75:技巧神の神殿-2
「で、具体的はどういう刺青をどうやって刻むんだ?」
多分、今獣人化していたら尻尾をブンブン振っているだろうなぁ……と感じつつハレーに迫りながら俺は話を聞く。
「落ち着きなさいねぇ。」
俺はアステロイドに首根っこを掴まれて止められる。
「とりあえず、私のプライベートエリアに行きましょう。道具も揃っていますから。」
「そうねぇ。」
「へいへい。」
そして俺はハレーとアステロイドに付いて行ってハレーのプライベートエリアに入っていった。
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「では、≪紋章職人≫による刺青の刻み方について説明させてもらいますね。」
ハレーがどこからともなく取り出した椅子に座って説明を始める。
なお、俺は床に、アステロイドは健康サンダルの様なとげとげが付いたシートに若干目を潤ませながら座っている。
うん。そっとしておこう。
「まず、≪紋章職人≫と言うのは先程説明したように物に紋章を刻み込んで強化したり、追加効果を持たせたりする職人系スキルです。具体的にはこんな感じです。」
そう言ってハレーはアイテムポーチから二つの弩用弾丸を取り出す。
弾丸は基本的には両方とも先端が赤く染められ、それ以外は白塗りだ。弩に使うという事はこの中に矢の本体が入っているのだろう。
ただ、二つの弾丸には一つ明確な差が有る。
それは白塗りの部分に赤い奇妙な文様が刻み込まれているかどうかだ。
「これは弩専用の矢玉で火炎弾と言い、【ファイアショット】として敵に当たると爆発を起こします。」
爆発・・・・・・ああなるほど、サハギンリーダーのトドメに使われたのはこれか。
「で、こちらはその効果を強化する紋章を刻み込んだ火炎弾です。差としてはこのぐらいありますね。」
そう言ってハレーが二つのウィンドウを見せてくれる。
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火炎弾 レア度:2 重量:1 種別:矢玉 作成者:ハレー
攻撃力:40
属性攻撃力:火100
耐久度:100%
火属性の祝福が込められた弩専用の弾。
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火炎弾(火属性強化紋入り) レア度:2 重量:1 種別:矢玉 作成者:ハレー
攻撃力:40
属性攻撃力:火120
耐久度:90%(MAX90%)
火属性の祝福が込められた弩専用の弾。火属性強化の紋章が刻み込まれている。
▽▽▽▽▽
うーむ。結構差が有るな。火炎弾という事は火属性ダメージを期待して撃つわけだし、それならほぼ攻撃力1.2倍と見てもよさそうだな。
ただ、これは道具の場合なんだよな。
「ちょっといいか?」
「何でしょうか?」
「刺青ってことは俺の体に直接刻みこむわけだけど、メリットやデメリットの説明を頼めるか?」
「はい。それは勿論です。」
俺はハレーに≪紋章職人≫に関する詳しい説明を求め、ハレーもそれに応える。
で、その説明をまとめればこんな感じ。
まず≪紋章職人≫が紋章を刻み込むためにはナイフや針などの道具が必ず必要で、そこに追加で染料を使う事によって紋章の効果を強化したり、弱めたりできる。
そして刻み込める紋章の種類は≪紋章職人≫のレベルが上がったり、特定の条件を満たしたりする度に増えるそうだ。
さて、続けて物に紋章を刻むことのメリットとデメリットについて。
メリットは勿論紋章の効果による強化。これによって長所を伸ばす事も、欠点を消すことも出来る。
デメリットとしては一部の紋章が持っているマイナス効果が発揮されることや、紋章を刻み込む際には耐久度が最大値ごと減少することが挙げられる。
おまけに制限としてそもそも刻み込める紋章の数に制限が有ったりもするそうで、中々に扱いが難しい事になっている。
で、ここからが本題。プレイヤーの体に直接刻みこむ場合のメリットとデメリットだ。
メリットとしては紋章効果による強化は当然として、そこに物に刻む時にはあった最大耐久度の減少が人に刻み込む時には無い。また、サイズが大きい紋章でも刻み込むことが出来る。ついでに職人の腕次第でデザイン的にも優れた物に出来ると言うメリットもあるな。
デメリットとしては書き換えや消すのに多大な手間がかかるのがまず一つ目のデメリットで、どちらの場合にしても専用のアイテムとそれ相応の腕を持った職人が必要になるそうだ。
二つ目のデメリットとしては人に刻み込む場合は同時に刻み込める数が一個で固定されている点。
三つ目はプラス効果だけでなくマイナス効果も常時発動と言う点だそうだ。
「なるほどね。で、ハレーは具体的にどんな刺青を刻めるんだ?」
「現状僕が刻める紋章はこんなところですね。」
ハレーが自らの刻める紋章の名称と効果の一覧を俺に見せ、俺はそれを一つ一つじっくりと見て行く。
適当に選んでもいいかと最初は思っていたが、ハレーはまだ紋章消しのアイテムを造ったり扱ったりは出来ないそうなので慎重に選ばないといけない。
で、そんな中で俺の目に留まった紋章はこれだ。
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大烏の紋章 レア度:1 重量:0 種別:紋章
ビッグクロウを模した紋章。刻み込んだものに敏捷強化(微弱)を与える。
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うん。俺ってばヤタだしな。名前の元ネタはアレだしな。ならアリだろう。今は狼男だけど。
「決まりましたか?」
「ああ、『大烏の紋章』で頼む。と、そう言えば報酬とかはどうすればいいんだ?」
「そう言えばその話がまだでしたね。」
ハレーは少し考え込む。
まあ、ハレーが俺に施術するメリットとしてはレベル上げとか宣伝、それに顔見知りだから頼みやすいとかその辺りだろうな。まだ消せないのだから迂闊に刻み込むわけにはいかないし。
「それでは、僕の頼みを一つ聞いてもらってもいいですか?」
「どういう頼みだ?」
さて、アイテム以外での請求となると場合によっては面倒となるが……。
「技巧神の神殿を攻略している間姉さんとPTを組んでもらう。というのはどうでしょうか?」
「ん?良いのか?」
俺はハレーの頼みの意図がつかめずにアステロイドの方を見る。が、アステロイドは相変わらずの表情である。
「元々、技巧神の神殿はPT向けだとされていますし、その……姉さんは二つ名の関係で今日のボス討伐の時のような特別な場合でもないとPTを組めませんから。」
どちらかと言えば二つ名が原因と言うよりは、その二つ名が付いた原因の方が原因だと思うけどな。アレは普通に引く。
だがまあ、技巧神の神殿がPT向けだと言うのなら一緒に行くのは十分にアリだな。サハギンリーダーの攻撃を受けても怯まない程の防御力があるなら盾役を任せるには十分だし。性格の方はともかくとして。
まあ、この辺はここらで置いておいて。
「なるほどな。なら技巧神の神殿のボスもPT向けなんだろ。だったらボス戦の時は火力役としてハレーも一緒に来てくれ。その条件を飲んでくれるなら俺は構わない。」
「えーと、いいんですか?」
「むしろ来てくれないと火力が足りないと思う。」
俺とアステロイドだとメイスと防御特化だしな。
「分かりました。ならボス戦の時も含めてよろしくお願いしますので、僕も全力で紋章を刻ませてもらいます。」
「おう。よろしく頼む。」
そして俺とハレーは握手を交わし、俺はハレーの手によって顔の左半分を覆うように大烏の紋章を赤い染料で刻み込んだ。
烏の紋章な理由は分かりますよね。ヤタですし。