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46:VS紫葉樹-2

「さて、再戦だな。」

「ですね。」

 夜。俺たちはインスタントポータルを利用して再び西の森のボスゲートの前に来ていた。ボスゲートの色は昨日と同じ紫色である。


「じゃあ、戦闘前にこれを呑んでから挑むとしますか。」

 俺とミカヅキは懐から血清酒(祝福草漬け)を取り出して一気呑みする。

 これで15分間は気休め程度だが毒になる可能性が下がる事になる。


「では行きましょう。」

「おう!」

 そして俺はミカヅキに続いて武器であるコヒツジジュウジを握りしめつつボスゲートをくぐった。



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「ブモオオオォイォォォ」

 ゲートをくぐった俺たちの前で紫葉樹が目を見開いて叫び声をあげると同時に戦闘が始まる。


「ブモッ!」

 既にミカヅキの姿は確認できず、紫葉樹は俺に向かって腕の葉っぱを飛ばしてくる。


「さて、始めますか。」

 俺は余裕をもってその攻撃を躱すと、左手でアイテムポーチから石ころを取り出して紫葉樹の口の中に向かって投擲する。

 当然だが、この程度の攻撃では紫葉樹は極々わずかなダメージしか受けない。

 だがそれでも何度も何度も紫葉樹に向かって俺は石ころを投げ続ける。

 そして紫葉樹がそんな俺の攻撃を煩わしく感じ、口を開いて舌を飛ばそうとした瞬間……


「【スイングサークル】」

「ブモォ!?」

 ミカヅキの戈が紫葉樹の目に突き刺さって行動がキャンセルされる。

 しかし紫葉樹は不意の一撃を受けても冷静にカウンターとして身体を揺さぶろうとする。

 ここで体を揺さぶられれば前回の様にミカヅキが逃げ切れるかどうかは五分五分だろう。だから、


「【ハウリング】『ウオオオォォォン!』」

 俺が【ハウリング】で強化された大声によってその動きを一瞬だけ止め、その一瞬のおかげでミカヅキは余裕をもって揺さぶりとそれに伴う落葉の範囲外にまで逃げ延びる。


「ヤタ!」

「分かってる!」

 ミカヅキが俺の移動方向とは反対方向に移動し始めるのを確認すると同時に俺は再び石ころを紫葉樹に向かって投擲し始める。

 やはりダメージは微々たるもの。だが、何十回もアウトレンジから攻撃され続けるのはやはりうっとおしいらしく、紫葉樹はこちらを向く。


「ブ……」

「させない。」

 そして、紫葉樹が攻撃しようとした瞬間に再びミカヅキが紫葉樹の急所である目玉に渾身の一撃を加えて怯ませる。


「『ハッ!どうした!こんな物かよ!!』」

 これが今回俺たち二人が紫葉樹を倒すにあたって考えた戦術。

 俺が≪投擲≫や≪大声≫それに祝福を使って紫葉樹のヘイトを稼ぎ、俺がヘイトを稼いだ結果として注意が逸れたミカヅキが急所に攻撃すると言うものだ。


 なぜこのような戦術を取るのか。それは俺たちのスキル構成の関係上これが最もダメージを稼ぎやすい戦術だからである。

 と言うのもミカヅキは隠密状態から急所に攻撃を行う事によって与えるダメージを飛躍的に伸ばすタイプ。所謂暗殺型のスキル構成であり、その長所を最大限生かすためには別の誰かが効率よくヘイトを稼ぐ必要がある。

 対して俺は≪投擲≫≪噛みつき≫≪大声≫など、俺本人としてはそう言う意図は無かったのだが、どちらかと言えばヘイトを稼ぎやすい構成となっており、ミカヅキを生かしやすい構成になっていたためにこのような戦術になったのである。


 で、ヘイトについてだが、これは和訳するなら敵愾心とでも言うべきもので、敵一体一体に設定されている値で、基本的にHASOのモンスターたちはよりヘイトを稼いでいるプレイヤーをターゲットにしやすい傾向にある。

 そしてヘイトはこちらが攻撃を当てると少し上昇し、祝福を含めた特殊な行動で大きく上がるように設定されているのだが、ミカヅキの持つ≪隠密≫はこのヘイトの上昇を抑える効果があり、逆に≪挑発≫というスキルを装備しておけばヘイトが上昇しやすくなるそうだ。


 それでまあ、それぞれの長所を生かす事を考えた結果が、俺がひたすら嫌がらせをしてヘイトを稼ぎ、ミカヅキがダメージを与えると言う戦術である。

 俺の武器がコヒツジジュウジになっているのもいざと言う時に【ヒール】でミカヅキを回復するとともにヘイトを稼ぐためであり、昼の内に大量の石を集めていたのもこのためである。


「ヤタ!」

「おっと!!」

 と、ここで紫葉樹が俺に向かって舌を伸ばしてきたのを間一髪で俺は避ける。が、今のでHPが1割ほど減っている。

 何と言うか前から思っていたがボスの攻撃力は本当に高いよな。まあ防御特化型以外なら基本は全て避けろ何だろうけど。


「ハッ!」

「ブモオオォォ!!」

 そして俺がちょっと考え事をしつつも続けて放たれた攻撃を避けた所で再びミカヅキが紫葉樹の目に戈を突き刺す。

 と、ここで紫葉樹は叫び声を上げながら枝を地面に突き刺す。


「ミカヅキ!」

「分かってます!」

 さて、前回俺たちを葬ったあの攻撃が飛んでくるようだ。

 ミカヅキが急いで紫葉樹から距離を取り、俺もいつでも動けるように体の準備を整えておく。


ドン!


