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43:西の森-7

「しかしこれ明らかに正式ルートじゃねえよな。」

 俺とミカヅキはひたすらに西の森の中を歩き回っていた。


「ですが、情報不足の現状ではこれしか方法がありません。」

 出現する敵は全て無視し、方角を確認してから少し歩いては立ち止まり再び方向を確認してひたすら西へと向かう。


「まあそうだよな。というか夜までに抜けないとかなりヤバそうだ。」

 しかし、西の森を抜けることは出来ない。俺たちの予想通りに西の森には一部でループ地点が設定されていたからだ。


「そうですね。ビッグバットの大群に襲われるのは御免です。」

 ただ、少しずつ進むことは出来ている。

 俺の≪方向感覚≫のおかげでループによって強制的に向いている方向を変えられた際にそれを感知することが出来るからだ。


「うっ……」

「どうしました?」

「また戻されたっぽい。」

「又ですか……」

 と、いつの間にか俺の向いている方角が西から南東に変わっていた。どうやら再びループ地点に踏み込んでしまい、俺たちは西の森の何処かに飛ばされたようだ。


「早い所辿り着けるといいんだけどな……」

「でも法則性も何も今のところ見当たらないんですよね。」

 俺とミカヅキはため息を吐きながらも再び西を向いて歩きだす。

 地道なトライ&エラー。そしてセーフティポイントを始点とした道筋の暗記。これでどこまで行けるかは分からないが、とにかく時間はかかりそうだ。



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「少しずつ進んでいるとは思いたい。」

「気持ちは分かりますけど足を止めないでください。」

 あれからさらに数時間経過。未だに俺たちは西の森を彷徨っているが、徐々に日が暮れ始めている。

 そして日が暮れ始めたためなのか、それとも俺たちが奥地に足を進めているためなのか人影は確実に減ってきており、ここ数十分は誰ともすれ違っていない。


「これで新モンスターでも出れば確実に奥に進んでいると分かるんだけどな……。」

「採取できるアイテムにも変化が欲しいですよね……。」

 しかし一向に風景もモンスターもアイテムにも変化は見られない。


「これ。まだ満たしてない条件があって通れない。ていう形だと思うか?」

「私はあまりゲームに詳しくないので何とも。ただ、そう言うのなら条件を満たしていないと分かり易く示してくれる気もしますが。」

「だよなぁ……。」

 ミカヅキの意見に俺は同意を示す。確かにここで絶対に進めないのなら何かしらの情報は飛んでくるよな。

 そもそも最初に西の森に来た時もメッセージの様なものは流れなかった。

 で、灯台のイベントのおかげで通れるようになった場所があるなら、その場所に到達した所で何かしらのイベントが起きる可能性はある。

 しかしまだ俺たちは何のイベントにも遭遇していない。となると最初のイベント地点にもまだ到達していない可能性が高いか。

 となるとだ。


「何かしらのヒントを見逃している可能性がやっぱり高そうだな。」

「恐らくはそうですよね。」

 俺たちは何かを見逃していて、その何かの先にイベントがあるとみるべきだろう。


「一先ずセーフティポイントに戻りませんか?そろそろ日が暮れそうです。」

「だな。」

 そして日が暮れそうになったために俺たちはやむを得ずセーフティポイントに戻るのであった。



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「やっぱり多少は人が居るな。」

「ですね。」

 セーフティポイントに戻ってきた俺たちの前には攻略組と思しきプレイヤーたちが何人も休憩していた。


「お、アンタたちも攻略組かい?」

 プレイヤーの一人が俺たちに話しかけてくる。


「ああそうだが。アンタたちもか?」

 俺はミカヅキが≪隠密≫を使って姿を隠したのを確認した所で話しかけてきたプレイヤーに返事をする。

 ミカヅキが姿を隠したのは面倒事を避けるためだろう。


「まあな。で、何か収穫はあったかい?」

「何も無いな。精々西の森にはプレイヤーを惑わせるための仕掛けが満載されているのが分かったぐらいだ。」

「ん?どういう事だ?」

 俺はここでこいつらにこの情報を話してもいいかどうかを考える。

 と言ってもまあ今は情報不足だしな。話すしかないか。


「西の森にはループエリアが設置されているみたいでな。気が付いたら戻されていたってことが今日一日結構あったんだよ。≪方向感覚≫を使って確かめたからまず間違いないと思う。」

