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60:王都ミナカタ-9

「今上がりですか。」

 樹林回廊の上層部に戻ってきた俺の前に今から狩りに行く様子のミカヅキがゆっくりと近づいてくる。


「まあな。そっちは今からか?」

「ええ。ちょっと下層部に行ってみようかと。」

 ミカヅキはゆっくりと道の端に近づいていく。何だか傍目には飛び降り自殺でもしそうな光景だなぁ……

 まあ、ちょっとしたヒントぐらいはあげておくか。


「下層部に着いたらまずは南東を目指して出口を見つけておいた方がいいぞ。敵の沸きが今までとは桁違いだから逃げ道はきちんと確保しておいた方がいい。」

「ありがとうございます。ただ南東と言われても私には分かりませんけどね。」

 あー、そう言えばミカヅキは≪方向感覚≫は無かったか。


「まあ、何にしても気を付けてな。」

「ええそれでは。」

 そしてミカヅキは道の下に飛び降りていった。

 うん。どう見ても飛び降り自殺です。本当に心臓に悪いです。


 で、俺も狩猟神の神殿から王都へと転移していった。



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 王都に戻ってきた俺はまず最初にコッチミンナの店に行く。


「おいーっす。調子はどうだ?」

「ヤタか。まあぼちぼちだな。そっちはどうだ?」

「掲示板を見てるなら分かるだろ。とりあえず新しい肉系アイテムが手に入ったから渡すわ。」

 俺はプロレスベアの手と狩猟蜂の蜜。それに手数料代わりにリブスネークの肉をコッチミンナに渡す。

 え?掲示板の件?藪蛇を突っつくのは御免である。


「ほう。熊の手に蜂蜜か。熊の手は煮込み料理が一般的だな。」

「へー、そうなのか。じゃあそれで頼むわ。」

「ああ分かった。喜んで作らせてもらう。」

 コッチミンナが受け取った素材で料理を作り始める。ふむ。最初に毛皮を剥ぎ、そこからまずは臭いを消すように煮込む。で、一通り煮込んだところで骨を抜いて今度は味付けの為に煮込む。そして盛り付け。

 うん。食欲を誘ういい匂いが漂ってきたな。


「出来たぞ。プロレスベアの手煮込みだ。」

 コッチミンナが皿に盛りつけられた料理を出す。

 見た目はプロレスベアの手ほぼそのままか。


「それじゃあ、いただききます。」

 俺は料理にそのまま齧り付く。


 !?

 う、旨い!噛む度に肉の旨味だけでなく蜂蜜などの旨味も混ざった肉汁が溢れだしてくる!

 おまけに何だ!?食べたらまるで全身から力が溢れだしてくるようだ!これは一体……


「それが食事効果と言うやつだ。」

 コッチミンナが俺の様子を見て説明を始める。

 食事効果。それは一部の料理アイテムを使用した時に満腹度回復に付随して現れる特殊効果であり、一時的に筋力やHPが伸びたりするそうだ。

 ただ、食事効果は同時に一つしか得られず、1つ目の食事効果が残っている内に2つ目の食事効果を得てしまうと上書きされてしまうらしい。

 また、これも≪噛みつき≫がβ版で不遇扱いされた理由の一つらしいのだが、≪噛みつき≫で一部の敵を攻撃した際に食事効果を良性悪性問わず得てしまい、折角の食事効果が消えてしまう事があったそうだ。

 まあ、それは不遇扱いされるよな。うん。俺は別に構わんけど。


 で、プロレスベアの手煮込みだが、3時間筋力が上昇するらしい。効果のレベルとしては≪筋力上昇≫Lv.5相当ぐらいかな?

