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50:樹林回廊-3

 さて、プロレスベアを倒した俺はそのまま樹林回廊の奥へと進んでいく。

 ただこうして進んでいる中でモンスター以外にも時々気になるものがある。


「またか。」

 俺の目の前にあるのは一本のプレイヤーが乗れる太さの枝とその枝の先端にある採取ポイント。だがしかしその枝と幹との繋ぎ目には穴が開いておらず、別の枝と繋がっているわけでもない。つまりは採取ポイントがあるにも関わらず完全な孤立状態にある。


 最初はまあ、設定ミスかと思っていたがこうして大量に存在しているのを見ていると何かしらの行く方法が存在しているのかもしれない。と思えてくる。


「うーん。」

 俺は孤立した枝の周囲を注意深く見渡してみる。

 孤立した枝の周囲にあるのは掴むのにちょうど良さそうな太さの枝に、他の木の枝から垂れ下がった蔓ぐらいで、敵の姿に至っては稀にスレッドモスが飛んでいるぐらいだ。


「……。」

 俺は再度熟考。自分の取得しているスキルでどうにかできるかを考える。

 そして一つの方法を俺は閃く。


「これがいいかな。」

 俺は手近な幹から生えていた小ぶりな枝を掴む(・・)。もちろん、普通は背景でしかないこのような枝は掴めないのだが、ここで俺は自分の取得していたスキルの一つ≪掴む≫の効果を思い出す。

 ≪掴む≫の効果は敵や()を掴むこと。つまりはこのような特殊なものを掴むために≪掴む≫のスキルは存在していたのだろう。


「よっと。」

 俺は枝を何度か引っ張ったり、力を込めても折れないかを十分確かめると両手で掴んで釣り下がる。

 足元には今、風が通り抜ける感覚しかない。仮に手に持っている枝が折れれば俺は下に落ちるしかないだろう。


 俺は周囲に目を巡らし、手の届く範囲に次の枝が無いかを探り、次の枝を見つけると雲梯の要領で移動する。

 しかしこれ、地味に握力を消耗している感じがするな。俺は≪握力強化≫に≪筋力強化≫を持っているからいいが普通のプレイヤーが同じことをやるのはかなりキツそうだ。


 と、枝を5,6本ほど雲梯の要領で移動していくと、同じ要領では手の届かなさそうな場所、距離にして2mちょっと先に次の枝が出てきてしまっていた。

 うーん。ここで戻ってもいいんだけど。それは癪だしなぁ。かと言って振り子のように反動をつけても片手をこっちの枝に残している限り距離的に届くとは思えない。

 となればだ、


「1……2の……」

 俺は枝を始点に体を前後に振るわせていく。

 枝からはミシミシと嫌な音がしているが、手に伝わってくる感覚的にやり過ぎなければ大丈夫だろう。

 そして十分に勢いがついたところで……


「3!」

 俺は両手を放してその身を空中へと躍らせる。


ガシィ!


 そして体感数秒後。実際には1秒にも満たない時間の後俺は目標とした枝に両手で掴まり、反動を下手に殺したりせずに流れに任せて勢いを殺す。

 うん。すげぇ怖かった。身体が完全に空中に浮いて、空気を体で切ってる感覚がして、走馬灯こそ浮かばなかったけど何だか時間が圧縮されたような感じがしたわ。正直、何度もやりたいものではない。


