73:VS半魚人軍団-1
ゲートをくぐると其処は周囲全てを滝の壁で覆われた広場だった。広場の周囲に存在する滝の壁の先では多くの魚が泳いでいる。
広場の材質は……見た限りだと珊瑚っぽいな。
と、滝の壁の向こうから影のような物が近づいてくる。
それは金属製の鎧を身に着け、三つ又の銛を持った半魚人……所謂サハギンであり、恐らくはこいつが今回のボスの取り巻きであるサハギンナイトなのだろう。
「「「ギョギョギョッ!」」」
と、サハギンナイトたちが次々と滝の壁を越えて広場の中に入ってきて武器を構えた状態で整列する。
その数14体。事前予測での最大数だ。
「ギョオッ!」
そして14体のサハギンナイトが整列した所でその中心に他のサハギンナイトよりも明らかに豪華な鎧を身に着け、銀色の剣を持ったサハギンが降り立つ。
どう見てもアレがここのボス。サハギンリーダーなのだろう。
「ギョギョオ!」
「「「ギョギョギョー!」」」
サハギンリーダーが剣を掲げるのと同時にサハギンナイトたちも銛を掲げて鬨の声を上げる。
そして戦闘が始まる。
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「来るぞ!全員構えろ!」
軍曹が抜刀しながら声を張り上げ、それを受けて他のメンバーたちも武器を構える。
「「「ギョギョギョ!」」」
サハギンナイトたちが三つの集団に別れてから俺たちに向かって突撃してくる。
具体的にはサハギンリーダーにサハギンナイト5体がユフたち攻略組へ、サハギンナイト5体が生産組へ、サハギンナイト4体が俺たちソロ組だ。
ふむ。丁度いい感じに分かれたな。
「ではいつも通り、」「行くぞ!」「おう!」
攻略組からはまずユフと軍曹それに片手槍の使い手が突っ込んでサハギンたちを抑え込み、そこに杖使いが広範囲攻撃の祝福を撃ち込む。と同時にメイス使いが祝福で傷ついたユフたちを回復し、杖使いの攻撃を逃れたサハギンたちが接近するのを鞭使いが牽制して防ぐ。
うーむ。流石は攻略組。バランスが取れてて安定もしてるな。あの感じなら心配は無用だな。
「耐えられるだけ耐えるぞ!」
生産組に関してはハレーを中心に据えて円陣を組み、ハレー以外は防御に専念し、隙を見てハレーが弩による高威力の攻撃を当てる戦術を取るようだ。
後、アステロイドがイベント終了直後に何故か生産組の方に移動してる。まあ、防御特化型だそうだからハレーたちと組んだ方が相性は良いか。
「来ますよ。」
「分かってるよ。」
で、俺とミカヅキの所にはサハギンナイトが4匹向かってくる。
「一人頭二体だ。やれるな。」
「愚問ですね。」
そう言ってミカヅキはその姿を俺の視界から眩ませる。相変わらずの隠密能力である。
さて、俺も最初から飛ばしていくか。
「【獣人化:ウルグルプ】……起動!『うおおおおぉぉぉぉん!!』」
俺の全身が瞬時に変化していき、変化が終わったところで俺は威圧の為に遠吠えを上げる。
するとサハギンナイトたちだけでなく、ユフたちもその動きを止める。
ふむ。そう言えば事前説明も何もしてなかったな。まあいいか。
「『行くぜおらぁ!!』」
俺は≪四足機動≫を発動するために両手を地面につくとすぐさま全身のバネを使って一番近くに居たサハギンナイトの眼前まで移動。
「ギョッ!?」
「【ウルフファング】!」
勢いそのままに【ウルフファング】を発動して一度目の噛みでサハギンナイトの顔面に噛み跡をつけ、二度目の噛みで顔面を食い千切ってやり、トドメとして頭を掴んで地面に叩きつけるとそこにメイスを振り下ろして頭蓋を完全に粉砕する。
味は……青魚だな。
「ギョオオオオォォォ!!」
仲間を一瞬でやられたからか残り三体のサハギンナイトが俺に突っ込んでくる。
「迂闊ですね。【ファーストアサシネイト】」