 まあ便利ではあるな。


「ご馳走様でした。じゃあ俺は失礼するわ。」

「お粗末さまでした。おう、頑張れよ。」

 そして俺は食事を終えるとその場を去った。



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 翌日。さて、職人街でやるべき事は二つ。

 まずは今まで忘れてた≪メイス職人≫の店で施設を借りる事だ。


「よく来たな。この店の施設を借りたいならお前の作った武器をまずは見せて見ろ。」

「おう。」

 俺はボアノーズを≪メイス職人≫の店の店主に見せる。


「ふむ。中々だな。これならまあいいだろう。」

 ボアノーズのレア度は2なので、これでいいという事は≪メイス職人≫の店のイベントはレア度ではなく攻撃力あたりの判定っぽそうだ。


「レンタル料は一分一獣石貨だ。超過は許さんからな。」

「はいはい。分かってますよ。」

 そして俺は魔物銅貨を一枚渡して入店する。


 俺はまず施設を一通り確認する。やはりと言うべきか神殿のプライベートエリアに比べると設備や道具の質が良い。

 炉の火の強さもハンマーのグリップの良さも段違いだ。


「さて、時間も無いし急ぐか。」

 俺はポーチから壊れた武具の破片を5個ほど取り出して炉の中に入れる。

 この壊れた武具の破片だが、どうやら数を揃えればベース系の武器へと加工することが出来るらしい。

 もちろん、作成の際にはアレンジタイムも入るので、作り方によっては通常のベース系の武器より強力なものも出来るだろう。

 というか最終的に自分だけの至高の武器を作り出そうと言うならこの段階から作成する必要があるだろう。


 で、そんな事を考えている内にベノムッドの葉をアレンジタイムに使ったベースメイスが完成する。


△△△△△

ベースメイス レア度:1 重量:1 種別:メイス 作成者:ヤタ

攻撃力:100

耐久度:100%

あらゆるメイスの祖になると言われるメイス。自分だけの武器を作り出そう。

▽▽▽▽▽


 出来上がったベースメイスは通常のベースメイスよりも若干紫がかっている気がする。

 さて、ここからが本番だな。


 俺はメニュー画面から一つのメイスを選び出す。

 メイスの名前はクロノコンボウ。素材は黒器の破片、骨クズ、邪念の欠片。それに何かしらの木材。今回は……うん。ベノムッドの枝でいいかな。


 と言うわけで作業開始。


①ベースメイスの持ち手部分を削ってベノムッドの枝で作った持ち手に付け替える。

②黒器の破片、骨クズ、邪念の欠片を一つの器に入れて炉で融かす。

③融かしたそれを冷えて固まる直前にベースメイスにかけて固着する。

④炉に入れて熱し、ある程度熱したところで水に入れて冷やし、ハンマーで叩いて成形する。

⑤それを数回繰り返す。

⑥アレンジタイムとしてベノムッドの葉を焼いて作った灰を振りかけた上で熱し、成形。

⑦仕上げとして鑢で形を整える。


 ふむ。作り方はどちらかと言えばオーソドックスだな。

 外見としてはベースメイスを一回り大きくした上で黒く染めた感じだな。ただ、なんとなくだけど紫寄りの色をしている気がする。

 で、性能としてはこんな感じ。


△△△△△

クロノコンボウ レア度:3 重量:2 種別:メイス 作成者:ヤタ

攻撃力:150

属性攻撃力:闇10

属性攻撃力:毒2

耐久度:100%

生者への恨みによって黒く染め上げられたメイス。内に秘められた彼らの恨みは一体いつ晴れるのだろうか?

紫毒樹の毒が芯にまで浸みこんでいる。

▽▽▽▽▽


 2属性……いや、毒の方は状態異常付与か。それにクロノコンボウそのものの効果じゃなくてベノムッドの素材を使った結果っぽいな。

 それにしても闇かぁ……雑魚はともかく蟷螂竜に効くのか不安になる属性だな。


「さて、付与されている祝福は……っと。」

 俺は武器をボアノーズからクロノコンボウに変更して使える祝福を調べる。

 ふむ。【ダークスイング】に【ベノムスイング】か。効果はそれぞれの属性を強化した状態での打撃。モーション指定が無いから使いやすいな。


ポーーーーーーーーン


『ヤタ様。レンタル終了時間まで残り3分になりました。退出準備をお願いします。』


 と、時間か。

 さて、次は≪酒職人≫の店の方だな。

新武器登場です。

これで4本目ですね。

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