘイトが上がりづらいミカヅキではなくオオゴンズワムの狙いは俺らしい。


「紋章付き火炎弾装填。≪固定砲台≫チャージ完了。【ファイアショット】!」

 が、オオゴンズワムが天井から飛び出したところでハレーの【ファイアショット】が着弾し、多くのオオゴンズワムを巻き込むように爆発が起きて周囲にオオゴンズワムが飛び散る。

 しかし、それでもオオゴンズワムは俺に向かって突っ込んでくる。


「【ハウリング】【獣人化:ウルグルプ】『ワオオオオォォォォン』!!」

 だが、衝突する直前に俺はこの前の決闘でも使用した祝福のコンボで周囲に衝撃波を撒き散らしながら獣人化して俺に向かって突撃を仕掛けていたオオゴンズワムを吹き飛ばす。


「【ファーストアサシネイト】【スイングサークル】」

 加えて、そこにミカヅキが【ファーストアサシネイト】を発動させた状態でオオゴンズワムが集まっている場所に突っ込み【スイングサークル】によって弾き飛ばされた大量のオオゴンズワムに致命傷を与えていく。


「「「キュラララァ!!」」」

「げっ!」

「やっぱり来ましたか。」

「回復完了~」

「姉さん。防御は頼みました。」

「ここからが本番にニャ。」

 が、ここで残っていたオオゴンズワムが再び集合して先程よりも少々小さくなった状態で三体の蛇になる。


「「「キュキュラア!」」」

「【ウルフファング】!」

「【カバーリング】!」

「くっ!」

「ニャ!」

 三体のオオゴンズワムがヒレを鋭くさせた状態で別々の方向に飛び出す。

 それを俺はギリギリで躱して【ウルフファング】で迎撃、アステロイドはハレーを【カバーリング】でかばい、ミカヅキは横に跳んで避け、フェルミオは床を切り裂いて水中に潜り回避する。


「ぐっ!?」

 俺はオオゴンズワムに噛みつく。が、噛み付いた瞬間オオゴンズワムの針の様に鋭く尖ったヒレが俺の体に突き刺さってお互いにダメージを与えあう結果になる。


「くそっ!直接接触系の攻撃は止めとけ!迂闊にやると反撃ダメージを喰らうぞ!」

 俺はすぐさま自分の経験を他のメンバーに伝える。が、


「直接接触する攻撃を持つのはヤタだけです!」

「私はゼロ距離攻撃できないニャ。」

「それは良い事を聞きましたねぇ~」

「姉さん真面目にやってください!」

 返ってきたのは総ツッコミだった。うん。泣きたい。よくよく考えたら確かにそうだけどさ。


「「「キュラァ!」」」

「のわぁ!?」

「キャ!」「ハレちゃん!?」

 と、俺に対するツッコミがされている間にもオオゴンズワムは動き続け、ヒレを外側に出す形でオオゴンズワムは球体を形成し、部屋中を跳ね回ってくる。

 俺はそれを紙一重で避けるが、アステロイドの【カバーリング】が切れていたためにハレーが被弾する。

 ん?てか『キャ!』?いやまさかねぇ。うんうん。


「よくも!!」

「ぐっ……毒消し。」

 と、アステロイドはハレーが攻撃を受けた事に激昂して斧を大きく振りかぶって数匹のオオゴンズワムを叩き潰して球形状態を解除し、ハレーはオオゴンズワムから受けた毒を治すために急いで毒消しを飲む。


「ハッ!」

「【スクリュースラッシュ】!」

「キュキュラァ!?」

 ミカヅキが玉の一つを避けた所で戈を突き刺してオオゴンズワムを散らすことによって動きを止めると、そこに床下からフェルミオが飛び出して【スクリュースラッシュ】によって範囲内のオオゴンズワムに止めを刺していく。


