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85:海底洞窟-6

「まあ見つけた所で挑む気は無いけどな。」

「ですねぇ。」

 実の所ここ技巧神の神殿のボスに関しては攻略組が何組か討伐している関係で掲示板に殆どの情報が載っていたりするので、情報収集の為に挑む必要は無かったりする。

 というか血赤以外は攻撃パターンどころか弱点属性まで割れているからな。情報収集する必要は本当に無い。


「それにしてもすごい威圧感と色の変わり方ですね。」

 アステロイドがボスゲートに近づいてマンティドレイクのボスゲートと同じように次々と色が変わっていく様子を眺める。

 また、ボスゲートの周囲にはこれもまたマンティドレイクと同じように凄まじい威圧感が漂っている。

 この威圧感があるおかげでボスゲートの発見は楽だったんだけど、相変わらずとんでもない威圧感だよなぁ。


「ヤタさんはこの威圧感は大丈夫なんですか?」

 アステロイドがボスゲートから離れて俺に聞いてくる。


「別に問題ない。狩猟神の神殿の方でも似たようなものを受けて慣れたからな。」

「流石ですねぇ。」

 アステロイドが珍しく感心したような様子でそんな事を言う。


「ま、とりあえず後は入口からここまでの道順を覚えながら戻って準備を整えたらハレーと一緒に倒すだけだな。」

「地図とか持っているんですかぁ?」

「このぐらいなら暗記できるし問題なし。」

 ここから入口までの道順程度なら実際暗記できるからな。こういう時こそゲーマーとしてのPSの生かしどころだよな。

 なお、地図に関しては≪地図作成≫とかを持っているマッパー系のプレイヤーが有償で作り、攻略組や金を持っているソロプレイヤーに渡している。

 で、俺に関してはよほど複雑なマップでない限りは暗記できるし、入口と目的地の場所については≪方向感覚≫で大体把握しているからな。地図が無くても全く問題ない。

 というか、バーバリアンが地図に頼ってどうするんだという感じである。


「ところでミカヅキさんはどうしましょうか?」

 うーん。ミカヅキか……。


「偶然でもいいから会えたなら誘いたいとは思うけど、会えないなら敢えて誘う必要は無いと思う。恐らくだけどミカヅキなら一人でも何とかできるだろうしな。」

 冷たいように思えるかもしれないが、俺もミカヅキもアステロイドも本来はソロプレイヤーであり、しかも人づきあいが悪くてソロで居るわけではなく、普段は仲間が居なくても何とかなるからソロでやっているタイプのソロプレイヤーなので、この辺りは割とドライな関係である。


 ただまあ、実際ミカヅキが居ればボス戦が楽になるのは確かなんだよな。

 現状のボス戦参加メンバーである俺、アステロイド、ハレーの三人はいずれも攻撃が派手だったり、≪挑発≫を持っていたり、一撃の威力が高かったりしてヘイトを稼ぎやすいからな。

 で、当のミカヅキは≪隠密≫を持っている上にヘイトが低ければそれだけ相手に与えるダメージが増える様な構成をしているから俺たちとの相性は良いんだよな。


「分かりましたぁ。そう言う事なら後は戻るだけですねぇ。」

「だな。」

 まあ、無い物ねだりをしてもしょうがないので、俺たちは道中で素材を回収しつつも技巧神の神殿まで戻るのであった。



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「さて、まずはハレーと一緒に回収した素材の割り振りか?」

「ですねぇ。じゃあハレちゃんを呼びますね。」

 海底洞窟を出た所でアステロイドがフレンド通信でハレーに呼びかける。

 さて、今回の探索でだいぶ素材は集まったし防具の更新に関してはする気は無いが、武器に関してはマンティドレイクの素材も使った武器をやっと作れそうだな。

 後欲しい物を挙げるなら新しい技能石が欲しかったりするけど、アレは運だからな。手に入れようと思っている時に限って手に入らないからその内出たらいいやと気楽に構えておくしかないんだよな。


「ハレちゃん。神殿前の広場で矢玉の露店を開いているそうなのでそこに来てほしいそうです。」

「了解。じゃあ行くか。」

 と、ここでアステロイドがハレーとの連絡を付けて神殿前の広場へと向かっていき、俺もそれについていく。



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「随分とたくさんの素材ですね。これなら僕の武器を強化した上でヤタさんの為に新しい投げ矢を作ったり、姉さんの為に紋章用の染料を作ったりも出来そうです。」

