<< 前へ次へ >>  更新
45/249

45:王都ミナカタ-8

「見事に戻されましたね。」

 王都の神殿の床に倒れて天井を見ていた俺に先に死に戻りしていたミカヅキが俺を見下ろしながら声をかけてくる。


「まあな。で、これからどうする?」

「そうですね。とりあえず……」

 ミカヅキが手を伸ばしてきたので俺はそれを掴んで立ち上がる。


「食事に行きましょうか。」

「だな。」

 そして俺たちはいつの間にかだいぶ減っていた満腹度を回復するために料理街に向かう事にした。



---------------



「で、単刀直入に聞くが。ミカヅキはもう一回アイツに挑むつもりなのか?」

 俺たちは料理街に存在しているNPC経営のレストランに来て、ハンバーグをオカズにご飯を食べながらミカヅキにもう一度紫葉樹に挑むのかを聞く。


「勿論です。言っておきますが私はボスを倒すまでは情報を流す気もありませんよ。」

 ミカヅキがワインを呑みながら、俺の言葉に厳しい視線を向けながらそう答える。


「俺もそのつもりだからそんな風に睨むなっつうの。」

「なら構いません。」

 なんて言うか意外とミカヅキって負けず嫌いと言うか意固地と言うか……ツンデレ?


「……。」

 うっ……何故かすっげえ勢いで睨まれてる。

 そう言えば、ミカヅキって外見は中学生ぐらいのくせしてこうしてワインとか飲んでるってことは俺と同い年かそれ以上って事になるんだよな。


「ヤタ……?」

 イカン!?この話題は心の中に出すだけでもヤバそうだ。


「で、ヤタ。挑むなら私は明日の夜にでも挑みたいと思っているのですが。」

「その時間を選ぶ理由は?」

「単純に今回戦ったのと同じ感覚で戦える。と言うのもありますが、私の所有しているスキルに≪月の加護≫という夜間全ステータスが上昇するスキルがありますし、≪隠密≫も夜の方が効果が高まりやすいですから。」

 なるほどな。そう言う理由なら納得だ。

 以前の西の森での行動を考える限り、夜間戦闘に必要なスキルも所有しているだろうし、それなら夜の方が昼よりもむしろ戦いやすいか。


「ヤタも夜間戦闘は問題無いはずですから、異論がなければ次の夜でいいですか?」

「了解だ。なら今からボス戦用の戦術を立てた後一度寝て、それぞれあのボス対策になりそうなアイテムを昼の内に集めておくか。」

「ですね。」

 そして俺たちは食事の代金を支払うとボスとどうやって戦うかを決めつつ、今更ながら連絡の為にフレンド登録もして神殿へと戻るのであった。



-----------------



 昼。

 さて、ここからは神殿への帰り道にミカヅキと話し合い、必要であろうとされたアイテムを回収することになる。


「と言っても俺の場合は作れる可能性が結構あるんだけどな。頼もう!」

 で、俺はアイテムポーチに使えそうなアイテムを入れて職人街の≪酒職人≫の店まで来ていた。目的?言うまでもない。


「おっ、この前のひよっ子か。と言ってもひよっ子は卒業したようだな。」

「まあ、≪酒職人≫Lv.6だからな。」

 地味に酒を造り続けてレベル上がってんだよな。俺。


「で、ウチの設備を使いたいのか?」

「そう言う事。使うのにお金とか必要か?」

「レンタル代として1分1獣石貨だな。ただ使う前にちょいと試験をさせてもらうぞ?」

「試験?」

 うおう。レンタルするのに金がかかる上に試験もあるのか。


「と言ってもそんなに難しい話じゃない。レア度3以上の酒を造って俺に見せてくれればいい。そうすればウチの設備を使わせてやろう。」

 レア度3以上?あー、それなら……


「これでいいのか?」

 俺はアイテムポーチから適当なお酒を取り出して見せる。

 レア度3以上のお酒なら丘陵地帯のモンスター素材を使えば大抵作れるからな。拍子抜けだ。


「早いな。もう造って来たのか。いいだろう、これからはウチの設備を使いたいときは金を払えばいつでも使っていいぞ。」

 ≪酒職人≫の店の店主が驚いたような表情を見せながら道を譲ってくれる。

 というわけで俺は店主に魔物銅貨を一枚渡して店の中に入った。



----------------



わいわい。がやがや。どんどんどん。


 店の中はNPCだけでなく、多くのプレイヤーが歩き回り、作業をしていた。また、情報交換も行われているのか時折自分たちで作ったお酒を呑みながら何かを話し合っている姿も見られる。


「と、100分しか居られないんだし。急がないとな。」

 と、ここで俺は100分しか居られない事に気づいて急いで自分の作業スペースに移動する。


「ええと、ビッグバットの血に薬草を加えてっと。」

 俺はいつもの様に出て来た櫂を持ち、桶の中にビッグバットの血を入れ、そこに薬草を加えてかき混ぜる。


「ん?」

 そしてそこで俺は気づく。


「お、お?」

 普段神殿でやっているよりも明らかに櫂が動かしやすく、要求されるタイミングも動きも難易度が低い事実に。

 恐らくだがこれが設備の差と言うものなのだろう。

 うーむ。ここまで差が有ると割と真剣にそっち方面の職人の手を借りて自分専用の生産設備が欲しくなるな。


 まあ、それはともかくこんな酒が完成した。


△△△△△

血清酒 レア度:2 重量:1


ビッグバットの血に含まれる毒素を薬草の効果によって反転させたお酒。

呑むと満腹度+1% 5分間毒を受ける可能性-20% 極低確率で酔い。

▽▽▽▽▽


 まさに毒を以て毒を制すと言う感じである。

 ただまあ流石に効果時間が5分間ではボス戦で使うには心もとないので、これをさらに強化する。


「と言っても追加で薬草、祝福草、夜光茶の三つの内いずれかを漬け込むだけだけどな。」

 俺は独り言を呟きながらも残り時間が少ないのを見て作業を急ぐ。

 そして納得できる出来の物としてこれが出来上がった。


△△△△△

血清酒(祝福草漬け) レア度:3 重量:1


血清酒に祝福草を漬け込んだお酒。反転して抗毒能力を有するようになった効果がさらに高まっている。

熟成度:漬け込み直後

呑むと満腹度+1% 15分間毒を受ける可能性-30% 極低確率で酔い。

▽▽▽▽▽


 うん。これだけの物なら紫葉樹との戦闘にも使えるだろう。

 ついでに漬け込みが進んだらどうなるのかを見るためにも同じものを2,3本作っておく。

 と、ここで


ポーーーーン!


『ヤタ様。レンタル終了時間まで残り3分になりました。退出準備をお願いします。』


 と言うアナウンスが流れ、俺は外に出ていくのであった。

 さて、後は王都の外で集められるだけ石を集めておかないとな。


 ふっふっふ。さあ首を洗って待っているがいい紫葉樹よ。必ず貴様を討ち取ってやろうじゃないか。

今回より12時投稿となりました。

今後もよろしくお願いいたします。


08/28 誤字訂正

<< 前へ次へ >>目次  更新