69:VS巨鋏蟹-1
≪投擲≫と≪鉄の胃袋≫を入れ替えた俺がボスゲートをくぐるとそこは周囲を岩に囲まれた入り江のような場所だった。
俺の視線が海の方に向く。
ドン!
すると突然海の方から水柱が立ち上がる。
ボンッ!!
続けざまに砂浜の方で土煙が立つ。
ドオオオォォォン!!
そして、俺の正面で爆音と土煙を上げつつ全身から棘を生やした体高2m超の巨大な蟹が地面から出現する。
「キチャチャチャ!」
さて、簡単にこの蟹について説明をしておこう。
こいつの名前はグランシザー。東の海岸と砂浜の間を封鎖しているボスである。
能力面での特徴としてはウルグルプを遥かに上回る防御力とボスの中では最低と言われる攻撃力(と言っても雑魚と比べれば十分高い)辺りが特徴だろう。
後は全身に生えている棘のせいで接触時に若干のダメージを喰らうとか掲示板に書かれていた気がする。
「キチャ!」
グランシザーが右手の鋏を振り上げながら突進してくる。
さて、早速だが
「【獣人化:ウルグルプ】……起動。」
【獣人化:ウルグルプ】発動した瞬間、BPが最大値の半分ほど減ると共に眩暈が俺を襲う。
全身の筋肉が膨れ上がって一回り程体が大きくなり、防具と俺の身体が一体化していく。加えて下顎が人間の物から狼のそれに変わってウルフヘッドに付いている上顎と釣り合うようになり、殆ど防具が存在していない右腕も狼の毛が直接肌から生えて来て右腕を覆う。おまけに腰の部分から何か長い物が生えてきたような感覚がある。
今の俺の姿を簡単に現すならば
「『ワオオオオオォォォォォン!』」
「!?」
変化が完了した時点で俺は遠吠えを上げ、その遠吠えにグランシザーの動きが止まる。
俺はグランシザーを真正面から睨み付ける。
俺の全身には力が漲っている。その強い力に油断すると理性が吹き飛んでしまいそうだ。
「ん?」
と、ここで俺は見慣れないゲージがステータス画面に並んでいるのを見つける。
あ、ちょっと今減った。
グキュルルル~
……。ゲージが減ると同時に腹の音が鳴った……。つまりこのゲージは……
「うおおおぉい!?満腹度がガンガン減るのかよ!!」
満腹度なのだろう。
あれか。急激に身体を大きくした副作用か!この野郎!!
俺は急いでグランシザーに接近する。グランシザーも大声の硬直が解けたのかすでに動き始めている。
「キチッ!」
「ぬるい!」
グランシザーが振り下ろした鋏を俺は紙一重で避けると俺は甲殻の一部に噛みついて牙を突き立てる。
「!?」
そしてそのまま≪四足機動≫でグランシザーの後方へと移動開始。金属を無理やり引きちぎるような音共にグランシザーの体の表面を削り取っていく。
うむ。美味い。オオシオマネキとは肉に含まれる旨味の量が違うな。
で、四足をついたまま着地。
人間を辞めてる?もう、それでいい気がしてきたわー
グランシザーが口から散弾銃の様に泡を吐き出す。ただ、数は多くてもスピードはそこまで早くない。おまけに隙間もきちんとある。これならば、
「当たらぬ!当たらぬわ!!」
【獣人化:ウルグルプ】に≪四足機動≫が組み合わさった俺にとってはどうと言うことは無い。
俺はそのまま接近。グランシザーの身体から生えている棘の一本を掴むとそれで反動をつけ、回転しつつ連続で≪噛みつき≫とメイスによる攻撃を行う。
あまりの高速回転に再び金属音が聞こえてくる。
と、ここでグランシザーが動き始めた気配があるのでグランシザーの周囲から離脱する。
「キチチチチ……」
グランシザーが鋏を巧みに使って地面へと凄まじいスピードで潜る。
うん。これは突き上げが来るな。定番だからそれぐらいは分かる。ただそれ以上に≪噛みつき≫を使って攻撃できないこの時間がヤバい。満腹度がガリガリ減る。
「しょうがない。呑むか。」
俺はその場から不規則にステップを刻んで移動しつつアイテムポーチから狩猟蜂の蜂蜜酒を取り出して呑む。≪鉄の胃袋≫のレベル的に酔う可能性があって怖いが背に腹は代えられない。