だが、そこでミカヅキが突如三体のサハギンナイトの後ろに現れてその内の一体の首筋に戈を突き刺す。戈の刃先が突き刺された場所の反対側から出て来ているのを見る限り即死だろう。
「流石はミカヅキだ。【アイアングラップ】」
「ギョッ!?」「ギョガ!?」
俺はミカヅキが一体仕留めたのを確認した直後に残り二体のサハギンナイトに≪四足機動≫を発動して接近。【アイアングラップ】を使ってから二体の首を鷲掴みにしつつ地面に叩きつけ、そこから上に向かって投げる。
「人間を辞めた人に褒められても困ります。」
「そうかい。【ダークスイング】」
そこからミカヅキは俺に駆け寄り、俺の肩を足場にして跳び上がり、空中に居た二体のサハギンナイトに攻撃を加えて地面に叩きつける。
正直、人間の辞めっぷりで言えばミカヅキもあまり変わらない気がするが、それはまあ置いておいて俺は自分の体を横回転させつつ【ダークスイング】と≪噛みつき≫による攻撃を地面に落ちてきたサハギンナイトたちに当ててその命を刈り取る。
「で、これで俺らのノルマは終わったが?」
「関係ありません。私たちは自由に戦って構わないと言われているのですからその通りにするだけです。」
「だな。」
俺とミカヅキはお互いに目だけでどちらに向かうかを示すと、俺はハレーたちの方へ、ミカヅキはユフたちの方に向かう。
「あはん。頼むわぁ。」
「変な声を上げないで下さい姉さん!」
ハレーの弩から放たれた弾がアステロイドがその身を盾にして抑えていたサハギンナイトに突き刺さり、サハギンナイトは大きく吹き飛ばされて地面を転がるとそのまま動かなくなる。
うーむ。ボスの取り巻きであるサハギンナイトたちの攻撃を受けても怯み一つ見せないアステロイドの耐久力も大した物だがそれ以上にサハギンナイトを平然とぶっ飛ばすハレーの攻撃力が凄いな。本当に生産組か?アイツ。
まあいい。合流だ。
「【ハウリング】『手を貸すぜえええぇぇぇ!!』」
俺はアステロイドの横にまで出ると【獣人化:ウルグルプ】と【ハウリング】によって強化された≪大声≫を放つ。
すると二重強化の影響かその音はまるで衝撃波の様にサハギンナイトたちを僅かだが吹き飛ばす。
「あらあらぁ。凄いですね。ヤタさん。では、私以外の人を襲っているのをお願いしますね。」
「いいだろう!」
俺はそこでアステロイドとハレーの二人から離れ、生産組5人で二体のサハギンナイトを相手にしている乱戦に突入。
「「「!?」」」
驚くプレイヤーたちを尻目にまずは一体目のサハギンナイトの首筋に噛みつき、回転して勢いをつけると二体目のサハギンナイトに投げつける。
さて、折角の貰い物だし使わせてもらおうか。
「『ヒャハハハハ!避けられるものなら避けて見な!』」
俺は≪大声≫でサハギンナイトの動きを止めつつアイテムポーチからハレーに貰った投げ矢を取り出してサハギンナイトたちに全力で投げつける。
「「ギョガアァ!?」」
投げ矢は容赦なくサハギンナイトたちの身体に突き刺さる。特に鉄の矢じりを付けられたものは当たった場所が鎧であってもその下の肉に到達しているかは分からないが貫通して突き刺さる程の威力を見せる。
ここまで≪投擲≫の威力に差が出ると石ころに戻るのを辛く感じそうだ。
「『これで手前等は終いだぁ!』」
そして痛みにもがくサハギンナイトたちに俺は接近してグランシザーとの戦いでも使った縦回転を伴うメイスと≪噛みつき≫の連続攻撃によってサハギンナイトたちを始末する。
どうでもいいが、地味にこの手の回転攻撃をするときに≪方向感覚≫は役に立っている気がするな。
さて、これで俺のキルマークは4か5。ハレーたちの方はもうすぐ決着がつくし、ユフたちの方は……後はサハギンリーダーだけか。
ならば、
「『ガンガン行くぜえぇ!』【ウルフファング】!」
