59:樹林回廊下層-4
本日2話目となります。
さて、樹林回廊下層部の外周を一回りして俺は落下地点である湖まで戻ってきていた。
なお、落下地点であるこの湖だが下層部の北と北東を丸々埋め尽くしており、北東方面に進むにつれて徐々に水深が深くなっている。
うん。膝ぐらいまで水場が深くなったところで諦めて引き返したわ。≪泳ぎ≫とか無いし。
「ん?人がいるな。」
で、引き返して水際まで来たところで複数人のプレイヤーが座り込んで何か言い争っているのが見えた。
「あの時お前がミスらなければ下に落ちなかったんだ!」
「ミスをしたのはお前だろうが!」
「くそっ!せっかく新しいアイテムを手に入れたのに死に戻りなんて御免だぞ!」
「文句を言ってないで……」
うーん。どうやら落下原因とかアイテムドロップとかその辺諸々でもめてるっぽいなぁ……おお怖い怖い。
「っつ!誰だお前は!」
口論をしていたプレイヤーの一人がこちらを向く。その眼は血走っており、怒りや焦りの色が見て取れる。
と、同時に他のプレイヤーたちも俺という闖入者を認めると同時にある者は身構え、またある者は抜剣する。というか全員やる気満々ですか。そうですか。
「ここはセーフティポイントだぞ。何で敵が居る……。」
「知るか。やられる前にやってやらぁ……。」
あー、そもそも俺ってばプレイヤーとして認識されて無いのな。
まあいいや。なら早いところ伝えることだけ伝えて自分の行動に戻ろう。
「お前たち。上層部に戻りたいのならあちらの方にある樹の中から戻れるぞ。」
俺はできる限り抑揚のない喋り方をする。
というかお前らそんなに驚いた表情をするんじゃねえよ。傷つくだろうが。
「ここはアンデッド共の巣窟だ。精々気をつけろよ。」
「ま……」
うん。そういう表情をするなら俺はもう知らん。上に戻る場所までの正確な案内とかは無しだ。
そして俺は俺を呼びとめようとするプレイヤーを無視して踵を返し、セーフティポイントの外に出た。
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さて、湖から離れたところでまたスケルトン軍団である。
近接オンリーなら相手をしやすいのだが、スカルヘッドや弓スケルトンみたいな遠距離型や、鞭スケルトンや両手槍スケルトンみたいな中距離型が混じると途端に戦闘難易度が跳ね上がるんだよなぁ。こいつら。
「まあ、文句を言ってもしょうがないか。」
俺は目の前に居る三体の鎌、格闘、鞭のスケルトンを目標として定める。
プレイヤーが扱う分の武器傾向としては鎌は中距離範囲型の斬撃武器。格闘は至近連打型の打撃武器。鞭は中距離高速一点攻撃型の斬撃武器だったな。
となると予想される連携は……うん。分かり易いな。
「じゃあ行くか。」
俺はボアノーズを引き抜き、腰を低く落として構える。
そしてスケルトンたちが全員あらぬ方向を向いているところで一気に駆け出し、
「『まずはテメエだ!』【スイングダウン】!」
≪大声≫で動きを止めつつ【スイングダウン】を起動。一番手近にいた鞭スケルトンの後頭部にメイスを叩きつける。
辺りに鈍い音が響き渡り、その音に他のスケルトンが俺の方を向き、俺を敵として認識。次の瞬間には格闘スケルトンがジャブを放とうと構えをとり、鎌スケルトンが俺の首を刈るために鎌特有の大きなモーションをゆっくりと始める。
このタイミングなら格闘スケルトンの攻撃に対応しているタイミングで鎌スケルトンの攻撃が俺に到達するだろう。
だが、
「甘い!甘すぎるぞ貴様ら!!【ストライクスロー】!」
その程度はもちろん予測済みであるため、俺は左手で鞭スケルトンの頭を握ってそのまま格闘スケルトンに向かって鞭スケルトンを押しつけ、押し付けた勢いによって二体は一緒に倒れこむ。
と、同時に俺自身は鎌スケルトンの方に移動。鎌の内側に入って鎌スケルトンの攻撃を避けると同時にメイスで攻撃しようとするが、これは鎌の柄で防がれる。
「ならこうするまでだ。」
鞭スケルトンと格闘スケルトンはまだ立ち上がっていない。
俺は左手で鎌を抑えると同時に鎌スケルトンの首へと口を回して歯を突き立て、そのまま噛み砕いてやる。いかにスケルトンといえどもこうなってしまってはもう動けない。
「つっ!」
と、ここで俺の背中に鋭い痛みが走り、その痛みの原因を俺は首を動かして急いで探る。
見えてきたのは鞭を振るった後の構えを見せている鞭スケルトンの姿。加えて俺に向かって駆け寄ってくる格闘スケルトンの姿。
「って拙い!」
俺は急いで残り二体の方を向き、鞭スケルトンと俺の間に格闘スケルトンを挟むような位置に移動する。
俺の動きに鞭スケルトンは追撃を止め、俺は迫りくる格闘スケルトンへの迎撃としてしゃがんでジャブを避けると同時に腰の骨に向かってメイスで突きを繰り出して体勢を崩し、続けて格闘スケルトンの頭を掴み、
「【ストライクスロー】!」
俺は地面に向かって格闘スケルトンの頭を叩きつける。そしてそれと同時に前方に向かって駆け出して鞭スケルトンに接近する。
鞭はそのスピードが厄介な武器であるが、加速にはそれ相応の距離が必要になる。それ故に、
「この距離でお前が出来ることは無い。」
俺はメイスを振り上げて鞭スケルトンの顎を揺らすように殴りつける。
さあ、一気に決めようか。
俺は鞭スケルトンの左手を掴み、アンダースローの形で格闘スケルトンに向かって鞭スケルトンを投げつける。
「「!?」」
鞭スケルトンと格闘スケルトンは絡み合って倒れる。
俺はそこに接近。二体のスケルトンの前でメイスを頭上に振り上げ、
「【スイングダウン】!」
祝福によって強化されたメイスを振り下ろして二体のスケルトンを同時に粉砕する。
二体のスケルトンは軽く呻き、そして動かなくなる。戦闘終了だ。
ふう。それにしても下層部だとこれがデフォルトの戦闘だからな。経験値稼ぎにはいいけど疲れるわ。
さて剥ぎ取り剥ぎ取り……おっ、技能石が出たか。まああれだけの数のスケルトンを倒してればそりゃあでるよな。うん。
ただ、今は必要なスキルが思い付かないし、使うのは後回しでいいな。
そして、俺は呼吸を整えてから脱出地点へと向かい始めた。恐らくだがもうすぐ夕暮れだろう。さて帰ったら王都まで戻って何か作るか。