 でまあ、再び雲梯での移動再開。

 再び5,6本ほど枝を渡っていくと今度は蔓の様な物が目の前に垂れ下がっていた。

 俺はその蔓を握ったらどうなるのかを蔓の先や、始点となっている枝の場所を見て確認する。

 どうやらこの蔓を握るとター○ンの様に移動して、始点を挟んで点対象の位置にある孤立した枝に行きつけそうである。

 うん。それならば古来よりの流儀に従って移動しようじゃないか。


「よし。」

 俺は片手で枝を掴んだまま蔦をもう片方の手で掴み、足を幹に当てる。

 そこから俺は息を吸い込むと枝の方の手を放し、幹を勢い良く蹴る。そして、


「『あぁ~~~~~~ああぁぁ~~~~~~!!』」

 ≪大声≫も使って声量を大きく上げた状態で声を出しながら勢いよく滑空していく。

 先程と違って蔦と言う安心できる材料があるためなのか身体に当たる風も気持ちいい。

 そして振り子の原理に従って徐々に勢いが無くなったところで手を放し、無事に孤立した枝に着地する。

 いやー、さっきのと違って本当に楽しいわこれ。見た感じ帰りも同じ要領で移動することになりそうだし。帰りも楽しみだわ。


「と、折角来たんだし回収しないとな。」

 俺は枝の先端にある甘い香りが漂う採取ポイントに近づいて採取を行う。どうやら特殊な場所にある関係で三回採取できるようだ。

 そしてこんなアイテムが拾えた。


△△△△△

狩猟蜂の蜜 レア度:3 重量:1


狩猟蜂と言う狩猟神の神殿近くに住む固有種の蜂が巣に貯めこむ蜜。一般的な蜂蜜よりも甘みも味わいも一ランク上の蜂蜜である。

食べると満腹度+10%

▽▽▽▽▽


△△△△△

狩猟神の蜜月 レア度:7 重量:1


狩猟の神が愛してやまない極上の蜂蜜。その黄金色の輝きはまるで天に浮かぶ満月のようであり、その味はまさしく天上の物である。また固まればその硬度は鋼すら凌駕する。

※このアイテムはデスペナルティを受けた際に必ず消滅します。

食べると満腹度+100%

▽▽▽▽▽


 えーと、狩猟蜂の蜜はまあいい。ちょっと採取が面倒なだけで普通のアイテムだろう。2個出たしな。たぶん、こういう場所に行きつく方法は俺の通ったルート以外にもあるだろうし。

 だが問題は狩猟神の蜜月だ。どう考えてもこれはレアアイテムだ。というかレア度7とか見た事も聞いたこともねえよ。おまけに持っている時に死んだら必ずなくなるってそんなアイテム有りなのか。

 もうプロレスベアの腕どころの話じゃないな。急いで神殿に戻って確保するべきだ。


 俺は採取を終えると急いで戻る用の蔦に移動して掴まり、移動を開始する。

 そして、通常の枝通路が見えて来て飛び移るために手を放した瞬間。


「ギチュウ!!」

「へっ?」

 スレッドモスの鳴き声と共に枝に向かっていた俺の体に軽い衝撃が走った後、俺の体が後ろの空中に向かって引かれ始める。


「なに……が……」

 慌てて後ろを振り返った俺の目に見えたのは俺に向かって糸を吐きかけたであろうスレッドモスの姿と足場一つ無い空中。

 おまけに、蔦を使った高速移動の直後だったためか、スレッドモスに引き寄せられてはいるがその勢いは弱くてスレッドモスの下に俺の身体が到達することは無さそうである。

 つまり、スレッドモスを利用して足場に戻る事すら叶わない完全に詰みの状況である。


「ちくしょおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 そして俺は樹林回廊の下に広がる闇へと向かって堕ちて行くのであった。


 願わくば下に落ちる=即死でない事を祈っておこう。


△△△△△

Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.9 ≪メイス職人≫Lv.6 ≪握力強化≫Lv.7 ≪掴み≫Lv.8 ≪投擲≫Lv.8 ≪噛みつき≫Lv.8 ≪鉄の胃袋≫Lv.5 ≪筋力強化≫Lv.7 ≪嗅覚識別≫Lv.7 ≪大声≫Lv.7 ≪嗅覚強化≫Lv.5 ≪方向感覚≫Lv.4


控え:≪酒職人≫Lv.6

▽▽▽▽▽

レアすぎるアイテムってどう使うか悩みますよね。まあ扱うにはそれ相応の腕が必要になるのですが。


なお、蜜月とは本来ハネムーンを表す言葉で物体の名称ではありません。念のため。


09/01誤字訂正

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