78:海底洞窟-2
本日2話目となります。
「ヤタさん。道あってますよねぇ?」
膝下まで水が来た通路を俺とアステロイドは歩いていく。
さすがに膝下まで水が来ているとかなり歩きづらく、仮に戦闘になった場合はそれ相応に厳しい戦闘になりそうである。
で、現在俺とアステロイドは技巧神の神殿に戻るために、行きと同じ道を通っているはずなのだが……
「行きはこんなに水深がある通路は通りませんでしたよねぇ……。」
アステロイドの言うとおり行きはここまで水が深い通路は存在しなかった。
俺の記憶が確かならここの通路は精々足首ぐらいの水深しかなかったはずである。
「うーん。」
俺は≪嗅覚識別≫も使いつつ周囲の岩場を観察する。
で、観察結果から察するに……
「恐らくだが技巧神の神殿入口の砂浜と同じように時間経過で場所ごとの水深が変化する仕掛けなんだと思う。」
「そうなんですかぁ……厄介ですねぇ」
全くである。
俺の記憶が確かならこの奥はもう少し下り道が続いていたと思うので、この調子なら一番下まで行くと遊泳状態に入るかもしれない。
「ん……!」
と、ここで俺の≪嗅覚識別≫が通路の奥からモンスターが2体ほど接近してくるのを感知する。
が、海底洞窟で出現するモンスターは必ず4体以上の編隊で出てくるのでこれはおかしい。恐らくはアレが出て来たのだろう。
「どうしました?」
「敵が来てる。退くぞ。」
「あ、はい。」
俺は通路の奥の方を気にしつつアステロイドと一緒に道を戻る。
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「来たか。」
「ふわぁ……」
足首より少し上まで水が引いたところまで戻ったところでそいつらは現れた。
「ゴウゴウッ……」
「キュルキュル……」
動く影は二つ。だが、影の内の片方からは紐状の物体が身体の各部から何本も出ている。
「ブラインオクトパスにアクティブコーラルにプルローパー三体か。」
「つまりは目隠し触手プレイですかぁ……エヘヘヘヘ……」
……。アステロイドが恍惚とした表情で体をクネクネさせつつ理解したくないけど、的確に敵PTの戦闘方法を捉えた感想を言ってくれたところで、こいつらについてきちんと思い出しておく。
まずブラインオクトパス。こいつは簡単に言えば二足歩行する蛸である。
攻撃方法としては残り六本の脚でこちらを殴ってくる他、口と脚の先からこちらを盲目状態にする墨を吐いてくる。
とりあえず脚が素材として回収できるので、後でコッチミンナにタコ焼きにしてもらってもいいかもしれない。現時点で作れるのかは分からないが。
で、残りのアクティブコーラルとプルローパーは少々特殊である。
こいつらはアクティブコーラルにプルローパーがくっつく形で出現し、戦術としては盾役として人型の珊瑚であるアクティブコーラルがこちらの攻撃を防いでいる間にその体にくっついたプルローパーがこちらを触手で絡め取って継続ダメージを与えつつ動きを止め、プレイヤーの動きが止まるとアクティブコーラルも攻勢に転じてくる。
なお、アクティブコーラルもプルローパーもそれぞれ単独で出現する可能性は勿論存在し、その場合アクティブコーラルは防御一辺倒。プルローパーはその場から一切動かないモンスターになる。
後、ドロップ品としては珊瑚の手や、痺れる触手などが手に入る。
でまあ、こいつらの戦い方をまとめると『目隠し触手プレイ』になるわけである……。くそう。的確過ぎて反論できねぇ……。
「と、発見されたか。いいか?」
「大丈夫です……フフフ。」
アクティブコーラルたちの動きが変わったのを見て俺はアステロイドに戦闘準備を促す。
「ゴウゴウ……。」
アクティブコーラルたちがゆっくりとこちらに接近してくる。
「じゃ、囮役は頼むぞ。」
「任されましたぁ。」
アステロイドが囮役として斧を構えた状態で突っ込んでいく。
で、俺も≪嗅覚強化≫を≪鉄の胃袋≫に変更した上で≪四足機動≫を発動するために両手両足を地面につける。
ふむ。水深から察するに最初の挙動が一瞬遅れそうだな。となれば……
「きゃあああぁぁぁ~~~」
アステロイドが見事にブラインオクトパスから盲目を受け、プルローパーに引っ張られ、アクティブコーラルに殴られる。
が、状況の割に声は楽しげ、というか喜びに満ち溢れている。おまけにダメージとしてはぜんぜん堪えて無いっぽい。これだからあの娘は……。
と、流石にプルローパー三体に絡め取られると継続ダメージが拙いだろうし、俺も≪四足機動≫で動き始める。
「『行くぜぇ!!』」
が、走るのは動きが遅くなる水場ではなく、壁である。正確には壁を掴んで三角跳びの様に移動する。
そしてアステロイドを絡め取っているプルローパーの横に移動。≪大声≫でブラインオクトパスの動きを止めつつプルローパーの触手に向かってメイスを振り下ろし、まとめて触手を引き剥がす。
「あらら~」
と、触手から解放されたところでアステロイドが少し残念そうにしながら斧を振り下ろしてプルローパーの一体にダメージを与える。
だから残念そうな顔をするなし。
「一気に決めんぞ!」
「はいはい~」
アクティブコーラルは俺とアステロイドの攻撃を必死に防ごうとする。が、所詮は一体。二方から同時に攻撃をされては片方の攻撃を防げず、アクティブコーラルの体に張り付いていたプルローパーは次々と打ち倒されていく。
ただ、アクティブコーラルの体に間違って攻撃を当てると堅くて攻撃が弾かれるな。≪噛みつく≫も≪鉄の胃袋≫が無いと食った物のせいでダメージを受けそうだし。
属性攻撃なら属性関係なしによく通るのがせめてもの救いだな。
プルローパーの味?んー、そうめん?
「キュキュルー!」
「くっ!」
「大丈夫ですかぁ?」
と、ここでブラインオクトパスが怯みから復帰して俺に盲目の墨を浴びせてくる。
うん。全く見えない。このままでは普通のプレイヤーなら同士討ちを気にして行動できないだろう。だが甘い。
「問題なしだ【ウルフファング】」
俺は≪嗅覚識別≫でアステロイドの位置も含めて周囲の自分以外の存在を把握。≪四足機動≫でブラインオクトパスの眼前まで移動して【ウルフファング】で顔に噛みつく。
で、更にそこから≪掴み≫と≪投擲≫のコンボで地面に叩きつけ、メイスで掬い上げて止めを刺す。
ふはははは。他のプレイヤーならまだしも目以外に敵を識別するスキルを持った俺には関係ないわ!
「これでこっちも終わりです。」
と、俺がブラインオクトパスを仕留めている間にアステロイドも何度もアクティブコーラルに斧を叩きつけて打ち倒していたらしい。
まあ、プルローパーが居なければアクティブコーラルは専守防衛だしな。武器の耐久度はガンガン減るがただ殴っていれば終わる。
と言うわけで剥ぎ取りもして、と。
「さて、このルートが使えないなら別ルートで戻るか。」
「ですねぇ。」
俺とアステロイドは更に道を戻ると別ルートを使って技巧神の神殿に向かって歩き始めた。
09/23 誤字訂正