49:樹林回廊-2
俺は樹林回廊を敵と戦いつつ一人で彷徨い歩いていた。
敵は今までに比べて明らかに強いが、まあ1対1なら問題なく対応できるレベルである。
で、彷徨っていて気付いた事になるが、樹林回廊では枝と枝の繋ぎに関しては細かい枝が複雑に絡み合う事によって繋がれるという構造になっている。
そしてこの構造が地味に問題で、枝と枝の繋ぎ目には一見して分かりづらい穴が有ったりするので、俺は出来る限り繋ぎ部分で戦うのを避けるようにしている。
いやまあ、枝の上で戦うのも怖いから、俺とミカヅキしか今はプレイヤーが居ないのをいいことに出来る限り広間におびき寄せる様にしているけどな。
さて、そんな樹林回廊だが現在確認できているだけでも出現するモンスターはスレッドモス含めて4種類。外見としてはそれぞれ蛾・蜘蛛・カブトムシ・熊である。
まあ蛾ことスレッドモスは置いておいてそれ以外のモンスターについて語っていこう。
まず蜘蛛ことヴァンプスパイダー。
見た目としては黒い体に赤い牙をもった巨大な蜘蛛で、こちらの動きを止める糸を投網の様に放つ攻撃と吸収効果を持った牙による噛みつき攻撃を有するモンスターである。
が、こいつの厄介な点は投網や吸血ではなくその出現方法である。
と言うのもこいつ等はプレイヤーが枝の上を歩いているとどこからともなく尻から出す糸を利用して「つつー」と降りてくるのだが、その際にプレイヤーの前ではなく頭上に降りてくることもあり、そういう時は非常に心臓に悪い。俺なんかは思わず「ひっ!」と叫び声を上げてしまったものである。
まあ、その後は全力でフルボッコにしたけどな。【ウルフファング】を使って噛みついたらクリーミーで美味かったわー。
肝心のドロップに関しては糸と牙は確認した。
で、次がカブトムシことウタタネビートルである。
見た目は水色の甲殻を持ったカブトムシである。ただし、真正面に立った場合の横幅にして2.5m奥行きは5mオーバーという超巨大なカブトムシである。
当然その甲殻は堅く、並の武器では傷一つ付かないのは確実であり、角の一撃は樹林回廊到達直後で機動性重視の防御力では最悪一撃死もあり得るレベルである。現に俺も一撃掠っただけで5割以上削られた。
おまけにこいつは必ず枝の上に出現し、こちらが攻撃するまでは寝ているのか出現した場所から一切動かないと言う厄介この上ない性質を持っている。
おかげで戦う時は≪投擲≫からの全力逃走で広間に連れ込まないと戦っていられないレベルである。
なお、ドロップ品については甲殻が剥ぎ取れた。良い防具になりそうである。
さて、最後は遠目に確認しつつも通路の伸び方の関係で戦う機会の無かった熊である。外見としてはツキノワグマにマスクとパンツの様な模様の毛が生えた熊だ。
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「グルルルル……。」
俺の目の前には一頭の熊が立っている。戦闘場所は狭い枝の上。ここで戦うとなれば回避場所は後ろか攻撃をうまくすり抜けて熊の後ろに回るしかないだろう。
「グラァ!」
熊が右腕を真横に大きく伸ばした状態で突進してくる。モーションとしてはラリアットに近いだろう。
俺はそのモーションを見て後ろに避けるのは無駄だと判断して腕の下を潜り抜ける様にして片足が枝からはみ出しつつも熊の後ろに潜り込む。
「【スイングダウン】」
「ぐまっ!?」
そして、すり抜けた所で飛び上がって熊の後頭部に【スイングダウン】を当てる。
熊が少しよろめきつつもゆっくりと俺の方に振り返る。その顔は怒りに燃えている。
うーむ。後頭部への攻撃が妙なスイッチを入れたかもしれん。何を言ってももう遅いが。
「グラァ!!」
熊が今度は両腕を広げて俺に掴みかかろうとする。
今度は突進ではなく、踏込での攻撃なので俺は後方への回避を選択。難なく避けることが出来、反撃として頭を連続で殴打してやる。
「グッ……」
「なっ!?」
が、ここで熊は俺の攻撃などまるで効いていないと言わんばかり動き出し、俺の腰を両手で掴む。
そして次の瞬間上下が反転するとともに全身に強い衝撃が走ると共に解放される。
「一体何が……っつ!」
「グマッ!!」
俺は自分が何をされたのかを理解する暇も無く反射的に枝の上を転がって熊の追撃として放たれたボディプレスを回避する。
ここで俺は自分に何をされたのかを理解する。
恐らくだがこの熊が行ったのはプロレス技の一つ。ジャーマンスープレックス。もしくはその亜種だろう。
俺は自分のHPゲージを確認する。するとHPゲージは今の一撃で2割は減っていた。派手な動きに見合う良い威力である。
だがまあ、やられたのがジャーマンスープレックスでよかった。ここでもしジャイアントスイングなぞやられた日にはほぼ確実に枝下行きだ。
ま、そんな事はさておいてこの熊の大体の動きと性質は掴めた。恐らくこの熊は軽めの攻撃ならばいくら喰らっても動き続けられるスーパーアーマー持ちでそれを生かす形でプロレス技に基づいた攻撃を行うのだろう。
ならば、そのスーパーアーマーを生かせない攻撃をし続ければいい。
「グラァ!」
熊がラリアットの形で突っ込んでくる。俺はそれを横をすり抜ける形で回避。後頭部に【スイングダウン】を放って距離を取る。
振り返った熊が今度は両腕で抱え込むように腕を振るってくる。俺はそれを身を反らして回避すると祝福を発動。
「【ウルフファング】!」
【ウルフファング】の効果によって俺の口は熊の首へと伸びていき、その喉を噛み千切って怯ませると共にダメージを与える。
うむ。少々癖は強いが歯ごたえがよくて旨いな。
そして攻撃が終わったところで熊の怯みが終わる前に俺は再び距離を取る。
後はまあ繰り返しで終了である。
ふう、ウタタネビートルに比べればBPの消費は重くても精神的にはだいぶ楽だな。
さて、注目のドロップ品だがこんな物が手に入った。
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プロレスベアの手 レア度:3 重量:1
プロレスベアの太くてたくましい手。珍味として有名なその手には様々な物がしみ込んでいる。
▽▽▽▽▽
……。神は言っている。『この珍味を存分に味わいなさい』と。
後でコッチミンナに渡して食べるとしよう。
くまー を初め樹林回廊の敵はどいつもこいつも厄介です。