「かああぁぁ……マジでか。そりゃあボスゲートが見つからないわけだ。」

 攻略組のプレイヤーが顔に手を当ててあからさまに落ち込む。

 まあ、ただでさえ情報が無い状態でループまであると分かればこんな気持ちになるよな。


「とりあえず貴重な情報ありがとうな。」

「ま、お互い様ってことだよ。」

 そう言って攻略組のプレイヤーは去っていく。恐らく仲間たちにも同じ情報を伝えるつもりなのだろう。


「ヤタ。」

 と、ここで姿を消していたミカヅキが姿を現す。


「どうした?」

「もしかしたら今回の件は時間……というよりも明度の問題かもしれません。」

「?」

「こっちに来てください。」

 訳が分からない俺の手をミカヅキが引き、俺たちはセーフティポイントの外に出る。


「おい、ミカヅキ。早いところ戻らないと森中からビッグバットが……って何だこれは!?」

 夜の西の森は大量のビッグバットが出現するため、他の夜のエリアに比べて格別に危険なエリアだ。ミカヅキもそれを知っている。だから俺はいち早くセーフティポイントに戻ろうとしたのだが……その前に以前見た夜の西の森とは明らかに違う点に気づいてその足を止めた。


「恐らくですが、これが灯台のイベントの影響です。」

 俺の目には空中で微かに光る物体が見えている。こんな物は以前の夜の西の森には居なかったはずだ。


「追うか?」

「追いましょう。」

 そして、その光は森の奥へと向かって一定の間隔でずっと移動し続けている。

 ヒントも何もない状況。ならば今の俺たちに出来るのはただ、この光を追い続ける事だ。



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「クソ!ビッグバットがうざすぎる!」

 俺は光を見失わない様に移動しつつ、突撃してきたビッグバットを叩き落とす。


「もうすぐ広場です!先に入っておかないとまた見失いますよ!」

「分かってる!」

 ミカヅキもビッグバットに戈を突き刺して倒しながら光を追っている。

 この光を追い始めてからループで戻されることは無くなった。

 だが、この光は厄介な事に他の光源があるとすぐに見えなくなり、おまけに意外と移動スピードも速い。おかげで月明かりが射し込むために普段なら戦いやすい広場は今となってはむしろ出来る限り来ないで欲しい場所になっていた。


 と、そこで俺は俺とミカヅキに襲い掛かっているビッグバットに向かって石ころを【ストライクスロー】で強化した≪投擲≫で投げつけて動きを止め、二人で広場の中に入り、急いで周囲の森の中を見回す。


「アッチです!」

「分かった!」

 そしてミカヅキが光の移動先を見つけて再び駆け出し、俺もそれに追従する。



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「これは……」

「当たり……だな。」

 その後、次々飛来するビッグバットを振り切って走り続けた俺たちの前にさっき見たセーフティポイントとは違うセーフティポイントが見えてきた。

 そこは広場のようになっていて、周囲には木々が壁の様に連なり、中心には石で出来た塔が立っている。そして広場を抜けた先に見えるのは紫色のオーラを纏った二本の岩。間に走っているのは岩のオーラと同じ紫色の線。

 間違いなくボスゲートだった。


「この石の塔は……インスタントポータル。だそうです。」

 ミカヅキが石の塔に触ってそんな事を言う。


「どうやら、インスタントポータルは一個だけワープ先として設定しておくことが出来る特別なポータルみたいですね。」

「なるほどな。という事はここで一度歩いて戻り、態勢を整えてからここに直接飛んでボスに挑むことも出来るわけだ。」

 俺もインスタントポータルに近づいて触れてみる。すると中から黄色い光が溢れだし、インスタントポータルに関する注意点と使い方が表示される。

 どうやらインスタントポータルには先程ミカヅキが言ったポータル機能の他にも預ける事しかできないがアイテムボックスとしての役割もあるらしい。


「それじゃあミカヅキ。」

「ええ、多少眠いですが。」

 さて、せっかくここまで来たのだから。


「挑もうか!」「挑みましょう!」

 ボスに挑んでみるべきだろう!


△△△△△

Name:ヤタ


Skill:≪メイスマスタリー≫Lv.8 ≪メイス職人≫Lv.5 ≪握力強化≫Lv.6 ≪掴み≫Lv.7 ≪投擲≫Lv.7 ≪噛みつき≫Lv.8 ≪鉄の胃袋≫Lv.5 ≪筋力強化≫Lv.5 ≪嗅覚識別≫Lv.6 ≪大声≫Lv.5 ≪嗅覚強化≫Lv.4 ≪方向感覚≫Lv.3


控え:≪酒職人≫Lv.6

▽▽▽▽▽

ループ突破です。

≪方向感覚≫についてはこれからも活用されます。


08/26 少し改稿

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