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79:海底洞窟-3

「見事に迷ってますねぇ。」

「言うなし。」

 さて、行きと違う道を取らざる得なくなってからどれだけの時間が経っただろうか。

 ええそうですとも。見事に道に迷っていますとも。≪方向感覚≫のおかげでどっちに向かえばいいのかは分かるけど、そのせいで余計に迷っている気もするしな。


「アイテムももうすぐ持ちきれなくなりそうですねぇ。」

 アステロイドがアイテムポーチの中身を見ながらそんな事を言う。

 まあ、海底洞窟は一回の戦闘で手に入るアイテムの量が多いからな。その分アイテムが貯まるのも早いのだろう。


「というか、それ以上に装備品の耐久度が俺は心配になってきた。」

 で、戦闘が多いという事はそれだけ装備品の損耗や回復アイテムの消費も激しくなるという事である。

 現に耐久度100%のRシザーメイスを持ち込んだはずなのに、今のRシザーメイスの耐久度は既に50%を切っている。

 このままだと脱出前に壊れて修理の為にグランシザーを狩る必要が出たりしそうだ。


「耐久度なら私が≪修復職人≫と携帯鍛冶セットを持ってますから周囲の警戒をしていてもらえれば直せますよ。」

「へ?」

 と、俺の言葉にアステロイドが思わぬ答えを返す。


 ≪修復職人≫。それは職人系スキルの中でも特殊な分類で、職人と付いているがどちらかと言えば俺の持つ≪掴み≫や≪噛みつき≫が属する制限解除系のスキルに近いスキルである。

 効果としてはあらゆる武器・防具の修理が可能になる。ただこれだけの効果であるし、同じ耐久度を回復するにしても必要な修復石の量はその装備に対応した職人系スキルを用いた場合より多くの修復石が必要になる。