俺はユフたちの攻撃から逃れるために後ろに飛び退いたサハギンリーダーに≪四足機動≫で勢いよく接近すると剣を持った右腕の鎧が無い場所に二度噛み付く。
「ギョガア!?」
「私も居るのをお忘れなく。」
サハギンリーダーは噛み付かれてすぐに俺を振り払おうとする。が、同時に何処からともなく幽鬼のようにミカヅキが現れてサハギンリーダーの鎧の隙間に戈を突き立て、その痛みにサハギンリーダーは動きを止める。
「やれやれ、連携も何もあったものではないな。【ソニックスラッシュ】」
「無茶苦茶過ぎんだろお前ら!【フルスイング】!」
と、そこに軍曹が目にも留まらぬスピードで太刀を振りぬいてサハギンリーダーを切り裂くと、続けて来たユフが両手剣をフルスイングしてサハギンリーダーを弾き飛ばす。
「ギョガア!」
「はいはいそこまでぇ。【ブロウスイング】」
吹き飛ばされたサハギンリーダーはすぐに立ち上がって反撃しようと試みる。しかし、いつの間にか他の生産組と協力してサハギンナイトを倒しきっていたアステロイドがサハギンリーダーの後ろに現れ、手に持った大斧をサハギンリーダーが必死の抵抗として突き刺した剣を無視して振りぬいて先程のユフよりも更に大きくサハギンリーダーを空中に吹き飛ばす。
「後はお願いね。ハレちゃん。」
「分かってます。火属性強化紋章付き火炎弾装填。≪固定砲台≫チャージ完了。」
ハレーが弩を空中に吹き飛ばされたサハギンリーダーに向かって構える。
「げっ!?」「っつ!?」
と、ここで俺とミカヅキはハレーの武器から漂う剣呑な雰囲気を感じてインスタントエリアの端まで退避。
ユフたちも何かヤバいものを感じたのか防御陣形を取る。生産組はもう最初から逃げ出している。
「【ファイアショット】……起動!!」
ハレーの弩から一筋の光が放たれ、サハギンリーダーに何かが着弾。
そして次の瞬間。
「うおおおおいいいぃぃぃ!?」
着弾点を中心に大爆発が起き、周囲に熱風と衝撃波が吹き荒れる。
その光景に俺は【獣人化:ウルグルプ】のおかげで耐久力が上がっていることを信じて身を丸める事しかできない。
そして、爆発が止んだ直後に地面に落ちてくる黒炭と化した何か。
それの元が何であったのかを語る必要は恐らく無いだろう。
何と言うか、最後の最後であの姉弟に色々持っていかれた気がする。
「ゴホン。討伐完了だな。諸君お疲れ様だったな。」
やがて一回咳ばらいをした後の軍曹の言葉に生産組から歓声が上がり、俺は自分が手に入れたアイテムを確認する。
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取得アイテム(ヤタ)
技能石×1
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「『アオオオォォォ~~~ン』」
そして思わず俺は二重の意味でないていた。
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Name:ヤタ
Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.15 ≪メイス職人≫Lv.10 ≪握力強化≫Lv.11 ≪掴み≫Lv.13 ≪噛みつき≫Lv.15 ≪筋力強化≫Lv.10 ≪嗅覚識別≫Lv.8 ≪大声≫Lv.13 ≪嗅覚強化≫Lv.7 ≪方向感覚≫Lv.10 ≪四足機動≫Lv.6 ≪投擲≫Lv.12
控え:≪酒職人≫Lv.10 ≪鉄の胃袋≫Lv.7
ストック技能石×1
▽▽▽▽▽
1対1も楽しいですが、集団戦も書いてて楽しいですね。
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