47:狩猟神の神殿-1
門をくぐった俺たちの前にさらに門があった。
いや、何を言っているのか分からないだろうが事実として何かの術的な要素でも込められていそうな奇妙な文様が描かれた門が目の前にある。
「近づいてみますね。」
「あ、うん。」
ミカヅキが門に近づく。するとイベントが始まったのか俺たちの体の制御権がシステム側に移譲され、俺もミカヅキもこのエリアに入ってきた側を向かされる。
振り向いたそこには西の森の中で見た光る何かが以前よりも強い光を放って浮いていた。
光が門へと近づいていき、紋様に触れた所で紋様に吸い込まれるように消えていく。
ガコン!
光が完全に吸い込まれた所で門に描かれた紋様が消え去り、ゆっくりと門が開かれていく。
恐らくだが、灯台のイベントを見ていないと紫葉樹改めベノムッドを倒してもここで文字通りの門前払いを喰らうのだろう。
と、門が完全に開かれてその奥の光景が明らかになる。
「お待ちしておりました御使い様。」
門の奥に居たのは一人の少女だった。
少女は巫女服に和弓と思しき弓を背負い、腰には祭器として使われていそうな剣を佩いている。そして少女の顔は黒髪黒目も相まってまるで人形のように可愛らしい。まあ、実際彼女はNPC。つまりは人形なのだが。
「私はこの狩猟神の神殿の巫女です。さあどうぞ中へとお入りください。」
巫女が俺たちに背を向けて歩き出すと同時に俺たちも巫女の後を追って歩き出す。
「御使い様は灯台守の彼女に会ったのですね。」
神殿の中は神殿と言うよりは神社と言うべき場所で、道中には鳥居もあれば石畳も敷かれていた。何よりも時折落葉するモミジが良い雰囲気を醸し出していた。
「彼女は死してなお灯台の灯を守りきれなかった無念からあそこに留まり続けています。」
巫女は俺たちを神殿の奥へと案内しながらゆっくりと話し始める。
「本来ならば灯を盗んだ犯人が目の前に居る以上、私が灯を取り戻すべきなのでしょう。」
少しずつ奥に頂上が明るく輝いている巨大な樹が見えてくると同時に社の様な物が道の先に見えてくる。(ちなみに現在時刻は深夜である)
そして、境内に入ったところで巫女は足を止めて俺たちの方を向く。
「しかし私の力では奴に敵わなかった。お願いします。どうか奴を打ち倒して灯を取り戻してください!」
巫女が俺たちに向かって頭を下げる。
そして巫女が頭を下げると同時にイベントが終了したためなのか体の制御権が戻ってくる。
さて、どうしようか。
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「とりあえず、ユフさんに西の森の抜け方とボスに関する情報を渡すべきだと思います。」
イベント終了直後にミカヅキとこれからどうするかを話し合ったところそう言われた。
「まあ、やっぱりそうだよな。その後はPT解散して個別行動か?」
「ええ、それでいいと思います。」
俺はミカヅキの提案を受け入れてユフとフレンド機能による通信を行う。
「もしもしユフか?」
『ヤタか。いきなり通信なんてかけてきてどうした?』
「ちょっと伝えたい事があってな。」
挨拶もそこそこに俺はユフに西の森の抜け方とベノムッドについての情報をかくかくしかじかと伝えていく。
『姿を見ないと思ったら何時の間に……』
「ああ悪い悪い。とりあえず信頼できる所には伝えておいてくれ。それで俺たちが居ない間に西の森以外の攻略はどうなったよ。」
『ああそれだがな。』
今度はユフが攻略の現状を伝えてくれた。
まず丘陵地帯については俺たちが発見したような岩がいくつも発見され、≪解読≫というマイナーなスキルで少しずつ解析が進んでいるそうだ。また灯台のイベントに関してはPT全体で武器系スキルレベル5以上のプレイヤーと職人系スキルレベル5以上のプレイヤーがいればいいのではないかと言う結論が出されている。
次に東の海岸のボスは今朝討伐され、東の海岸と砂浜が繋がっているのが確認されたそうだ。その為今後は砂浜の探索に重点が置かれるそうだ。
最後に北の山に関しては未だに頂上……というか深部へとつながる道が分からずに探索が難航しているらしい。
ちなみに生産に関しては職人系スキルをレベル15まで上げれば次のイベントが起きるのではないかと言われているそうだ。
『まあ、そういうわけだし。とりあえずお前らはそのままそこの攻略を進めればいいんじゃねえか?』
「だな。新しい素材も色々手に入りそうだしそうさせてもらうわ。」
と言ったところで情報交換も完了して俺は通信を切る。
「どうでしたか?」
ミカヅキが通信を終えた俺に通信の内容を聞いてくる。なので俺はユフとの通信内容をかみ砕いて伝える。
「なるほど。では今後ここの攻略で苦戦するまではソロに戻るでいいかもしれませんね。」
「ま、そうなるな。」
と言うわけで俺はミカヅキとのPTを解散する。
「では頑張ってくださいね。ヤタ。」
「お前もな。ミカヅキ。」
そして俺たちは別れて行動を開始し始めた。
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さて、別れた所でここ狩猟神の神殿に存在する設備の確認である。
まず、神殿の中にはいつも通りのプライベートエリアにポータル。それに死に戻りの復活ポイントが設置されている。
まあここは早々変わるところでもないよな。
で、神殿の外には2つのゲートに、くじ引き。それに水場を含めたいくつかの採取ポイント。後は巫女さんが立っている。
ゲートに関しては俺たちがやってきた西の森へのゲートと、巫女さんの言う灯を奪った敵がいると言う新エリアに向かうゲートが設置されている。
採取ポイントに関しては水場では狩人の水という今までの水よりもワンランク高そうな水が取れ、それ以外の場所でもモミジなどが拾えた。モミジの方は何に使うのか分からんけど。
さて、気になるのはおみくじである。説明によれば魔物銅貨一枚で一回おみくじを引くことが出来、引いたおみくじの種類によって一定時間特殊な支援効果を得られるそうだ。
で、具体的な効果を巫女さんに確認した所こう言われた。
大吉:2時間スキルのレベル上昇速度150%
吉:2時間スキルのレベル上昇速度130%
末吉:2時間スキルのレベル上昇速度110%
凶:2時間スキルのレベル上昇速度90%
大凶:2時間スキルのレベル上昇速度75%
ちなみにどのくじも出る確率は等しいそうだ。となるとえーと期待値は……上昇速度111%か。これは普通に美味しいと判定してもよさそうだな。
新エリアに向かう前に引いておこう。
「さて、それじゃあ武器の修理をしたら一眠りしてその後に新エリアに向かってみますか。」
そして設備を一通り確認した所で俺はプライベートエリアに入った。
巫女さん!巫女さん!