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56:狩猟神の神殿-3

「あー、見事に戻されたな。」

 俺の目の前には狩猟神の神殿の広間が広がっている。


「本当にそうですね。」

 続けて、俺の後方で光が集まり、中からミカヅキが出てくる。その顔色はデスペナの影響か少々悪い。


「とりあえず、神殿前の広場に移動するか。」

「ですね。少々気になる事もありますし。」

 そして俺とミカヅキは揃って神殿前の広場に移動する。



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「で、訊いておくがミカヅキはまたすぐに(・・・)アイツ……俺は蟷螂竜って呼んでいるが、アイツに挑むつもりか?」

 俺は若干どすの利いた声でミカヅキに問いかける。


「冗談はよしてもらえますか。いずれは挑みますが、いますぐに挑んでも返り討ちに会うだけに決まっています。」

 ミカヅキは俺の事を睨み付けながらそう返す。

 ん。これだけの気迫を持って言い返せるなら心が折れてなさそうだな。


「それよりも私には気になっていることがあります。」

 ミカヅキが右人差し指を立てながら喋りだす。


「あのボス……蟷螂竜との戦いのエリアに入る前に感じたあの殺気。あんなものがゲームであってもいいと思いますか?」

 殺気……ああ、あれか。確かにあれは凄かったな。

 ただ、こうも考えられる。


「一応、俺たちのレベルが足りなかったからそう言う風に感じた。とも考えられるが?」

「本気で言っていますか?」

 ミカヅキが先程よりも遥かに強く睨み付けてくる。

 まあ、俺自身そう思ってないしな。


「私はこう考えます。」

 ゆっくりとミカヅキが口を開く。


「HASOはゲームです。なので多少の殺気ならば先程ヤタが言った理由で説明が付くとゲームには詳しくないですが私も思います。ですが、気の弱い者が感じ取れば最悪その場で卒倒しかねない程の殺気なんてゲームでは有り得ません。そんなものがMMOにあってはプレイヤーが離れていくだけです。」

 ふむ。筋は通っているな。


「それにこれは又聞きですが、HASOというゲームはPS次第で武器さえしっかり揃っていれば全てのボスを倒せるゲームとして設計されているという話を眉唾物として聞いたこともあります。そんなゲームであそこまで理不尽なものが存在しているとは考えづらいです。」

 なるほどね。


「ならお前はどうしてあんな殺気が放たれたと思う?」

 俺は予想は付いているがミカヅキに問いかける。


「決まっています。」

 ミカヅキは一度口を閉ざし、ゆっくりと次の言葉を出し始める。


「『電子の女帝』が何かをしたに決まっています。」

 ま、そう考えるのが当然だよな。

 だがミカヅキの言葉は終わらない。


「そもそも電子の女帝の行動には解せないことが多すぎるんです。」

「?」

「彼女が愉快犯である事は理解しています。ですが、愉快犯には愉快犯なりに事件を起こす理由があるはずです。」

「つまりは今回の件に関しても電子の女帝なりの理由があるはずだ。と?」

 俺の言葉にミカヅキが頷く。

 うーん。しかし電子の女帝の行動理由ねえ。

 新しいプログラムの実験とかはメッセージで言っていた気はするが、そう言えばそのプログラムが具体的に何かと言うのは言っていなかった気がするな。


「ただ、何のプログラムを仕込んだか分からない事には進展し無さそうな話だな。」

 しかし、いくらミカヅキの言葉に筋が通っていようが現状では打てる手が無さそうな話である。

 俺、クラッキングとか機械があっても出来ないし、それはミカヅキも同じだろう。


「それは分かっています。ですが、その何か次第ではこの先の攻略が相当厳しい事になる可能性も考えられます。だから、心に留めておくぐらいはしておいてもいいと思います。」

 心に留めておく。か。まあ、それが適当な所か。


「じゃ、この話はこれぐらいにしておいて今後はどうするよ。」

 俺は話を切り上げてミカヅキに問いかける。


「一先ずは新しい武器と防具の入手。それにスキルのレベル上げが必要だと私は思っています。」

「まあ、当然そうなるよな。」

 まあ、あれだけの実力差が有るとな。それしか取れる手が無い。


「なら俺もしばらくは樹林回廊の下層でスケルトン相手にレベル上げをするか。」

「樹林回廊の下層ですか?」

 ミカヅキがどういう事?と言った顔で話しかけてくる。

 そう言えば樹林回廊の下層について誰かに詳しく説明したことは無かったな。


 俺はミカヅキに樹林回廊の下層について説明していく。

 あそこは大量のスケルトンが湧くからキツいけど、その分稼ぎはいいと思うんだよな。多分丸一日籠ればアイテムポーチが満杯になる。


「なるほど。それなら私も機会を見て行ってみようと思います。」

「おう。と言っても最初は脱出路が何処にあるかを捜すべきだけどな。」

「ですね。そうさせてもらいます。」

 そして俺がミカヅキとのPTを解散しようとしたところで、


ポーーーーーン!


「ん?」

「メッセージですね。」

 メッセージが二人同時に届く。

 そのメッセージは送信者不明でタイトルも付いていなかった。そして出だしは、


『システムメッセージ

 このメッセージはシステムプログラムによって現在HASO内に居る全プレイヤーに送られています。』

 っつ!これはまさか……

 俺がミカヅキの方を向くとミカヅキも顔色が悪くなっている。

 俺はゆっくりとメッセージを読み進めていく。


『プレイヤー諸君久しぶりだ。そう、私だ。電子の女帝だ。

 今回はこのゲーム内で4種類のボスが討伐された事を記念してメッセージを送らせてもらった。』

 4種類……という事はウルグルプ、ベノムッドの2種類に東の海岸のボスに……後は砂浜、丘陵地帯、北の山のいずれかか。


『4種類のボスが討伐されたことによって諸君らはさらに現実に近づいた。

 と言うわけで現実に近づいたのを実感してもらうために『HASO掲示板』と言うものをシステムに加えさせてもらった。

 攻略にも交流にも存分に生かしてくれたまえ。』

 ……マジで?掲示板ってアレですか。某大型掲示板的な……っとまだ続きがあるな。


『追伸:

 なお、掲示板の管理人は私なので、一部の規制対象ワードが含まれた発言はすぐに削除する。で、あまりにも発言が削除されまくるプレイヤーは掲示板を利用できなくなるので注意するといい。』

 ……。電子の女帝って……暇なのか?

 というか、絶対暇だろ。でなきゃ掲示板の全部を見続ける時間があるとは思えない。


「その……ヤタ……。」

「あー、さっきの話は掲示板には出さない方がいいと思う。何となく削除対象な気がする。」

「ですよね……。」

「とりあえず、俺たちは俺たちのやれることをしよう。」

「まあ、そうですね。」

 そして俺とミカヅキはPTを解散して別れた。

電子の女帝さん登場2回目です。

本当に彼女は何を考えているのでしょうか?


09/06 誤字訂正

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