 そのため、防具職人たちへのきちんとした伝手があったり、よほど装備品の消耗が激しくない限りはあまり必要とされないスキルでもある。


 で、携帯鍛冶セット。こちらは≪設備職人≫や≪小道具職人≫が作れる持ち運び可能な鍛冶セットで、新しい装備を作る事は出来ないが、修復には使うことが出来る。

 ちなみに必要な修復石の数は勿論固定設備よりも多く必要である。


「何でそんなもの持っているんだ?」

 一応、答えの予想は付くが何故アステロイドが≪修復職人≫を持っているのかを聞いておく。


「敵の攻撃を受けているとよく防具の耐久度が減るのでつい取ってしまいましたぁ~」

「うん。まあそうだよね。」

 ある意味予想通りと言えば予想通りの理由である。

 まあ、アステロイドの持っているスキルは恐らく敵からの攻撃を受けるのがレベル上げに必要なスキルばかりだろうしな。

 それなら持っていてもおかしくもなんともない。


「まあそう言う事なら、いざと言う時はよろしく頼む。」

「任されましたねぇ。」

 とりあえず、アステロイドのスキル構成が気になるところだが、そこはスルーしておいて俺とアステロイドはさらに奥へと進んでいく。



---------------



「地底湖か。」

「深いですねぇ……」

 海底洞窟を進む俺たちの前に開けた空間と、底が見えない程深い地底湖が広がる。

 ただ、俺たちが居るのは地底湖の湖畔ではなく、その地底湖の上を横切るように繋がれた石の橋の上である。


「これだけ深いと底に行くのにはどれだけ≪泳ぎ≫のレベルが必要なんでしょうねぇ……」

「そこら辺はあんまり考えたくないな。」

 それでもHASOがゲームである以上は底には何かしらあるんだろうな。

 で、行くなら高レベルの≪泳ぎ≫か強力なアイテムが必要なのだろう。まあ今は放置安定だな。


「とりあえず早いところ先に進もう。」

「ですねぇ。」

 そして俺たちは地底湖を後にして更に先へと進む。



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「また深くなってきましたね。」

 俺たちが歩いている通路は再び水深が深くなってきていた。

 現在の水深は膝上程度であり、かなり歩きづらい。


「ちっ、また敵が来たな。ん?」

 と、ここで俺の≪嗅覚識別≫が敵の接近を知らせる。

 数は……4か。だが、位置がおかしい。


「どうしました?」

「敵の居る位置がおかしい……何と言うか少し俺たちの居る場所より下な感じがするな。どういうこった?」

 俺の今居る場所のz軸を0とするなら、普通の敵は0以上も位置に臭いを感じるものだが、この臭いは-30cmよりもさらに下の位置に感じる。

 うーん。未知のエリアなら単純に地面に隠れているモンスターを俺の鼻が関知したとも考えられるが、海底洞窟のモンスターには隠密系の敵がいないのは確認されているしな。

 それを考えると……これは水中の敵がこっちに迫って来ていると考えるべきか。


「逃げますか?」

「いや、敵の方が早い。逃げようと思っても逃げられないだろう。」

 敵のスピードは明らかにペナルティを受けて動きが鈍っている俺たちよりも速い。このスピードでは水中専用の敵が寄って来れない位置まで移動する前に戦闘が始まるだろう。

 となればだ。


「アステロイド。」

「は~い。もう目に見える位置まで来てますしねぇ。」

 アステロイドが武器を構えた状態で前に出る。と、同時に俺は敵の姿を確認する。

 敵は4体。いずれもウツボの様なモンスターで、パチパチという破裂音と共に水中を泳いでこちらに向かってくる。


「「キシャアアァァァ!!」」

 ウツボたちが水中から飛び出してアステロイドに噛みつく。


「チクっとしますね~」

「流石だな。」

 が、アステロイドの防御力の前にはたいして効果が無いのか身じろぎもしない。

 その隙に俺がメイスでウツボの1体を殴り飛ばす。


「キッシャアアァァ!」

 と、ここで殴り飛ばしたウツボが俺の方に飛びかかってくる。

 ペナルティのせいで動きが鈍くなっている俺は飛びかかってきたウツボを左手で防御する。

 俺はこの時点ではアステロイド程ではないがそれ相応に防御力があるはずなので問題なく防御できると思っていた。

 が、ウツボが俺に噛みついてから一度光った次の瞬間。


バチッ!

「へっ?」

 破裂音と共にアステロイドに噛みついているウツボも含めて放つ光が強くなり、


「あばばばばばばば!!?」

「あららららら!?」

 次の瞬間には俺とアステロイドの体に大量の電流が流れ全身が痺れていた。

 一撃一撃のダメージはそれほどない。だが、このまま受け続けるのはヤバい。


「この!」

 俺はウツボの電撃を無理やり無視して先ほど殴った一匹を殴りつける。

 だが、ウツボが水中に居るためなのか手応えは薄い。


「えい。やっ。」

 アステロイドも流石に拙いと感じたのか身体についていたウツボを引き剥がすと斧で振るってダメージを与えている。

 だが、俺の攻撃と同じようにペナルティの影響で与えられるダメージ量は多くない。


「だったら……【ハウリング】『うおらあぁぁぁ!』」

 俺は【ハウリング】で強化した≪大声≫によって無理やりウツボたちの動きを止める。


「行きます!【ブロウスイング】」

 続けてアステロイドが【ブロウスイング】を発動して動きの止まったウツボを無理やり吹き飛ばす。


「とっとと終わらせるぞ!」

「電撃をするぐらいなら噛み付いてもらった方が嬉しいですからね。」

「それはお前だけだ!」

 俺とアステロイドは吹き飛ばされたウツボたちに接近し、武器を叩きつけようとする。


「!?」

 が、叩きつける直前に俺の鼻は一種類の匂いを嗅ぎ取る。


「あらぁ~」

「オワタ……。」

 それは大量の魚臭。つまりは俺たちが来た方向からのサハギン5体PTにウツボたちが来た方からの水中戦仕様なサハギン5体PT。計10体のサハギンの群れである。

 ウツボたちが腹を上に向けて浮かび上がる。どうやらウツボたちは倒したらしい。


「「「ギョギョギョー!!」」」

 だが、ウツボたちから剥ぎ取りする暇も無くサハギンたちは両方向から俺たちに襲い掛かり、ペナルティで動きが鈍くなっていた俺はろくな抵抗も出来ないままに圧殺されることとなった。


 うん。ペナルティ込みで2対10は無理。

 てか、ペナルティ無しの地上でもキツイわ!



△△△△△

Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.16 ≪メイス職人≫Lv.10 ≪握力強化≫Lv.12 ≪掴み≫Lv.14 ≪噛みつき≫Lv.15 ≪筋力強化≫Lv.11 ≪嗅覚識別≫Lv.10 ≪大声≫Lv.14 ≪嗅覚強化≫Lv.8 ≪方向感覚≫Lv.11 ≪四足機動≫Lv.8 ≪投擲≫Lv.13


控え:≪酒職人≫Lv.10 ≪鉄の胃袋≫Lv.9

ストック技能石×1

▽▽▽▽▽

何気に雑魚戦では初の死に戻りです


09/23 誤字訂正

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