「【サンダースイング】」

 俺も再び迫ってきたオオゴンズワムに対して【サンダースイング】を当てることによって数体倒しつつ球形状態を解除させる。

 どうやら事前情報通りオオゴンズワムは雷属性が弱点のようだ。

 そしてオオゴンズワムが散らばると同時に減ってきた満腹度を回復するために狩猟蜂の蜂蜜酒を飲み干しておく。


「キュキュルゥ」

 と、ここで生き残ったオオゴンズワムが集合し、再び一体の蛇を象り、何か大技を出そうとしているのか構えを取る。

 だが、その大きさは既に戦闘開始時の6割ほどである。


「ハレー!」

 俺はオオゴンズワムが集合したことを好機と見てハレーに呼びかける。


「分かってます!【ファイアゾーン】【ファイアショット】!」

 ハレーは【ファイアゾーン】によって火属性の威力を高めた上で【ファイアショット】を起動。

 着弾して発生した炎はオオゴンズワムの全身を包み込むように撒き散らされる。

 が、僅かに生き残った個体が居るためか戦闘は終わらず、だいぶ小さくなったオオゴンズワムの集合体はその口から青いブレスがハレーに向かって放たれる。


「今度は当てさせません。【エレメントライズ】【カバーリング】!」

 だが、当たればマンティドレイクの居合切り同様にほぼ確死であろうブレスの軌道上にアステロイドが割り込み、【エレメントライズ】によって属性耐性を高めた上で【カバーリング】を発動してハレーへとダメージが通るのを防ぐ。


「大丈夫かアステロイド!」

「問題ありません!」

 そしてアステロイド自身も傷だらけではあるがギリギリでオオゴンズワムのブレスを耐え切り、すぐさま回復アイテムを使用して減ったHPを回復させようとする。


「キュラァ!!」

 が、オオゴンズワムにはアステロイドに回復をさせるつもりは無いらしく、アステロイドに向かって一気に突っ込んでくる。


「【ハウリング】『させるかよ』!!」

「【スイングサークル】!」

「【ダンスオブソード】!」

「キュキュラァ!?」

 しかし、アステロイドにオオゴンズワムの攻撃が当たる前に俺が≪四足機動≫で間に割り込み、【ハウリング】によって強化した≪大声≫によってオオゴンズワムを散らし、そこにミカヅキが【スイングサークル】を、フェルミオは【ダンスオブソード】を発動して一気に周囲に散らばったオオゴンズワムを殲滅しにかかる。


「キュラアァ!!」

 残った数匹のオオゴンズワムたちが俺たちに反撃するために集合しようとする。


「逃がしません。」

「ニャハハハハハ!」

「終わりにします。」

 だが、それを見逃す俺たちではなく近くに居たオオゴンズワムは一撃の威力に優れるフェルミオとアステロイドが切り裂き、空中へと逃げた個体はハレーが撃ち抜いていく。


「これで……」「トドメだ!」

 そして、三人の攻撃が間に合わずに集合されたオオゴンズワムの元に機動力に優れた俺とミカヅキが到達。

 前後から同時に攻撃を当てることによって残ったオオゴンズワムを叩き潰す。


「……。」

 一瞬の静寂。俺は周囲にオオゴンズワムが残っていないかを臭いで確かめ、そんな俺を他の四人は見つめている。

 そして俺が周囲に敵がいないのを確認して頷くと同時に、


「「「「勝ったあああぁぁぁ!!」」」」

 俺達5人は同時に武器を掲げて自分たちの勝利を祝った。



△△△△△

取得アイテム(ヤタ)

オオゴンズワムの鱗×3

オオゴンズワムの棘×1

オオゴンズワムの黒鱗×1

オオゴンズワムのヒレ×1

▽▽▽▽▽


△△△△△90話時点

Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.17 ≪メイス職人≫Lv.13 ≪握力強化≫Lv.13 ≪掴み≫Lv.14 ≪筋力強化≫Lv.13 ≪嗅覚識別≫Lv.12 ≪嗅覚強化≫Lv.11 ≪方向感覚≫Lv.12 ≪四足機動≫Lv.11 ≪投擲≫Lv.13 ≪噛みつき≫Lv.15 ≪大声≫Lv.15


控え:≪鉄の胃袋≫Lv.11 ≪酒職人≫Lv.13 ≪器用強化≫Lv.6

▽▽▽▽▽

簡単なオオゴンズワム討伐法:雷属性の範囲攻撃を連打しろ。

これで血赤以外は何とかなります。


なお、ソロだとクールタイムが全方位から攻撃されるフルボッコタイムに早変わりします。


09/30少し改稿

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