48:樹林回廊-1
新ダンジョン突入です。
翌朝。おみくじで凶を引いた俺はもう一つのゲートを抜けた。そして、その先で俺を待っていたのは巨大な樹木の枝がそのまま通路になり、幹の中がくり貫かれて広場になっているというエリアだった。
敢えて名称を付けるなら……そうだな。樹林回廊と言ったところか。
さて、この樹林回廊だが、突入してすぐに思ったのが仮に枝から落ちた場合にはどうなるのだろうかと言う疑問である。
まず樹林回廊の枝は幅が3m〜5mほどある。これは普通に移動する分には問題の無い幅だが、柵の様に気の利いた物は無いので、仮にこの上で戦闘するとなれば中々に厳しい事になる広さでもある。
そして肝心の枝の下だがどこまでも黒い闇が広がっており、底の様子を窺うことは出来ない。HASOに落下ダメージがあったかどうかは覚えていないが、もしあるならば落ちれば即、死に戻りな気がする。なんていうかこういう時はデスゲームでなくてよかったと本当に思う。
なお、上に関しては樹木によって日差しが遮られ、木漏れ日が射し込む程度のため、西の森と同じでどちらかと言えば暗めである。
「さて、まずは一通りの探索だな。」
俺は枝の下から前に視線を戻してまずは目の前にある幹の中に入っていく。
幹の中は木々特有の心地よい匂いに包まれている。が、
「キチュイイイィィィ!」
その匂いを楽しむ暇も無く上から極彩色の翅を持った一匹の巨大な蛾が俺の目の前に現れる。
「さて、樹林回廊での初戦闘だな。」
俺はボアノーズに戻した武器を構える。
「キッチュ!」
蛾が身構えるのを見て俺は咄嗟に横に跳ぶ。
そして次の瞬間俺がさっきまでいた場所に向かって蛾の口から糸が射出され、射出された糸は壁面にくっつく。
ここで思い出されるのが西の森で遭遇したイトキャタピラァの糸だ。アイツの糸もこの蛾の糸と同じで粘着質の糸だった。つまり、
「コイツはイトキャタピラァの成長した姿ってことか!」
そう言う事なのだろう。
俺は蛾が外した糸を切り離して捨てるのを確認すると接近。蛾は床よりも多少高い所に居るので少し跳びつつボアノーズを振り上げて蛾に当てる。
俺の攻撃に蛾は少しよろめく。がすぐに体勢を立て直して鱗粉を撒き散らしながらこちらに向かって突進してくる。
「おっ……ぐっ!?」
距離があったために俺は突進は難なく避けることが出来た。が、回避した直後に反撃できるように出来る限り紙一重で避けるようにしたのが災いし、俺は蛾の鱗粉を少し吸ってしまう。
すると途端に俺の動きが鈍くなり、ステータスを確認すると鈍化のステータス異常に罹っているのが確認できた。
どうやら、こいつは粘着質の糸と言い、この鱗粉と言い、徹底的にこちらの動きを鈍らせるつもりらしい。というかHASOスタッフは間違いなくプレイヤーを枝の下に叩き落すつもりだ。
もし、糸が命中した後の行動がイトキャタピラァと同じで場所が幹の中じゃなくて枝の上なら確実に落下コースじゃねえか。
「キチュアアアァァァ!」
と、そんな事を考えているうちに突進が終了して再び糸を射出してきたので今度はワザとそれを左腕で受ける。
「やっぱりか!」
そして次の瞬間、蛾は糸を巻き取って俺を自分の方に引き寄せつつ自分の周囲に大量の鱗粉を撒き散らす。
ただまあ、俺は既に鈍化の状態異常を喰らっている。なのでやる事はとても単純。
普段よりも振りが遅くなっているのを確認し、それに合わせたタイミングで【スイングダウン】を発動。丁度引き寄せられて俺に向かって口を開き、噛みつこうとしている蛾の頭を【スイングダウン】で叩き潰す。
「ギチュウゥ……」
「フッ!」
頭を殴打された蛾が床に墜落するのを見つつ俺は着地し、蛾が再び飛んで上に移動しようとしたところで≪噛みつき≫を使って追撃。翅を切り裂いて落とす。
そしてそこで蛾は小さく二、三度翅を動かして沈黙する。
どうやらこれで倒したようだ。俺は剥ぎ取り用ナイフを取り出して蛾の体を突く。
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スレッドモスの糸 レア度:2 重量:1
スレッドモスから採れる強靭で細い糸。様々な用途に用いることが出来る。
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どうやらあの蛾はスレッドモスと言う名前らしい。
スレッド……確か英語で糸だったか。うん。イトキャタピラァの成長後で確定だな。
剥ぎ取りを済ませた俺は広間の探索を進める。
どうやらこの広間から上下左右に進むことが出来るようで、先程俺が入ってきた入口以外にもどちらかと言えば上に向かう枝へとつながる道。下に向かっている道。普通に水平方向に進む道などが合計で4本ほど存在している。
当然ながら現時点ではどのルートが正しいのかなどは全く分からないので俺は適当に道を進むしかない。
また、広間の中央にはアイテムが採取できるポイントがあったので俺はそこでアイテムを採取する。するとこんなアイテムが手に入った。
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丈夫な木材 レア度:2 重量:2
その名の通り丈夫な木材。その汎用性、応用性の高さは素晴らしいものがある。
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まあ、これもまた何か使えそうではある。
で、広間の探索を済ませた所で俺は数ある道の中から水平方向に延びる道を選んで歩き出した。
08/31 誤字訂正