54:樹林回廊-4
「うし。狩猟蜂の蜜ゲット。」
夜明け前。再び樹林回廊に入った俺は前回と同じようにモンスターを倒しながら、前回とは違い孤立した枝とそこに行くための道を捜し、≪掴む≫を活用して孤立した枝に移動してアイテムを採取する。
ただまあ、当然と言うべきか何と言うべきか今の採取ポイントで3か所目なのだが狩猟神の蜜月は手に入らない。手に入るのは悉く狩猟蜂の蜜である。
「ま、1か所目で手に入ったのがおかしいレア度とリスクのアイテムだしな。」
俺は採取を完了した所で移動用の蔓に捕まって移動する。
「『あぁ~~~あああぁぁぁ~~~~~!』」
ただし、移動の際には≪大声≫を使用して周囲の敵を威圧しながら移動する。前回の様な無様な落ち方をまたするのは御免だしな。
決してター○ンごっこをしたいわけではない。決してだ。
と、移動しながら周囲を見渡して状況を観察する。
どうやらあの攻略組連中も樹林回廊の中に入ってきたようで戦っている姿が時折見られる。
が、プレイヤー二人が横に並ぶのが限界の道幅で集団戦を行うのはかなり厳しい。というかまず無理だ。見ている内に正面はプロレスベアのジャーマンとパイルドライバーで消し飛ばされ、後ろからはブラッドスパイダーの投網攻撃。おまけに道の外からスレッドモスの一本釣りが行われて次々と下に落とされていっている。
というかプロレスベアの奴パイルドライバーまで使うのか。あのパワーでやられたらそりゃあガチタン以外は……というかガチタンでもキツイよなぁ……
集団でいるせいで逃げ場もねえし。
「ちくしょおおおぉぉぉ!!」
お、あの刀使いも下に落ちたか。
下で頑張ってスケルトンの相手をしてくれたまえ。
しかしまあ樹林回廊で集団戦闘をするなら今までのエリアと違って敵を出現位置から戦いやすい場所にまで引っ張るプル役がかなり重要になってくるよな。
特にウタタネビートルとかはあの狭い通路の上でやり合ったら確実に死ぬわ。俺なら絶対に御免こうむる。
「よっと。」
そして俺は蔦を使った移動を終えて無事に着地。
ま、俺は基本ソロなんで気ままにやらせてもらうかね。
そして俺はさらに奥地へと足を進める。
--------------------
「あそこだけ少し雰囲気が違うな。」
4か所目の孤立した枝の採取ポイントでアイテムを採取した俺は目の前に見えている樹から漂う妙な雰囲気に眉を顰める。
具体的に何が違うと言われると困るのだが、何となくあの樹だけ漂っている空気が悪い気がするのだ。
「うーん。もしかするとあそこが目的地か?」
ここでの目的地。つまりは灯台の灯を奪った3体の内の1体がもしかしたらあそこに居るのかもしれない。そうでなくても何かしらの情報はありそうである。
「行ってみるか。」
俺は蔦の張りと方向を確認して今居る場所からあの樹の近くまで移動できることを確認して移動する。
「『あぁ~~~あああぁぁぁ~~~~~!』」
そしていつも通りの≪大声≫を活用しながら無事に着地。
「何をしているんですか。」
と、着地した俺に聞き覚えのある声が掛けられる。
「ミカヅキか。いやちょっと特殊な場所にある採取アイテムを回収していてな。その帰りに念のために≪大声≫で安全性を高めているんだよ。」
「まあ、理由があるならいいですけど。それよりも気づきましたか?」
ミカヅキが一瞬呆れた様子を見せるがすぐに体面を整えて一本の樹を指差す。
それは俺が妙な雰囲気を感じた樹だった。
「私は少し前にあれに気づき、こうして地道に普通の道を通ってここまで来たのですが、どうやらヤタの通ったルートの方が圧倒的に近道だったようですね。」
ミカヅキがジト目で俺を見てくる。
その目はそんなルートがあるなら教えろと言わんばかりの目だ。
ただなぁ……
「言っておくが俺の通ったルートは≪掴み≫を持っているのが最低条件だぞ。おまけに持っていても通れるとは限らないし。道中ジェットコースター的な意味でかなり怖いぞ。」
「……。」
あ、ミカヅキがうって言う顔をしてる。なるほどミカヅキはジェットコースターが苦手なのか。ニヤニヤ。
「は、早いところ行きますよ。」
「へいへい。」
俺は多少調子に乗りつつもミカヅキに付いて妙な雰囲気のする樹の中に入っていく。
----------------
樹の中には明らかに漂う雰囲気の違う一本の道が存在していた。
「まるで、神社の参道ですね。」
ミカヅキの言葉が示すようにその道は今までの枝そのままの道からきちんと整備され、石畳まで敷かれていた。
おまけに朱塗りの鳥居も何十個と建てられており、まさしく神社の参道であった。
「行くか。」
「ですね。」
俺とミカヅキはゆっくりと階段を上り始める。
一段階段を上る度に周囲に暗い雰囲気が漂いだす。
気のせいかもしれないが鳥居の色も徐々に黒ずんできている気もする。
だがそれでも俺とミカヅキは一歩ずつ歩を進めていく。
「見えましたね。」
先を行くミカヅキが何かが見えてきたのか口を開く。
そしてミカヅキの隣にまで移動した俺もそれを見る。
それは鳥居だった。
しかし、今までの鳥居と違ってその色は完全な黒に染め上げられ、触れるのも躊躇うほどの瘴気とでも評すべきものを纏っている。
鳥居の間に走っているのは今までに何度も目にしたボスゲートのライン。
しかし、その色は目まぐるしく赤から紫へ紫から青へと変わり、青に染まってもすぐに紫、赤、血赤と色が変化していく。大体一つの色に留まっているのは一秒ほどだろう。
「あーミカヅキ。」
「流石に私もこれ相手に一人で挑む気は起きませんよ。」
だが、黒く瘴気を纏う鳥居や、目まぐるしいゲートの変化以上に俺たちには感じるべき事がある。
それはゲートの向こう側から漂う純粋な殺気。
ゲーム。つまりは遊びであるにも関わらず心構えも無く受ければ意識を手放したくなりそうな程濃密な殺気に俺の手は汗ばみ、思わず半歩ほど下がってしまっている。
「だが行くしかない。か。」
「ですね。」
ミカヅキからPT申請が送られ俺はそれを受諾する。
そして俺とミカヅキは鳥居をくぐった。
09/04 誤字訂正
09/05 誤字訂正