 ハレーが今回俺たちの持ち帰った素材を目にして最初に言った台詞がこれである。

 まあ新しい投げ矢は欲しいな。紋章用の染料。と言うのも気になるがそれは気にしないでおこう。


「言っておくがいくらかは俺も貰うからな。武器に使いたい。」

「そんな事は分かってますよヤタさん。姉さんもそうですよね。」

「ええ。もっと頑丈な武器が欲しいから作るわぁ。」

 俺とアステロイドは自分の欲しい物を作るのに必要な素材を自らの取り分として持っていく。


「ああそうだ。後二人にはこれも渡しておくわ。」

 と、ここで俺はせっかく作ったのに渡しそびれていたアイテムを思い出して、二人に帯気水2本ずつ渡す。


「炭酸水ですね。」

「炭酸水ねぇ。」

「言うなし。」

 二人は俺から炭酸す……帯気水を受け取りながらそう言う。

 と、ここでそう言えば今回の素材でハレーがどんな投げ矢を作れるのかが気になったので聞こうとする。


「そう言えばハレー……」

「だから組まないって言っているでしょうが!」

 が、質問が終わる前に広場中に聞き覚えのある声で怒声が響いたため、俺もアステロイドもハレーもそちらを向く。

 見るとそこにはミカヅキといつぞや狩猟神の神殿で見たガラの悪いプレイヤーとその取り巻きと思しき集団が居た。


「そんなこと言ったって、ここ技能神の神殿をソロで攻略するのは無理だぜ。敵の数が半端ないからねぇ。」

 うん。相変わらず殴りたい顔だ。というかメイスで叩き潰したいな。

 でまあ、とりあえず現在の状況は技巧神の神殿をソロ攻略中のミカヅキをあのプレイヤーが無理やりPTに誘おうとしていると言ったとこのようだ。

 明らかにミカヅキの実力を求めてと言うより女子を囲いたいだけだな。あの様子だと。


「それは貴方たちの常識でしょう……あっ、」

 と、ここで俺とミカヅキの目が合い、ミカヅキは一度驚いた様子で目を開くとすぐに微笑む。

 うん。ヤバい。何がヤバいのかは分からないけど。とにかくヤバい。このまま行くと必ず面倒な事態に巻き込まれてヤバい。俺の全本能がヤバいと警鐘を鳴らしている。


「悪いハレー。続きはまた後で……」

「ヤタ!」

 と言うわけでとっとと離脱……する暇は無かったか。


「おいおい。俺たちを差し置いて別のプレイヤーの所に行くのかい?」

 男がゲスい笑みを浮かべながらそう言う。

 が、ミカヅキは男を無視してこちらに近寄ってくる。


「いいわ。そんなに私の事をメンバーに入れたいなら条件付きで入ってあげてもいいわ。」

 そう言いながらミカヅキは俺の手を取って俺を話の場に押し出す。

 で、目の前にはミカヅキからの決闘申請の画面が表示される。

 アレですか。話を合わせないと殺すってことですか。ミカヅキさん怖いよ!


「条件だぁ?」

「ええ。私が貴方たちのPTに入りたくないのは貴方たちの実力が大きく私に劣っているとしか思えないから。でも私と同レベルの実力を持っている彼……『蛮勇の魔獣』を倒せるなら入ってあげてもいいわ。」

「舐めやがって……いいぜその条件飲んでやらぁ!代わりに俺らが勝ったらその男共々覚悟しておけよなぁ!!」

 ミカヅキの出した条件に明らかな怒りを浮かべて男は答える。

 というか、『蛮勇の魔獣』って俺の事か?


「交渉成立ね。」

 ミカヅキがあからさまに侮蔑の笑みを浮かべながらそう言う。

 というか、俺に拒否権は無しですか。そうですか。ミカヅキの戈が俺の首筋に当たっているのは気のせいだと思っておこう。

 ただまあ、こちらはダンジョン上がりである。なので、譲れない点が一つだけある。


「分かった。戦いには乗る。ただし、決闘は明日の朝だ。見てわかるとおりこちらはダンジョン上がりなんでな。お前らだって万全の俺を叩きのめした方が気分がいいだろ。」

 正直。この申し入れだけは受け入れてもらわないと流石に困る。相手の実力にも依るが回復アイテム無しは流石に無理だろうしな。


「はっ!いいぜなら明日の朝に手前と俺たちで勝負だ!その首洗って待っていやがれ!!」

 そして男は取り巻きと一緒に去っていった。

 と、同時にミカヅキからの決闘申請も解除される。


「すみませんヤタ。あまりにもしつこかったのでつい。」

 ミカヅキが頭を下げながらそう言う。いや、決闘申請をしておきながら何を言って……イエナンデモナイデス。


「別にいいよ。ハレー、アステロイド、悪いけど今後の事を話し合うためにプライベートエリアに来てもらっていいか?勿論ミカヅキ。お前にも来てもらうぞ。」

「分かりました。」

「了解ですね。」

「いいですよ。」

 そして俺たちは俺のプライベートエリアへと入っていった。

PVPが来るよー


前回の話で多くの方々から≪両手持ち≫の運用に関するご意見を頂き、大変参考になりました。

この場を借りて皆様に感謝の意を伝えさせてもらいます。

これからもHASOをよろしくお願いしますね。


09/28誤字訂正

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