というか【獣人化:ウルグルプ】の燃費が悪すぎんだよ。満腹度が目に見えるスピードで減るって相当だぞ。
ドドド……
と、少々愚痴りつつ蜂蜜酒を呑んでいたら地面が揺れだす。そして俺の≪嗅覚識別≫は告げている。足元から来る。と、
「ちっ!」
俺がグランシザーの動きを察知して飛び退いた瞬間、地面から両手の鋏を天に向かって掲げたグランシザーが飛び出してくる。
この飛出し攻撃は勢いも厄介だが、それ以上にグランシザーの全身から棘が生えているせいで避けきったと思っても微妙に体に棘が引っ掛かり、俺はダメージを受ける。
が、予想していたよりもだいぶダメージは少ない。まあ考えてみれば放置していただけで本来は最序盤のボスだしな。そりゃあ今の防具なら直撃しなければ問題は無いか。【獣人化:ウルグルプ】に防御力アップの効果が無いとも言い切れないが。
「まあ、何だっていいか。【ウルフファング】!」
俺は四足で着地すると跳ね返るように未だ空中に居るグランシザーに向かって突撃し、二度の噛み付きを行う。
俺の牙がグランシザーの甲殻を突き破って中身である肉まで到達する。
そして去り際に【ダークスイング】を叩き込みつつ退く。
「それにしても満腹度消費がマジで怖いな。」
俺は自分の満腹度ゲージを見て思わずそう呟く。今の【ウルフファング】でまた少し回復したがちょっと攻撃の手を緩めたら回復よりも消費の方が上回りそうだ。
「キチチッ!」
グランシザーが両手の鋏を振り上げながら迫ってくる。
さて、この消費スピードを考えると相手の攻撃の隙をついてとか言い続けるのは危険だな。
「いくぜえ!」
というわけでグランシザーが右手の鋏を振り下ろし始めたのを見た瞬間に俺は≪四足機動≫で動き出し、足の一本を齧りつつグランシザーの後方へと跳んで移動。着地と同時にグランシザーの棘が生えた背中の甲羅を削りつつ右手側から左手側へ移動。そこから裏拳の様に放たれた左手の鋏の付け根に噛み付き、振り抜かれた所でグランシザーの脳天に移動して≪噛みつき≫とメイスを組み合わせた攻撃を行う。
一連の動作で俺が受けたダメージは掠りや受け止めなどの結果として最大HPの3割ほど。流石に被害が大きい。
「だがまあ。そろそろ終わりだな。」
しかしグランシザーも口から血が混じって変色した泡を吹いている。どうやら瀕死の様だ。
「キチチチィ!!」
グランシザーが決死の反撃なのか大量の泡を吐いてくる。
だが、
「そんなものは通じない!」
俺は≪四足機動≫で泡を真正面から避けきるとグランシザーの顔面に飛びついてその目に俺の牙を突き立て噛みちぎってやる。
「キ……チチチ……」
ゆっくりとグランシザーが倒れる。どうやら終わりのようだ。
うむ。流石に弱いな。まあウルグルプと同格なのだからこんな物だろう。だがまあ、勝者の礼儀として、
「『アオオオオオオォォォォォォン!!』」
勝利の雄たけびぐらいは上げてやろうじゃないか。
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取得アイテム
グランシザーの甲殻×4
グランシザーの脚×2
グランシザーの棘×2
グランシザーの鋏×1
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Name:ヤタ
Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.14 ≪メイス職人≫Lv.9 ≪握力強化≫Lv.10 ≪掴み≫Lv.12 ≪鉄の胃袋≫Lv.7 ≪噛みつき≫Lv.14 ≪筋力強化≫Lv.9 ≪嗅覚識別≫Lv.8 ≪大声≫Lv.12 ≪嗅覚強化≫Lv.7 ≪方向感覚≫Lv.9 ≪四足機動≫Lv.5
控え:≪酒職人≫Lv.9 ≪投擲≫Lv.11
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あっさり終了なグランシザーさんでした。
まあ、ウルグルプと同格だからしょうがない。