 紫葉樹近くの地面から枝と根っこが突き出される。


ドン!


 それが地面に引き戻されるとさほど間を置かずに次の枝と根っこが突き出される。

 だが、まだ動く必要は無い。紫葉樹のこの攻撃には一定のパターンがある。だから、


ド……


「今だ!」

「!」


ン!!


 それを理解していれば必ず避けられるし、


「オラァ!」

「【スイングサークル】!」

 突き出された根っこと枝は格好の的となる!


「ブモオオワアアアァァァ!?」

「やはり急所扱いのようですね。」

「そりゃあ攻撃されると思っていない場所に攻撃されればそうなるだろ。」

 俺たちの攻撃が命中した紫葉樹は今までよりも明らかにもがき苦しんでいる。

 ただまあ、やっぱり血清酒は呑んでおいて正解だな。手近な所に出て来たのが根じゃなくて枝だった場合攻撃しようとしたところでどうしてもあの葉っぱに触れることになるから、呑んでおかないと多分毒を喰らう事になる。


 と、ミカヅキは運悪く毒を受けてしまったのか毒消しらしき薬を使っている。まあ、所詮は-30%だからな過度の期待はやはり危険か。

 何にせよ。


「このまま攻め切ります!」

「おう!」

 紫葉樹に奥の手が無ければ後は地道に削りきるだけだ!



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「やはり……ボスはタフです……ね!」

「ブモオォ!?」

 ミカヅキが何十回目かの急所攻撃を行う。

 さすがに火力役が一人では時間がかかるのはやむを得ないようだ。


「だが、確実に動きは鈍くなってきてる。【ストライクスロー】!」

 俺が【ストライクスロー】で石ころを投げつける。

 おまけに戦闘が長時間になってきたせいであれだけ確保しておいた石ころも底が見え始めている。


「ブモッ!」

「くっ!?」

「【ヒール】!」

 紫葉樹がその腕を振るってミカヅキを吹き飛ばし、俺は空中に居るミカヅキに【ヒール】を発動して回復する。


「いけるか!」

「はい!」

 地面に着地したミカヅキが走り出すと同時に、【ヒール】で俺へのヘイトがミカヅキへのヘイトを上回ったのか紫葉樹がこちらに向けて口を開ける。俺は【ヒール】を使った関係でまだ動けない。


「くっ!!」

 俺はやむを得ず勢いよく放たれた紫葉樹の舌をコヒツジジュウジで受け止めるが、俺は紫葉樹に向かって引き寄せられる。


「ヤタ!」

「気にするな!決めちまえ!!」

 俺は空中に居る状態で俺を心配するミカヅキに声をかける。

 するとミカヅキは俺の目の前から完全に姿をくらます。

 そして、


「これで終わり!【スイングサークル】!!」

 紫葉樹の目の前に現れたミカヅキが無防備な紫葉樹の目に向かって戈を勢いよく突き刺した。


「ブモオオオオオオオオオオオオオォォォォォ……」

 ミカヅキの渾身の一撃を受けた紫葉樹は一際大きな叫び声を上げる。

 俺とミカヅキはその声に一瞬まだ終わらないかと思って身構える。だが、続く光景に構えを解く。

 なぜなら紫葉樹はその紫色の葉をゆっくりと散らしていき、枝は萎れ、幹は目と口を大きく開いた状態で石化したからである。

 つまり、


「倒した……んですよね。」

「ああ……倒したんだ。俺たちが倒したんだ!」

 俺たちの勝利である。


「やりましたあああぁぁぁ!!」

「うおっしゃああぁぁぁ!!」

 そして俺とミカヅキはお互いに武器を頭上に掲げて互いの健闘を讃えると共に紫葉樹からアイテムを剥ぎ取って西の森から新たなエリアへと続く門をくぐるのであった。



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取得アイテム(ヤタ)

ベノムッドの葉×5

ベノムッドの枝×3

ベノムッドの舌×1

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Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.8 ≪メイス職人≫Lv.5 ≪握力強化≫Lv.6 ≪掴み≫Lv.7 ≪投擲≫Lv.8 ≪噛みつき≫Lv.8 ≪鉄の胃袋≫Lv.5 ≪筋力強化≫Lv.6 ≪嗅覚識別≫Lv.6 ≪大声≫Lv.7 ≪嗅覚強化≫Lv.4 ≪方向感覚≫Lv.3


控え:≪酒職人≫Lv.6

▽▽▽▽▽

補助役なヤタでした。


08/28 タイトル訂正

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