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9:始まりの村-4

「まさか水が必要だとは。」

 さて、≪酒職人≫でお酒を造ろうとした俺だったが、アイテムが微妙に足りていなかったので村の中にある井戸にやって来ている。

 何が足りなかったかって?水だよ!

 まあ、正確に言えば液体状の物体と画面には表示されていたけどな。

 ただ考えてみればいいお酒にはいい水が必要だって言うしな。もしかしたら世界には水が必要のないお酒もあるのかもしれないが、ゲームなのだし細かいところは気にしないでおこう。


 で、村の中には複数の井戸があるのだが、その中でも俺は神殿の裏手、ユフと話した場所の近くにあった井戸の水を汲むことにした。

 理由は神殿の水なら綺麗そうだから。後、ここに井戸がある事に気づいている人が少なそうだったから。


「にしても結構重いな。」

 さて、肝心の井戸だが釣瓶と桶で引き上げるタイプだった。

 こんなところにも≪筋力強化≫が生きてくるのかは分からないが、これをプレイヤーの素の筋力で引き上げるのはそれなりに大変な気がする。


「これで井戸水×1か。」

 そして、一度引き上げた所でアイテムポーチの中に自動的に収納される。

 それにしてもこうしてわざわざ井戸水だなんて表記するあたりに水にもランクがある事がヒシヒシと伝わってくるな。

 想像だが、山奥にでも行って専用の道具を使わないと採取できない様な水とかその内出てくるのかもしれない。建物まで作れるHASOならそれぐらいはしていそうだ。


「まっ、とりあえず重量15分ぐらいの井戸水を汲んでから戻るか。」



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「さて仕切り直しだな。」

 俺は改めて樽と櫂を取り出して、井戸水と雑草を一個ずつ選択する。

 するとどうやら酒造りは手作りの場合では一定タイミング毎に樽の中の水に向かって正しい角度・スピードで櫂を入れ、正しいスピードと軌道で櫂を動かせばいいらしい。


「あっ!」

 が、中々にこれが難しい。櫂を動かす筋力は十分にあるらしく、スピードを早くするのは問題ない。だが、角度や軌道、それに逆にスピードを抑えるのが難しい。

 そのため早速一本目を失敗してこんなものが出来てしまった。


△△△△△

失敗酒 レア度:0 重量:1


作るのに失敗したお酒。呑んでもいいがただ不味いだけで毒にも薬にもならない。アルコールすら感じられない。

▽▽▽▽▽


 これはひどい。

 いやまあ、最初から成功するだなんて思っていないけどさ。

 というか、事前情報とこうやって実際にやっている感覚を合わせて考えると強化系のスキルはむしろ生産活動をする際にこそ必要な気がしてくる。

 ≪筋力強化≫で櫂が動かしやすくなるっぽいのと同様に≪器用強化≫辺りでも取ればタイミングとかの判定がもう少し緩くなる気もするし。


 まあ、その辺りの考察はその内やるとしよう。

 今は材料も実力も無いし、レベル上げ優先だ。


 と言うわけで、俺はその後も雑草と井戸水を使ってお酒(の様な物)を生産していく。

 櫂入れのタイミングや動かし方は毎回微妙に異なるため、ある程度以上の慣れはむしろノイズになると考えて注意しつつ櫂を動かしていく。

 そして十本目でようやく出来たのがこれである。


△△△△△

雑草酒 レア度:1 重量:1


雑草と井戸水から作ったお酒。雑多で草をそのまま噛んでいるかのような風味がするが、分類上は一応酒である。

呑むと満腹度+1% ランダムで毒、酔い、HP回復などの効果有り。

▽▽▽▽▽


 酒?だが一応の成功である。素材もレベルも道具も悪いからしょうがない。

 それにだ。考えようによってはこれは≪鉄の胃袋≫のレベル上げに使えるかもしれない。酔いは当てはまるのか分からないが、毒は間違いなく≪鉄の胃袋≫の軽減or無効化対象に入るだろうし。


「じゃ、早速一杯いってみますか。」

 ちなみにVR内での飲酒は現実には影響を及ぼさないとして未成年でも問題なく呑んでいいとされている。まあ道義的にNGを出している作品も多いし、HASOもそう言う作品なのだが。どちらにせよ俺は二十歳以上なので、何処からともなく出て来たビンとコップをスルーしつつ、奇妙な色の液体を躊躇いなく呑む。


「んぐ、ぶっ!ゲホゲホグハァ!あっ!」

 で、呑んだ感想。

 想像以上に酷い味だった。思わず噴き出した。≪鉄の胃袋≫とか関係ないです。確実にこれは毒物。

 と言うかあれだな。≪鉄の胃袋≫はあくまでも食べた物が毒とかを持っていた場合にその毒を対象に発動するだけであって、味覚には何ら影響を及ぼしていないんだな。

 勉強になったよ畜生。


「とりあえず口直しにオオシオマネキの足でも食べて、次はオオシオマネキの足と井戸水で酒を造ってみるか。」

 俺はボックスから足を二本取りだして一本を丸齧りしながら、もう一本の足を井戸水を貯めた樽の中に入れる。

 そして櫂入れ開始である。


「……。」

 難しい。明らかに雑草よりも難易度が高い。これはあれか、妙な素材を元にしているせいでその分だけ難易度が上がっているのか。

 くそう。これが終わったら西の森に行って果物でも集めてやる。そうすれば多少は難易度が下がるはずだ。というか場合によっては雑草よりも簡単に作れるかもしれん。


 で、結局こんな雑念が入ったためなのか失敗酒が一本出来ましたとさ。


 うん。西の森に行こう。南の草原の方が難易度が低い?知ったことか。



俺 は 酒 が 呑 み た い ん だ !



 ま、酒を抜きにしても芋虫からメイス作成に必要なアイテムが手に入るかもしれないしな。



△△△△△

Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.2 ≪メイス職人≫Lv.1 ≪握力強化≫Lv.2 ≪掴み≫Lv.3 ≪投擲≫Lv.1 ≪噛みつき≫Lv.3 ≪鉄の胃袋≫Lv.2 ≪酒職人≫Lv.2 ≪筋力強化≫Lv.1

空き枠3

▽▽▽▽▽

一流酒職人への道は遠く険しいのです。


07/26 誤字修正

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